間違いなしの神配信映画『ROMA/ローマ』Netflix
神配信映画
賞をにぎわせた王道編 連載第1回(全8回)
ここ最近ネット配信映画に名作が増えてきた。NetflixやAmazonなどのオリジナルを含め、劇場未公開映画でネット視聴できるハズレなしの鉄板映画を紹介する。今回はアワードシーンをにぎわせた王道編。全8作品、毎日1作品のレビューをお送りする。
70年代メキシコを舞台に、巨匠キュアロンの少年期を投影し描く人間ドラマ
『ROMA/ローマ』Netflix
上映時間:135分
監督:アルフォンソ・キュアロン
キャスト:ヤリッツァ・アパリシオ、マリーナ・デ・タビラ
映像作品のネット配信が話題にのぼることが急速に増えている。特にアルフォンソ・キュアロン監督の『ROMA/ローマ』の登場は、映画好きにとって超ど級のトピックだと言っていい。宇宙空間でのサバイバルを描いた『ゼロ・グラビティ』(2013)で観客に圧倒的な映像体験を提供し、アカデミー賞監督賞にも輝いた名匠キュアロンの最新作が、ネット配信で世界同時公開されたのだ(国よっては期間限定で劇場公開もされている)。
タイトルこそ「ローマ」だが、舞台はイタリアではなく1970年代のメキシコ。首都メキシコシティの中心部にほど近い“コロニア・ローマ”地区で暮らす一家と、住み込み家政婦クレオの日々の生活がつづられる。全編スペイン語、主人公クレオを演じたヤリッツァ・アパリシオを筆頭に素人から抜てきされた無名キャストばかりの本作は、野心的な企画の駆け込み寺状態のNetflixだからこそ実現した企画だっただろう。
キュアロンは当世屈指の映像派だが、本作では長年タッグを組んでいる天才カメラマン、エマニュエル・ルベツキが参加できなかったことから、なんと撮影監督も兼任してさらなる天才っぷりを披露してみせた。物語こそ一種のファミリードラマだが、細密な白黒映像で映し出される日常の風景は、時に荘厳なほど美しく、常にほのかな緊張感をはらんでいて、視線を外すことができなくなるほどだ。
そしてクレオと雇い主家族(キュアロンの少年時代が反映されている)の妊娠や離婚騒動などプライベートなあれやこれやを前景にして、当時のメキシコの波乱の世相や庶民の中の差別意識など、より大きな社会の姿を浮かび上がらせる。ただしミクロとマクロを批評的に対比させているのでない。両者を境界で分かつことなく融合させることで、まるで世界の一部をわしづかみにしたような力強さが生まれているのである。
実はキュアロンは、原作物を除いて、執拗(しつよう)に「家族の喪失」とその後の葛藤を描き続けてきた映画作家でもある。本作でも同じモチーフが、形を変えて映画のあちこちに埋め込まれている。当たり前だと思っている日常はいつ壊れてしまうかわからない。そんな無常観が通底にありつつ、明らかにキュアロンは“人生”を愛でている。フンばかりしている飼い犬、特に重宝されている様子もない仏像の置物、格闘技バカの恋人の滑稽すぎる演武など、一見役に立たないものにユーモアを見い出しながら、どんな苦境に見舞われても人生は続いていくことを、地に足をつけて全力肯定しているのだ。
ベネチア国際映画祭金獅子賞、ゴールデン・グローブ賞の外国映画賞と監督賞などすでに華やかな実績を積み上げている『ROMA/ローマ』だが、観る人によっては壮大な叙事詩にも見えれば、近所の知人の家をのぞき見しているようにも感じられるだろう。その時のコンディションによっても見え方が変わる、観る側の心を映す鏡のような奥行きに、つい何度も魅入られてしまうのだ。(文・村山章)