『そらのレストラン』大泉洋 単独インタビュー
原点はものづくりがいかに魅力的か
取材・文:高山亜紀 写真:高野広美
雄大な自然が育む豊かな食と温かな人間関係を描いてきた北海道映画シリーズの第3弾『そらのレストラン』。それぞれパンとワインをテーマにした『しあわせのパン』『ぶどうのなみだ』で主演を務めた大泉洋が、今回は酪農業を営みながら理想のチーズ完成を目指す職人に挑戦。安心安全な食を追求するせたな町の自然派農民ユニット「やまの会」をモデルにした物語に身を投じ、ファンタジーのような優しい人間ドラマを紡ぎあげている。
あんな意外なことまで、全部、実話!
Q:前作『ぶどうのなみだ』の時に次回はチーズが主題と決まっていたそうですね?
僕は全然、知らなくて、「次、どうするのかな」と楽しみに待っていたんですが、パン、ワインの次にチーズときて「なんてわかりやすいんだ」と思いました(笑)。ただ、プロデューサーは本当にいいアンテナを持っていて、北海道のいろんなことを知っているから、彼女が紹介したいなら「わかりました」って言うしかない。それくらい信頼しています。
Q:今回はこれまでの三島有紀子監督から深川栄洋監督に変わりましたが、台本を読んで、変化を感じましたか。
三島監督はすごく世界観の強い方で、これまでの2作は彼女の色が濃かったから、深川さんもすごく悩んだらしいんです。3作目でバトンを受け取っているからにはやっぱり前2作を踏襲しなきゃいけないんじゃないかと。だから、最初の台本は僕にはちょっとピンとこないところがあって、プロデューサーや監督とも相当、話し合いました。プロデューサーはモデルとなっている「やまの会」の皆さんたちの話を描きたかった。でも、最初の台本にはそれが落ちていなかったんです。
Q:若い農家や酪農家ならではの生き生きとした活動が印象的でした。
彼らのものづくりがいかに魅力的か。話はそこから始まっているんですよね。人間関係ももちろん素晴らしいんですけど、当初はあまりにも友情のドラマを作ろうとして、僕が思うに大事なところが何か抜けているような台本だったんです。だから、彼らがどういうものをどういう思いで作っているのかというのをわかってもらえるように直して、すごくよくなったと思います。もちろんまだファンタジーの要素があったので、僕も言ったんです。「海が見える牧場で働きたいって女性がやってくるなんて、ちょっと嘘くさくない?」って。そしたら、それは実話だったんです。それから、宇宙の話も唐突なんですが、どうやらあれも本当らしいです(笑)。
撮影中に結成された“劇団八雲”
Q:やまの会の人たちとは実際にお会いしたのですか。
彼らの食事会に二度ほど、呼んでいただきました。彼らが自分たちで作っている最高の食材を持ち寄って、その食材に魅かれているシェフたちが感謝の思いを込めて、その場で料理をふるまってくれる。最高に楽しい会なんです。本当に食材への感謝にあふれていて、例えば、豚を放牧で育てている方が「今日はたくさん、子供を産んでくれた〇〇ちゃんのお肉を持ってきました」ってぽろぽろ涙を流すんです。なかなかない関係ですよね。羊を育てている人は、ラムではなくマトン、つまり大人の羊しか出さない。少しでも長くいさせたい、メスだったら子供ができるまで、オスはせめて四季を経験させてあげたいからって。彼らがそういう思いでものを作っているということは自分の中にちゃんと入れていくようにしました。
Q:メンバーを演じている5人の空気感がまた素敵です。
とにかく楽しい人たちだったので、本当に雰囲気がよかったですね。マキタスポーツさん、高橋努くん、(石崎)ひゅーいくん、みんなめちゃくちゃ面白くて。また岡田将生くんが絶妙にいじられキャラなんです。ロケをした、せたなには大きな宿がなくて、役者たちはどこに泊まるか候補から選んだんです。僕は出番も多いので、飲み屋さんがなくても現場に一番近いホテルにしてもらったんですけど、ほかの4人は歓楽街があるところがよかったんでしょう。八雲町っていう現場からずいぶんと離れた町に宿をとっちゃって、毎日1時間かけて、全員でやってくるんです。入りの早い人の時間に合わせてくるから、やることなくて仕方なく、朝から全員でセリフの読み合わせをしているんですが、その様子はさながら劇団で。いつしか「劇団八雲」と呼ばれるようになっていました(笑)。
自分の娘に対するとんでもない願望
Q:娘役の庄野凛さんとの相性も抜群でした。劇中、日々大きくなっていく彼女に寂しく思う父親の真情を吐露していましたが、大泉さんの本音も入っていましたか。
もろですね(笑)。僕は世の中のお父さんの中でもひどいタイプじゃないかな。娘はもう小学生なんですけど、以前、卒園式のために妻が3年間の写真を整理していたんです。それを見ていただけで涙ぐんじゃいました。年少さんの時の娘にはもう一生、会えないんだという思いに襲われちゃって。妻からは「今からそんなことでどうするの?」と呆れられました(笑)。娘は一人なんだけど、僕の思い出の中にはその時々、年代順の娘がいるんです。10歳くらいまでは「パパ、パパ」って言ってくれるんだろうけど、その後は友だちが大切になって、相手にもされないんだろうなぁ。だとしたら、10歳までいったら、その翌年は9歳でいいかなと。僕が死ぬまで10歳を繰り返してほしいって思っているんですよ(笑)。
Q:大泉さんは亘理さんにとっての師匠、大谷さんのように目標とする対象、心の支柱になっているような人を失った体験はありますか。
この映画のように尊敬する人が亡くなって、仕事を辞めたくなるとか、そういう体験はないですね。僕には亘理さんのように、僕の演技を延々と指導してくれている人がいるわけじゃないので。でも、大杉(漣)さんが亡くなったのはショックでしたね。突然のことで、胸にぽっかり穴が開いたような気持ちになりました。前作『ぶどうのなみだ』にも出てくれていましたしね。
Q:大泉さんにとって、成長を見ていてほしいと思う存在は誰ですか。
プロデューサーでもあるオフィスキューの社長もそうだし、アミューズにもいます。その人たちに褒められたいという思いはあります。「なんで仕事しているのか」って言われたら、一番ばかな言い方をすれば、それは褒められたいからなんです。観てくれたお客さんに「面白かったよ」って褒めてほしい。身内の人たちに「いや、よかったね」って褒めてほしい。ほんと褒めてほしくて仕事をしているんです(笑)。
新人のような“ミスター”に思わずにやにや
Q:今回は“ミスター”こと鈴井貴之さんとの共演シーンも話題です。
(オフィスキューの)会長と同じ映画に出たなんて、前回は『ガメラ2 レギオン襲来』までさかのぼるんじゃないですかね。今回はセリフこそ交わしていないですが、同じ場面にいますからね。ふと見たら、緊張してらして、かわいらしかったです。マネージャーから「ご飯、食べましたか」って聞かれて、「いや、大丈夫。食べると集中力がなくなるから」って答えていて、新人かと思いました(笑)。
Q:大泉さんからはどんな言葉をかけたんですか。
いや、僕が会長に対して、「おい、どうした? リラックス!」とは言えないですよ(笑)。ただ、にやにやしながら見ていました。
Q:4作目はどんな食材がいいと目論んでいますか。
パン、ワイン、チーズとおしゃれなものが続いたから、次はラーメンとかスープカレーがいいんじゃないかな(笑)。こういう優しい癒やし系の作風じゃなくて、(伊丹十三監督の)『タンポポ』みたいなのがいい。ラーメン屋として、がんがんのし上がっていく、ラーメン版『ロッキー』みたいな作品がやりたいですね(笑)。
冷静沈着でクールな反面、ものすごく愛情深い。北海道への愛はもちろん、娘さんへの溺愛ぶりも有名だ。そして今回、感じたのは奥さんへの愛情。劇中では本上まなみ演じる亘理の妻が「あなたと一緒ならどこでも行きます」と覚悟を決めるが、「男性はやはり女性についてきてもらいたいものなのでしょうか」と質問してみると「でも僕はやっぱり、奥さんには自由でいてほしいなぁ」と本音をぽろり。その言葉に思わずキュンときた。
(C) 2019『そらのレストラン』製作委員会
映画『そらのレストラン』は1月25日より全国公開