間違いなしの神配信映画『ジェニーの記憶』AmazonスターチャンネルEX
神配信映画
賞をにぎわせた王道編 連載第3回(全8回)
ここ最近ネット配信映画に名作が増えてきた。NetflixやAmazonなどのオリジナルを含め、劇場未公開映画でネット視聴できるハズレなしの鉄板映画を紹介する。今回はアワードシーンをにぎわせた王道編。全8作品、毎日1作品のレビューをお送りする。
ジェニファー・フォックス監督自身の体験を基に性虐待の問題を描いたフィクション
『ジェニーの記憶』Amazon Prime Video チャンネル「スターチャンネルEX」
上映時間:117分
監督:ジェニファー・フォックス
キャスト:ローラ・ダーン、エリザベス・デビッキ、ジェイソン・リッター、エレン・バースティン、イザベル・ネリッセ
ドキュメンタリー監督として成功を収めているジェニファー・フォックス(ローラ・ダーン)。ある日、彼女の子供時代の日記を読んで困惑した様子の母親(エレン・バースティン)から電話がかかってくるが、ジェニファーには何のことかよく分からない。送ってもらった自分の日記を読み返しながら、ジェニファーは13歳の夏の日に出会った2人の“大人”との出会いを回想する。乗馬を教えてくれた凜とした美しいミセスG(エリザベス・デビッキ)と、ランニングコーチのビル(ジェイソン・リッター)。映画は48歳のジェニファーが、13歳の時に書いた“物語”に沿って記憶をたどりながら、二人の“大人たち”との間に本当は何があったのかを明かしていく。
1970年代、記憶の中のジェニファーの13歳の夏は、柔らかな光に包まれた幸せな時間に見える。しかしジェニファーがまぶしい日差しに目を細めながら、紗がかかったような景色の向こうにあるものをしっかりと見極めようとするとき、“物語”は全く異なる面を暴き出す。それは捕食者が連携し、未成年者の親や周囲の人々を取り込み、獲物=社会的弱者の圧倒的な信頼を勝ち得た後に行われる性的虐待でグルーミングと呼ばれるものの実態だ。
13歳のジェニファーが書いたのは、年上の男性との少し背伸びをした初恋の“物語”。だが、現在のジェニファーから見た13歳の自分は、記憶の中よりもはるかに子供であり、子供にとっては実に自然の流れとして「愛のためにやらなければならないこと」と思い込んでいた行為は、本当に自分が望んだことだったのか? 2人のジェニファーはぶつかり合い、“物語”と真実との乖離に葛藤する。主演のローラ・ダーンと13歳のジェニファーを演じるイザベル・ネリッセの好演が伝える声にならない魂の叫びは、あまりにも痛ましい。
監督・脚本・製作は30年近くドキュメンタリーの映像作家として活躍し、教育者でもあるジェニファー・フォックス。これはあえてフィクションとして描いた監督自身の体験なのだ。ドキュメンタリー畑の監督らしく、静かで淡々としたタッチで描かれる映像世界は、とりわけ性的虐待のシーン(現場では子役ではなく大人の俳優が演じていることが明示されている)にドキュメンタリーのような臨場感を覚えて、思わず目を背けたくなる。「#Metoo」「Time's Up」運動の時代だからこそ描くことのできた「未成年者とのセクシュアリティー」に関する、重要な問題提起をした作品だ。
本作は HBO Films(R) 作品。2018年にサンダンス映画祭などの映画祭で上映され、同年5月26日に米有料放送局HBOでプレミア放送された。(文・今祥枝)