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『斬、』塚本晋也×小島秀夫 監督対談 世界とつながる二大クリエイター

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 新作『斬、』の公開を迎える映画監督・塚本晋也と、ゲームクリエイター・小島秀夫監督が、久々の対面を果たした。塚本監督が反戦への思いを込めた渾身の一作『野火』公開から3年半。数多の苦難を経て小島監督が立ち上げた KOJIMA PRODUCTIONS で、二人が『斬、』を、そしてクリエイターとしての思いを語る。

映画『斬、』(11月24日全国順次公開)

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250年にわたる平和を経て、開国か否かで揺れる江戸近郊の農村を舞台に、浪人・杢之進(池松壮亮)と、彼と親しい姉弟ゆう(蒼井優)と市助(前田隆成)が、剣豪・澤村(塚本晋也)の登場を境に、時代の波に翻弄されていくさまを描く。

小島秀夫が観た『斬、』

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KOJIMA PRODUCTIONSにて、久々に顔を合わせた二人

小島秀夫監督(以下、小島):『野火』の対談でお会いして以来ですから、3年ぶりくらいですかね。

塚本晋也監督(以下、塚本):早いですねぇ。つい、この間お会いしたばかりだと思っていたのに……。時間がどんどん経っていってしまう。

小島:その間に塚本監督は新作を引っ提げていらして、僕はまだ新作(DEATH STRANDING)を作っているという(笑)。

塚本:いやいや、こちらの事務所(KOJIMA PRODUCTIONS)だって、ものすごいものだから、びっくりしました、エントランスなんて『2001年宇宙の旅』(1968)みたいで。

小島:そんな、入り口だけです。あそこを通ったらこの会議室みたく、普通ですから。

塚本:いや、これは相当なものですよ。(※実際、大勢のスタッフが働く開発スペースが奥に広がっている)。

Q(編集部):では早速、塚本監督の『斬、』を小島監督はどのように見られましたか?

小島:僕は、塚本監督研究家の一人。まぁ一言でいうと大ファンなわけですけど(笑)。その僕から見て、『斬、』は塚本監督にとって“フェーズ3”にあたる作品だと思いました。キャリア初期の塚本監督は、新しい物を作るため一度この世の中を破壊してしまおうとしていた。非常にロックな映画を作られていたと思うんです。

塚本:ええ、そうでしたね。

小島:『鉄男』(1989)ではその手段が“鉄”だった。それが『TOKYO FIST』(1995)でフィスト、“拳”になり、『BULLET BALLET バレット・バレエ』(1999)では“銃”になった。そうして、今ある物を壊そうとしていたのが “フェーズ1”です。そして『六月の蛇』(2003)や『ヴィタール』(2004)といった、肉体についての作品に向き合った。暴力や破壊から、“死”から“性”へと上がっていったのが“フェーズ2”で、僕も大好きな時期です(笑)。そして『野火』からが“フェーズ3”。

塚本:なるほど。

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時代の波に巻き込まれる杢之進は、人を斬ることへの疑問がぬぐえない

小島:暴力(死)の向こうにあるのは、“性”ではないか“命”ではないかときて、『野火』では反戦となった。そして『斬、』のオープニングは、刀鍛冶の場面……つまり“鉄”から始まります。塚本監督の歴史を紐解いているようです。鉄が熱され叩かれ、冷やされる。これが“拳”“銃”の過程。そして刀が出来上がり、刀をイメージさせるタイトルが出てくる。

塚本:あれはまさに、刀のつもりで書いたタイトルでした。

小島:すごくしっかりとしたステップを踏んでいるんですよね。塚本作品を観てきている僕らファンも、一緒に段階を上がっているように感じられる。ただ、同じフェーズ3だけど『斬、』は『野火』とも少し違う。『野火』は職業軍人ではない主人公が、行きたくなかった戦争で酷い目に合う様を捉えましたが、『斬、』は、オープニングの直後、木刀で戦う杢之進を映し出しますよね。つまり、刀を与えられながら、世の中が変わって使えなくなった人たちの話なんだと。刀を封じられた後で、彼らはどうするのかという。シンプルな反戦映画ではないですよね。

塚本:引き出しに仕舞いきれないほどのものを、さっそくいただいてしまいました。ここまで豊かな解釈のものをいただけるなんて。

小島:劇中の刀が象徴する物も、観る人によって変わるでしょう。軍人の方だと銃かなと思うでしょうし。それは、すごく頭がいいやり方だと思います。アメリカを中心に、軍隊が世界を守っているとされているこれまでの時代に通じる問いかけがありますね。

塚本:『野火』では、戦争体験者の方にお話を聞き、戦争に行くと恐ろしいことが起きるということを、これでもか! というくらいに描きました。『斬、』も延長線上にはありますが、もっと観ているうちに違和感を残すような映画にしたいと思ったんです。杢之進は劇中、澤村に京都の動乱に参加しようと誘われ、音楽も盛り上がっていきます。しかし、そうしたヒロイズム的な展開から、すっごく居心地の悪い方向に向かっていく。敵に向かっていた刃が、いつの間にか自分に向かって来ているような感覚といいますか。日本も徐々に、世の中が人を殺す方向に近づいていっているけど、大丈夫なのか? という問いかけはしているつもりです。

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監督・塚本晋也

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三人が遊ぶシーンは、劇中でもホッとする一幕

小島:杢之進たち三人と澤村が、竹とんぼで遊ぶシーンが素晴らしかったですね。皆さんすごく自然でしたけど、あれって普通に遊んでいるところを撮っていません?

塚本:実はそうなんです。セリフは入ってないのですが、僕も普通の世間話みたいに話していて。竹とんぼやる? 次はお相撲する? みたいに。カメラも自由に撮ってもらって。

小島:市助役の前田さんなんて、全く素でしたよね。素晴らしい表情でした、ちくしょう! と嫉妬しました。剣の猛者同志が仲良くなるきっかけが竹とんぼというのは、思いつきもしなかった。

塚本:そう言っていただけるのは、うれしいですね。

Q:塚本監督は、演出をしながら俳優としても出演されますが、使い分けのようなものはあるのですか?

塚本:監督・脚本・演出など、僕にとっては一つの塊のようなものなんです。現場でも、演技だけを見ているわけではなくて、そのシーンで、垂れている水の画が大事であれば、そちらを優先的に見ます。全体が、ひとつの塊なんですよね。

小島:全体的に塚本監督の作品は、主人公と女性の距離が離れていますよね。普通はドラマを作るときにはもっと男女をぶつけ合うと思うんですけど。

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主人公と女性の距離にも注目

塚本:女優さんに男性と比べて特別何か、ということはないのですけどね。ただ、女優さんに嫉妬心を感じていたことはありますね。『六月の蛇』(2003)のときなんかは、肉体の叫びを爆発させながら役をやっている女優さんがうらやましくて。

小島:塚本監督は演出をしながら出演もしているじゃないですか。それでも嫉妬するんですか?

塚本:実はそこもよくわからないんですよね。SMでいえば、僕がSをやってるけど、心ではM的に状況を楽しんでいる。両方が自分のなかにあって、役割分担で楽しんでいるのかなと。

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俳優・塚本晋也 MGS4の記憶

Q:小島監督は「メタルギア ソリッド4 ガンズ・オブ・ザ・パトリオット」で、敵役ヴァンプの声優として塚本監督を演出されました。

小島:こちらの要望に応えていただいたうえで、さらに上乗せをしてくれる。良い俳優さんだと思っています。本当は、新作にも出てほしかったんですけどね。

塚本:若い人なんかは、映画の前にヴァンプで僕を知って、そこから映画を観ました! っていうお客さんも多くて。本当にありがたい入り口を作ってくれたなと思っています。小島さんの演出ってすごく面白いんです。次は「うひゃー!」って感じでお願いしますって言われたり(笑)。

小島:それ、面白いのと違くて、アカン演出ですよ(笑)。

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MGS4への参加は塚本監督にとっても楽しい思い出

塚本:僕は、そういうのがすっごく嬉しかったんです。要望に応えようと思って僕もうひゃー! って言ったら、「次はドヒャー! でお願いします」って言われて、わかりました! って。

小島:塚本さん収録の途中、キャラを作るのにちょっと時間をいただけますかって言われていましたよね。

塚本:あれはキャラづくりじゃなくて、ちょっと貧血になってきちゃって(笑)。ずっと「うー!」「ハァー!」って言ってたから、ちょっとタンマと。それで貧血を治して、力を戻してからやるという(笑)。

小島:技術が進化したおかげで、今は生きている人の声や表情、演技までデジタルに持っていけますし、ある程度は後で直せてしまう。けれど、生きたものを壊してしまうことにもなります。なので、僕はなるべく現場で俳優さんの人生そのものを出したいと思ってるんです。塚本監督は、現場で俳優さんにキャラクターを変えてもらったり指示されることはあるんですか?

塚本:あまりないですかね。俳優さんを驚かせるようなことは。いつも気を使って気を使っていて、すみませんありがとうございますっていう感じでやってます(笑)。

Q:小島監督は、亡くなられた石川忠さんの音楽について、気にされてましたよね。

小島:そうなんです。石川さんの音楽はどうやってつけていかれたんですか?

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映画音楽もこよなく愛する小島監督

塚本:去年の春ごろにこの映画を作ろうと思って、石川さんにも快諾いただいていたのですけど、編集をしている年の暮れごろに亡くなられてしまった。ただ、どうしても実感がなくて。一向に後任探しもしなかったんです。編集中も自然と『鉄男』のころからの音楽をみんな聞いて、使えそうな曲を貼っていきました。

小島:しかし、そうした経緯で選ばれたとは思えないというか、聴いた瞬間に来た! っていう感じですよね。

塚本:あくまで『斬、』の音楽として使えるような選択をしていましたね。最後には奥様にお願いして、石川さんの部屋にあった未使用音源をいただいたり。冒頭の音楽もそうして見つけた物だったんですが、それが入ったことで急に映画が生き生きとしだしました。天国とのコラボレーションみたいな感じで、作業していると、石川さんの特徴のある声がはっきりと聞こえてくるんですよ。そんなことを半年くらいやってました。スペインのシッチェス映画祭で最優秀音楽賞をいただいて。今度、奥さんにトロフィーをお渡しに行こうと思ってます。

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“なわ”のつながり

Q:新作「デス・ストランディング」について小島監督は以前「“棒”の世の中で、お互いに殴りあったり中傷しあったり、そういう世の中だけど“なわ”のつながりを持ちたいという発想で作っている」と話されていました。『斬、』は不思議とこの言葉を思い起こさせる作品です。

小島:これは、安部公房の受け売りなんですけど、人間が進化の過程で嫌いな物を遠ざけるため“棒”という物が生まれました。一方で、大切な物をつないでおくために“なわ”が作られ、世界が作られた。でもゲームって、ずっと“棒”なんですよね。オンラインでつながるようになっても、銃や棒で、相手や共通の敵を倒したり戦うだけなので、そろそろロープのようなゲームを作りたいと思ったのが「デス・ストランディング」なんです。

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塚本晋也×小島秀夫つながりの大切さ

塚本:ちょうど『斬、』も、時間を逆行して、第2次世界大戦などで使用されたおびただしい数の兵器を一本の刀にして、よりシンプルに“棒”と人間の関係を見つめられると思って作ったんです。

小島:同時に、この映画の刀は一見、“棒”なんですけど、武士たちと過去とのつながりの象徴でもあります。だからこそ観たときに、自分が一生懸命作っている物と、コンセプトとして遠くないと思ったんですよね。

塚本:つながりの“なわ”というものも、すごく大事なことです。海外の映画祭なんかに行くと、どこの国の人とも仲良くなれて、つながりを感じます。それが当たり前のことなんですよね。

Q:お二方とも世界の塚本、世界の小島と言われる存在ですしね。

小島:世界のって、あれも言われたくないんですけどね(笑)。あれってなんなんでしょうね

塚本:そうですねぇ。何の世界のことなんですかね?

小島:みんな“世界”には住んでますから(笑)

互いに尊敬し合い、新作に全身全霊を傾けているクリエイター同士。意識することなく、同じ地平を目指していた2人の新作と共に、世界に愛される才能が、再び手を取り合う日が待ちきれない。

映画『斬、』は11月24日より渋谷ユーロスペースほかにて公開
(C) SHINYA TSUKAMOTO/KAIJYU THEATER

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