新世代メリー・ポピンズ!気高く儚いエミリー・ブラントの魅力
今週のクローズアップ
『プラダを着た悪魔』のあの娘がメリー・ポピンズに! 端整な顔立ちと、最先端ファッションから軍服まで完璧に着こなすスタイルを誇る、魔法の世界から抜け出してきたような女優エミリー・ブラントの魅力に迫ります。(編集部・入倉功一)
吃音症に苦しんだ10代
エミリーは1983年2月23日生まれの現在35歳。イギリス・ロンドンで、法廷弁護士の父親オリヴァーと、元女優で教師の母ジョアンナの家庭で、4人きょうだいの2人目として育ちます。
今でこそ堂々たる演技を披露しているエミリーですが、8歳のころから、吃音症に悩まされていました。症状はどんどん悪くなり、12歳のころには、話すことをやめてしまうほど。ネットメディア The Daily Beast で当時を振り返ったエミリーは「どうしてわたしだけうまくしゃべれないの? 何が悪いの? って思い続けていたわ。友達はそんなわたしを受け入れてくれたけど、そんな風に受け入れられることも嫌だった」と当時の心境を明かしています。
そんな彼女の助けになったのが、演劇クラス。当時の先生から、自分と違う人物を演じるため“北部なまり”で話してみるように言われると、吃音が消えた彼女。吃音症に打ち勝つため、ほかの生徒のさまざまなアクセントを聞いて改善に努めたそうで「昔からアクセントや人の話し方、イントネーションに魅了されていたの。しゃべるのが難しかったからでしょうね」と The New York Times 紙に語っています。
『プラダを着た悪魔』で大注目!
全寮制の学校で歌やチェロを学んだエミリーは、2000年に芸術文化の祭典エディンバラ・フェスティバルに参加し、エージェントと契約。2001年には舞台デビューを果たし、名女優ジュディ・デンチと共演し、2002年には「ロミオとジュリエット」でジュリエットを演じました。
彼女にとって、大きな転機になったのが2007年です。この年、エミリーはBBC のテレビ映画『ナターシャの歌に』(2005)とハリウッド進出作『プラダを着た悪魔』(2006)でゴールデン・グローブ賞のテレビ部門・映画部門の助演女優賞にダブルノミネート。見事にテレビ部門で受賞を果たします。
『プラダを着た悪魔』でエミリーが演じたのは、一流ファッション誌の編集部に入社してきた主人公アンドレア(アン・ハサウェイ)の同僚“エミリー”。鬼の編集長ミランダ(メリル・ストリープ)を相手に、日々あわただしく業務をこなす勝気な女性です。
ファッションに興味のないアンドレアを小馬鹿にする少し意地悪なエミリーですが、ファッションへの思いは本物で、夢はミランダに同行してパリコレに行くこと。しかし、土壇場でアンドレアがパリコレの同行者に指名され、自分は交通事故で入院するハメに。病院のベッドで泣きながらアンドレアを責める場面では、彼女の素直な人間性を表現しながらユーモアも付け加える、抜群の演技を見せました。
もちろん、最新ファッションを着こなし、アン・ハサウェイ相手に「あんたダサいわ」と言い放っても説得力抜群なスタイルにも注目。ちなみにエミリー、写真は修整をしない派で、PEOPLE.comに、素のままの自分を見てもらうことが必要な場合には、写真を直すことなんてしない! と語っています。
気高さと弱さが同居した魅力
『プラダを着た悪魔』のように、全身から漂う気品や気高さと、愛らしい弱さも見せる人間味とのギャップが、エミリーの魅力のひとつでしょう。
そんな彼女の“強さ”が炸裂している作品が、トム・クルーズ主演で日本のライトノベルを映画化した『オール・ユー・ニード・イズ・キル』(2014)。この作品でエミリーは、謎の侵略者“ギタイ”によって絶滅寸前に追い込まれた人類の希望となる女戦士リタを熱演しました。
リタは、人類を救うため、原因不明のタイムループに巻き込まれた主人公ケイジ(トム)に、死を厭わない過激な訓練を課す冷徹な女性。しかし、彼女の抱える重圧や優しい心根に触れたケイジは、次第に彼女に惹かれていくことに。まさに、気高さと弱さが同居するエミリーあってこその役だと言えます。ほっそりとした『プラダを着た悪魔』から一転して、徹底した肉体改造で手にした肉体美と、猛々しい軍服姿にも目を奪われます。
2015年には、メキシコ麻薬戦争を題材にした『ボーダーライン』に出演。麻薬カルテル全滅作戦に投入されるFBI捜査官ケイトを演じます。屈強な捜査官たちと共に奮闘する一方で、正義感からルール無用の捜査に苦悩する役どころで、ここでもエミリーの魅力が十二分に発揮されています。
一方で、いつも通勤電車の窓から見ていた人妻の不倫現場を目撃したのを機に、殺人事件に巻き込まれる女性を演じた『ガール・オン・ザ・トレイン』(2016)では、離婚の悲しみからアルコール依存症に陥る女性を熱演。依存症によって記憶が曖昧となり、自分が犯人ではないかと苦悩する女性の弱さを見事に体現してみせました。
夫婦二人三脚で大成功!
トムをはじめ男性スターの相手役を務めても、その存在感は抜群。『アジャストメント』(2011)ではマット・デイモン、『砂漠でサーモン・フィッシング』(2011)ではユアン・マクレガー、『LOOPER/ルーパー』(2012)ではジョセフ・ゴードン=レヴィットを相手にしながら、いずれも印象に残るヒロインを演じてみせました。
そんなエミリーですが、2010年に俳優のジョン・クラシンスキーと結婚しており、現在は2人の子を育てる母親でもあります。夫のジョンは、海外ドラマ「ザ・オフィス」で人気を集めましたが、主演として目立った作品はなく、日本でも“あのエミリー・ブラントの夫”と紹介されることもありました。しかし、俳優だけでなく監督としてのキャリアを積み、今年のスマッシュヒットとなったスリラー『クワイエット・プレイス』の監督を務め、話題を呼びました。
大規模な予算のないなかで彼を助けたのが妻のエミリー。音に反応して人間を襲う“何か”によって崩壊した世界で、子供を守りながら生きる夫婦役で、2人は共演を果たします。
まさに夫婦二人三脚で作り上げた本作は、製作費1,700万ドル(約18億7,000万円)に対して、全世界興行収入3億ドル(約330億円)を突破する特大ヒットを記録。ジョンの大出世作となりました。エミリーが演じたエヴリンは、2人の幼い子供を育てながら、音が出せない世界で出産を控える母親という役どころ。死の恐怖に直面しながら、子供を守るため必死に戦う、強さと人間味を兼ね備えたキャラクター。ここでも彼女の魅力が発揮されています。(1ドル100円計算)
メリー・ポピンズに大抜擢!
公私共に順調なエミリーの次回作が、1964年に公開された名作ミュージカルのおよそ半世紀ぶりとなる続編『メリー・ポピンズ リターンズ』(2019年2月1日公開)です。
1作目は、魔法使いのナニー(乳母)メリー・ポピンズとバンクス家の人々の心温まる交流を描き、アカデミー賞主演女優賞をはじめ、5部門で受賞した不朽の名作。もちろんエミリーは、かつてジュリー・アンドリュースが演じたメリーを演じます。
気高くも儚いエミリーの魅力は、厳しくも優しいメリー役にピッタリ。寄宿学校時代から学び続けた音楽の素養も、舞台やディズニーの大人気ミュージカル映画『イントゥ・ザ・ウッズ』(2014)で実証済みです。エミリーならば、1作目に負けないメリー・ポピンズを演じてくれるはずです。(編集部・入倉功一)