パルプ・フィクションの何がすごかったのか…!
提供:午前十時の映画祭
全国の映画館で、歴史的名作を上映してきた「午前十時の映画祭9 デジタルで甦る永遠の名作」で、ついに上映されるクエンティン・タランティーノ監督作『パルプ・フィクション』。第47回カンヌ国際映画祭でパルム・ドールを受賞し、その年のアカデミー賞でも脚本賞を受賞。1994年の初公開から四半世紀を過ぎても、色褪せることなく、世界中の映画ファンを魅了し続け、時代を超えて語り継がれていく、その理由とは? 生粋のオタク監督、タランティーノが随所に仕掛けた“クールさ”を含めて、改めて検証してみたい!(文:くれい響)
ヤバい匂いが漂う一本
1930~40年代に流行した短編犯罪小説が掲載された大衆向け雑誌へのオマージュを込め、その総称(パルプ)が付けられたタイトル。そして、雑誌の表紙を模して、ベッドにうつ伏せ状態のユマ・サーマンがタバコ片手に、こちらを睨むポスタービジュアル。いかにもヤバい匂いを漂わせながら、セクシーかつカッコいい。そんな洒落たセンスは、まさにクールそのものだ。
そして、ファミレスで強盗計画を企てる男女カップルを描くプロローグから始まり、ギャングの殺し屋・ヴィンセントとジュールスをめぐる3つのエピソード(「ヴィンセント・ベガとマーセルス・ウォレスの妻」「金時計」「ボニーの一件」)と続く、一筋縄ではいかないクライムストーリー。それらは、『座頭市』などの日本映画からも影響を受けたタランティーノ流バイオレンスやユーモアとともに展開されていく。
そこで映画ファンのド肝を抜いたのは、これらのエピソードを、時系列をバラバラにして描くという、じつに巧みな構成であった。当時としては、かなり斬新な手法であり、本作以降、クリストファー・ノーラン監督の出世作『メメント』を始め、さまざまな作品に影響を与えたのは言うまでもない。
落ち目スターの華麗な復活!
また、ヴィンセント役に当時キャリアが低迷していたジョン・トラヴォルタを抜擢したことも、センセーショナルな話題となった。彼が後に、『キル・ビル』シリーズのヒロインを務めるサーマン演じるボスの妻・ミアとともに、無表情でツイストをキメキメに踊る姿は、『サタデー・ナイト・フィーバー』で一世を風靡した彼へのタランティーノ流のリスペクトであると同時に、どこか滑稽であり、本作のクールさをもっとも象徴するシーンである。そして、本作を機にトラボルタがふたたびスターダムに昇りつめるという劇的な復活劇もエモい。
ちなみに、ツイスト・ダンスシーンに流れるのは、チャック・ベリーが歌うR&Rのオールディーズ「ユー・ネヴァー・キャン・テル」。また、オープニングを盛り上げるディック・デイル&ザ・デルトーンズによるサーフミュージック「ミザルー」(後に『TAXi』シリーズでも使用)やクール・アンド・ザ・ギャングが歌うR&B「ジャングル・ブギー」など、物語を彩るのは、いかにもタランティーノらしいジャンルを超越したクセの強いナンバーだ。そのため、それらを収録したクールなサントラ盤も、映画ファンにとって必須アイテムとなった。
懐かしくも新しい最高傑作!
そのサントラのラストに、ダイアログ(セリフ)として収録されているのが「エゼキエル書 第25章17節」。本作への出演を機にブレイクしたサミュエル・L・ジャクソン演じるジュールスが暗殺前に暗唱する聖書の一節として登場するが、そのほとんどがタランティーノの敬愛する千葉真一主演作『ボディガード牙』の全米公開版の冒頭に登場する解説文というジョークである。そのほか、「フランスではチーズバーガーをチーズ・ロワイヤルと呼ぶ」(こちらもサントラに収録)や「ウチでは黒人の死体を預かってないからだ」など、遊び心たっぷりなセリフ(回し)の数々も、計265回と言われるFワードの使用回数とともに、本作のクールさを一層引き立たせている。
巧みな構成で展開される、エモいキャスティングによる名シーンの数々。それを、盛り上げるクセの強いサントラと名セリフ……。これら懐かしくも新しいクールの融合が、本作が今もなお“タランティーノ監督最高傑作”として語り継がれる最大の理由といえるだろう。1990年代の洋画全盛期にブームを巻き起こした後、近年はスクリーンで観られる機会が減ってしまっただけに、当時を知るリピーターはもちろん、タイトルは知っていても観る機会がなかった人やDVDやブルーレイで観ていた人も、今回が大画面&最高の音響システムが完備された劇場で体感する絶好のチャンスといえるだろう。
クラシックにも刺激が隠れてる!
また、「午前十時の映画祭9」では、2月から3月にかけ、名匠セルジオ・レオーネの遺作『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ<ディレクターズ・カット>』、スピルバーグ監督の『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』の後日談ともいえる『大統領の陰謀』、アル・パチーノが実在の銀行強盗犯を演じた『狼たちの午後』なども上映。クラシック映画の要素を元に、新しい表現を生み出してきたタランティーノ作品のように、これらの名作からも、新たな刺激と興奮が得られることを保証する。
「午前十時の映画祭9 デジタルで甦る永遠の名作」は全国58劇場にて毎朝10時開映中
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