『ハード・コア』山田孝之 単独インタビュー
勝手な使命感は多少ある
取材・文:高山亜紀 写真:日吉永遠
次々と名作を生み出している山下敦弘監督とタッグを組み、山田孝之が愛読書「ハード・コア 平成地獄ブラザーズ」を実写映画化。世間にうまくなじめず、不器用に生きる男たちの友情物語。山田は埋蔵金発掘に勤しむアウトローの右近として主演しているほか、プロデューサーも兼ねている。ユニークな活動で続々と話題を提供し、日本映画界を活気づけている山田が考える、原作と映画の理想の関係、俳優におけるプロデューサー業とは……。
友だちに勧めるような感覚で映画化を望んだ
Q:右近役を「自分で演じたい」と思った理由を教えてください。
原作を読んで、話や展開が単純に面白いなぁと思ったんです。実は僕が知った時にはもう絶版になっていたので、「こんなに面白いものがあるんだよ」って、友だちとかに勧めるような感覚です。右近の言っていることや生き様に対してもそう。「こんな面白い人がいるよ。みんな、見てみて!」って感じです。
Q:10年前に最初に読まれたそうですが、魅力を感じるところに変化があったりしましたか?
作品の魅力は変わってないです。映画もちゃんと「ハード・コア 平成地獄ブラザーズ」になっていると思います。
Q:読者として読んでいた時と、演じるにあたり原作として読むのはまた違う感覚ですか?
読むことと演じることは全く違うので、面白いなと思っていたけど、演じるのは何でこんなに難しいんだと感じました。右近は顔があんまり変わってなくて統一されているから言っていることや、やっていることが矛盾していても、右近として見えるんだと気づきました。原作は声もないですし、そこも難しかったです。
Q:無理と思うようなことは?
無理って言っても撮影は進みますから、どうやっていくかを考えるしかないんです。「この先、どう自分を鼓舞していくんだ?」「さっき、そばを食いたいと思ったから、じゃあ、どこのそばを食うかを考えよう」とか、そんな感じです(笑)。
実写化しないでいい漫画なんてない
Q:これまでもコミックが原作の作品に出演していますが、漫画を実写化する意義についてどう思っていますか?
漫画という静止画を、生きた人間が演じるわけですから、その違いは良くも悪くもリアリティーが出るところだと思います。
Q:どういうものなら実写化した方がいいと思いますか?
漫画もすごい数ありますし、映画も監督によって、色も変わってきますから、それぞれだと思いますけど、しない方がいい作品はないと思います。できるのであれば、すればいい。ただ、するのは難しいですけど。
Q:難しい方がやりがいを感じますか?
そういう風には思ってないです。どっちにしろ、同じだけ難しさはあります。原作があると既にビジュアルが決まっているけど声はない。そこにギャップが生まれたりする。でも、ビジュアルのない小説を映画化するとなると、そっちの読者の方が100人いたら100人が違う主人公の顔を想像している。オリジナルで作るとなったら、どこを主軸として動いていくのかという問題がある。大勢で作ると違う意見の人もいるから、ブレたりもする。一方で、原作は認知されているけれど、ファンもいるし、原作者の意向もある。台本を作って、「それはいいけど、これはダメ」ということももちろん出てくる。どちらにやりがいがあってどちらが難しいとか、それはそれぞれにあると思います。
右近と左近そのものの佐藤健との関係性
Q:親友、牛山役の荒川良々さん、弟の左近役の佐藤健さんなど、キャスティングは山田さんのリクエストですか?
僕が言い出しっぺではないです。「荒川さんはどうでしょうか」「いいですね。最高です。それ以外、考えられないです」「佐藤健さん、どうですか」「あ、確かにぴったりだ!」という感じでした。別の作品だったとしても、僕の一存ですべてを決めることはないです。みんなで話し合って、バランスなど、いろんなことを考えますし、あとは本人の意思、事務所の意向もありますから。
Q:例えば、佐藤さんのどこがぴったりだと思ったんでしょうか?
左近って、頭がよくて賢く生きることができる人。健もまさにそうだし、あとは右近と左近の関係性が割と僕と健の関係性に近いんじゃないかと僕が勝手に思っているんです。顔の造形が似ているわけでもないのに、似て見えるというか兄弟に見えるから不思議ですね。
Q:山田さんと佐藤さんの関係性とは?
健が本心でどう考えているかはわからないですけど、彼は頭がよくて実に器用に生きている。それは仕事選びとかを見ていてもわかります。組む相手、作品の出し方、順番……いろいろ見ていてそう思います。一方で、僕はたぶん世間の人たちから見てもそうでしょうけど、もう無茶苦茶にやっている印象があると思うんです(笑)。でも少なからず健はそこに対して、面白みを感じていたり、多少の憧れがあったりすると僕は思っています。そういうところもなんか、すごく役の設定と合っていると思うんです。
Q:無茶苦茶といいますが、後輩たちに大きな影響を与えていますよね。自分がやらなきゃと思っているところはありますか?
勝手な使命感は多少、あります。僕は今すごく楽しんで仕事ができているので、後輩たちも楽しんで仕事ができる状態になったらいいと思います。19年、俳優として生きてきた中で、プレッシャーとか不可欠なことももちろんありましたが、どれだけ深く考えてもこの労力は絶対必要ないと思うようなこともありました。いろいろやってきた経験があっての今ですけど、それでもやっぱりあるんです。重荷とは言わないですけど、これを少なくしてあげた方がもっと芝居に集中できて、きっといい芝居になって、いい役者が生まれて、いい映画になると思います。だから、僕がプロデューサーとして学びながら環境を整えることによって、みんなが気持ちよく仕事ができるようになるんじゃないかなと。
俳優業以外を手掛けるシンプルな理由とは
Q:ハリウッドでは役者がプロデューサーを兼ねるのは普通ですよね。
名前がクレジットされていないだけで、日本だってみんなやっていると思います。キャラクターについて監督や脚本家と話し合ったり、台本作りに加わったりして。
Q:クレジットした方がいいと思いますか?
した方がいいとは思わないですし、しないことが悪いとも思わないです。今回、僕は立ち上げからのプロデューサーではなくて、普通にオファーをもらって、右近を演じて、撮影が終わった後に、「プロデューサーとして、入りませんか」とお誘いをいただいたんです。なので、撮り終わった後の段階から、「ここから何ができるのか」ということをやってきました。
Q:山田さんが俳優業以外のこともやるのは、それだけだと飽きてしまうからということもありますか?
それはめちゃくちゃあります。コメディー、時代劇、ミュージカル……昔から、いろんな役をやっているのも、芝居という同じことをやっても飽きないため。飽きっぽいので、ドラマを1クールやっていると、つい次のことを考えてしまいます(笑)。
Q:プロデューサーをやることで、役者業への影響はありますか?
良くも悪くもあると思います。忙しくて時間がなくなっていくけど、違うところに脳を持っていくことによって、リフレッシュにもなっていると思います。
世の中をあっと驚かせる作品を提供し続ける山田孝之。その柔軟な発想には驚くばかり。なんと飲み屋で初めて会った人に相談されることもあるというから驚きだ。多くの後輩たちから慕われるのも納得できる。人に対して壁を作らず、誰にでも公平で、まっすぐ心のままに相手を捕らえることのできる人。大変なことを楽しんで挑戦していく姿にいつもたくましさを感じずにはいられない。『ハード・コア』の右近も惚れそうな本物の漢気アウトローである。
(C) 2018「ハード・コア」製作委員会
映画『ハード・コア』は11月23日より公開