その友達の本名知ってる？

　SNSの急速な普及から、友達といえどもハンドルネームなどで呼び合い、素性を知らない関係性が当たり前となっている現在——。“本名も知らない友達”の死をきっかけに揺れ動く若者たちのリアルな心情を描いた岡崎京子のコミック「チワワちゃん」が、門脇麦、成田凌ら、若手実力派キャストを迎えて映画化されます。時代設定を1990年代から現代にアップデートして生まれた“新たな青春映画のバイブル”の見どころに迫ります。（文：くれい響）

気づいたら二度と会えなくなってた

　ある日突然、バラバラ遺体となって東京湾で発見された“チワワちゃん”。彼女は憎めないマスコット的存在として、若者グループの輪の中にいました。そんな彼女の友達だった主人公・ミキ（門脇麦）は、チワワについての取材を受けたことをきっかけに、「今知らなきゃいけない」と遊び仲間ひとりひとりに、改めて彼女との思い出を聞きに行きます。

　いつも一緒だったはずの彼らですが、それぞれの記憶の中には、まったく異なる印象のチワワがいました……。「俺らとチワワとの関係は、ゴールドラッシュみたいだった」「私たちの青春の自爆テロだった」と語る者など、登場する仲間たちそれぞれの目線によって、物語が語られていく群像劇であり、そのスリリングな展開に引き込まれていきます。

気づいたら友達になってた

　出会いは些細なこと。街で声をかけられてツルむようになったり、遊び人の男の新しい恋人として紹介されたり、そんなきっかけから友達関係は広がり、実は誰もチワワの本名すら知りませんでした。いつものクラブでミキたちのグループに新しく加わったチワワは、出会っていきなりアヤしい男たちから600万円を強奪して“遊ぶ金”を入手。若者たちは夜の街を疾走し、日夜パーティーを繰り返していきます。

　その姿は、まるで日本版『トレインスポッティング』×『スプリング・ブレイカーズ』。鳥肌が立つほど華やかでスタイリッシュに、原作を現代版にアップデートした脚色＆グルーヴ感を重視した演出を手がけたのは二宮健監督。20代の新進気鋭の映像作家が、現代社会における“青春の爆発”に鋭く切り込んでいきます。

気づいたら有名になってた

　SNSでの発言や投稿で生活が一変することもあり得る現代。Instagramがきっかけで一躍人気者となり、「10年後、20年後、きみはなにやってるかな？」と疑問を投げかけた有名カメラマンに惹かれ、街中の巨大ビルボードを飾る存在までになったチワワ。それまで天真爛漫の不思議ちゃんキャラだった彼女が「あたしねぇ　絶対いつかビッグになってやるんだ」と言うようになり、ミキにとって次第に遠い存在になっていくことを象徴するのが、ダンスフロアを独占するシーンです。

　徐々に仲間を巻き込んでいくチワワのダンスはそのキュートさのみならず、“彼女がもっとも好きだった曲”として流れるUKバンド Pale Waves の「Television Romance」との抜群のシンクロ率にしびれます。ディーン・フジオカのMVなどを手掛けてきた二宮監督の類まれなるビジュアル＆音楽センスがさく裂しまくり！　また、新世代バンドとして注目を浴びるHave a Nice Day!（ハバナイ！）の主題歌「僕らの時代」が流れるスナップショット風なエンドロールも印象的です。

気づいたら知らない顔があった

　“あの2人”が付き合っていたり別れていたり、金髪のチャラ男が黒髪に戻して就活していたり、はたまた知らないあいだにAV出演していたりと、少しのあいだ疎遠になっていただけで、友達同士でも知らなかった事実や変化が次々明らかに……。「『私たちって、これからもずっと会い続けるんだろうな』って思った時が、きっともう会わなくなるサインなんだよ」という言葉にヒリヒリとしながら、物語は心をつかまれるラストシーンへと展開していきます。

　ミキを演じる門脇麦をはじめ、成田凌、寛 一 郎、玉城ティナ、村上虹郎、松本穂香といった、今をときめく若手実力派キャストたちが集結！　さらに栗山千明、浅野忠信など、ベテラン陣が脇を固めます。そして、彼らの心の中で生き続けるキーパーソンとなるチワワちゃんには、オーディションによって期待の新人・吉田志織が大抜てき。大胆なキスシーンやラブシーンなど、体当たり演技にも挑戦しています。

　登場人物の誰かに自分や友達の姿を見つけ、重ね合わせながら、人生を考えさせられる『チワワちゃん』。そこには時代を超えてもなお、心に突き刺さるセリフとともに、「大人になるって、何？」という誰もが直面する永遠の疑問の答えが隠されているかもしれません。

映画『チワワちゃん』は1月18日公開

出演： 門脇　麦
成田　凌　寛 一 郎、玉城ティナ　吉田志織／村上虹郎
栗山千明（友情出演）／浅野忠信
監督・脚本：二宮　健
原作「チワワちゃん」岡崎京子著（KADOKAWA刊）
配給：KADOKAWA　R-15
公式サイト
(C) 2019『チワワちゃん』製作委員会