ポルトガルから世界に発信する国際環境映画祭シネエコ
ぐるっと!世界の映画祭
【第78回】(ポルトガル)
地球環境問題の高まりとともに各国でエコや環境をテーマにした映画祭が増加している中、連携と情報共有を目的としたグリーンフィルムネットワークが2013年に設立。各映画祭の主要メンバーが初めて一堂に会した「第1回国際環境映画祭フォーラム」が、現地時間2018年10月13日~20日に行われた第24回エストレーラ山脈国際環境映画祭(ポルトガル)内で開かれた。同フォーラムに参加したグリーンイメージ国際環境映像祭の実行委員で、一般社団法人環境・文化創造機構理事の宇津留理子さんがリポートします。(取材・文:中山治美、写真:宇津留理子、エストレーラ山脈国際環境映画祭、グリーンイメージ国際環境映像祭、グリーンフィルムネットワーク)
会場は自然公園の麓
エストレーラ山脈国際環境映画祭の通称は“シネエコ”(以下、シネエコ)。開催地は、首都リスボンから車で約300km北東方向に進んだ人口約2万5,000人の町セイア。ポルトガルで最高峰のエストレーラ山脈自然公園の麓にあり、スキーリゾートにハイキングにと環境映画祭を開催するにはぴったりのダイナミックな自然がウリだ。
環境をテーマにした映画祭の多くが、1992年に各国の首脳レベルが参加して地球規模で環境問題に取り組む共通認識を高めたブラジルのリオ・デ・ジャネイロでの国際連合会議後に誕生しているが、シネエコもセイア自治体の主催で1995年に環境シネマ&ビデオ国際映画祭の名称でスタート。2011年に現在の名称に変更された。
プログラムは長・短編、テレビドキュメンタリー&リポート、ポルトガル語映画のコンペティション部門が設けられた映画の上映のほか、ワークショップ、コンサートなど。コンペティションにはユース審査員もおり、第9回には四ノ宮浩監督『神の子たち』(2001)がユース審査員によるグランプリを受賞している。
「映画祭会場とフォーラム会場が少し離れていたのと、フォーラムのスケジュールが3日間ぎっしり組まれていたので、今回は映画を鑑賞する時間がなかったのが残念でした」(宇津さん)
自然の脅威を知る
期間中にはフォーラム参加者とともに、さらにエストレーラ山脈自然公園内に進んでポルトガルで最高地点(1,120m)にある村として知られるサブゲイロを訪問した。
歴史あるサブゲイロ教区教会やコミュニティーで利用しているパン窯など、村民が肩寄せ合って暮らしている石畳の小さな村だが、2017年10月にスペイン・ポルトガル両国にまたがって発生した山火事で多大な被害を受けた場所でもある。
10月半ばも過ぎた時期だったのにその年は異常気象で気温が30度を超えて乾燥と強風で自然発火したとみられ、多数の犠牲者を出した。1年経った今も、村のいたるところに火事の影響がみてとれたという。
「ちょうど映画祭が開催されていた時期で、映画祭関係者いわく火が迫ってきて恐怖を感じたそうです。山は今も焼け跡が残っていますが、その山を通ってきた汚染水が川を黒く染めていました。自然災害の脅威を実感として知ることができました」(宇津さん)
テーマは“グリーンウォッシュ”
シネエコの多彩なプログラムに今回、新たに加わったのが国際環境映画祭フォーラムだ。
グリーンフィルムネットワークに加盟する39の映画祭のうち36の映画祭が参加。そこに専門チャンネル「ナショナルジオグラフィック」のエグゼクティブ・プロデューサーや地元の環境保護団体、学者らも加わって、各映画祭のプレゼンテーションや、環境映像の可能性について考えるシンポジウムが行われた。
その中でもっとも白熱したのが、企業や団体が実態とは異なるのに、映画祭を支援することであたかも環境に配慮しているかのように装う“グリーンウォッシュ”問題だったという。
「グリーンフィルムネットワークの加盟映画祭が集まるのは今回が初めてだったのですが、改めて運営形態も経済状況も多様であることを実感しました。公的機関と組んで安定した運営をしているところもあれば、ジャーナリストや元配給会社の社員、元難民、さらにその地域の名士のような方が資金を集めて自主開催しているようなところもあります。共通しているのは、観客の入場料だけで利益を出して資金繰りをしていくのは困難であり、どこかに頼らなければならないということ。その場合、蓋を開けてみたら残念ながらグリーンウォッシュの疑いのある場合もあり、会議ではあの企業はどうなのか? と具体的に企業名が挙がりました。一方で、たとえそうであっても、悪事よりも良いことに使われるのであれば良いのではないか? という声や、果たして完全に真っ白な企業はあるのだろうか? という意見もありました。いずれにしてもわたしたちも選択ができる目と、自律性を保っていくことの大切さを考えさせられました」(宇津さん)
映画祭で心身ともに癒やされる
宇津さんの今回の旅程は、日本からドバイ経由でリスボンへ。空港で他のフォーラム参加者と合流し、バスで約4時間かけてセイアに到着した。渡航費・宿泊費ともに映画祭をサポートしている観光協会の招待だ。
「山道を延々とたどって行くのでちょっと車酔いしてしまいました(苦笑)。映画祭会場周辺はスキーや登山目的で来る人たちへのリゾート用なので公共交通も飲食店もあまりなく、車がないと不便な場所かと思います」(宇津さん)
日本からセイアまで2日がかりでたどり着き、3日間滞在。その間はフォーラムのスケジュールが朝9時から夕方までびっしりあるのだが、それでもランチタイムはしっかり1時間半取るという食事の時間を大切にするポルトガルスタイルが貫かれていたという。
「3食ともに宿泊先のレストランで参加者みんなで食したのですが、バカリャウ(干し鱈)やスープといった地元の素朴な料理がおいしくて。特にデザートは毎回、8種類ぐらい並ぶのですが、あまりにもおいしいので全種類に手を出していました。海外の映画祭に参加してデザートが全部おいしかったというのは初めてです」(宇津さん)
自然に囲まれた中で映画祭の未来について語り合い、しっかり3食食事を取る。当たり前のことのようだが、規則正しい生活をしていると心境に変化が表れ始めたという。
「普段、出張に出ると憔悴(しょうすい)することが多かったのですが、ずっと元気だったんです。その期間中、グリーンイメージ国際環境映像祭の開催に向けての仕事もしていたわけですが、問い合わせのメールにも普段では考えられないようなすてきな回答で返信している自分がいました。人間にとって健全な環境がいかに心を豊かにするのか。身をもって体験しました」(宇津さん)
日本はもちろん映画祭の多くがプログラムを詰め込み過ぎて、食事を取る時間もままならないのが現状だ。グリーンイメージ国際環境映像祭も同様だが、宇津さんの体験が今後に生かされていくのか? 期待しよう。
グリーンイメージは今年で6回目
宇津さんが実行委員を務める第6回グリーンイメージ国際環境映像祭は2月22日~24日、東京・日比谷図書文化館コンベンションホールで開催される。今年は世界48の国と地域から163作品の応募があり、2次審査を通過した10作品が映像祭で上映され、審査委員によって最高賞のグリーンイメージ大賞などが決まる。
10作品の中には、セネガルから初の応募作となった、わたしたちの食となる海洋生物とアフリカの水産業の現状に目を向けたトーマス・グランド&ムサ・ディオプ監督『ゴールデン・フィッシュ、アフリカン・フィッシュ(英題) / Golden Fish, African Fish』、環境意識の高い孫と無頓着なおばあちゃんがともに生活したら……を追ったリアルバラエティー『グリーニング・グランマ(英題) / Greening Grandma』(シンガポール)の異色作も。さらに日本からは映文連アワード2018のソーシャル・コミュニケーション部門で優秀賞を受賞した今井友樹監督『坂網猟 -人と自然の付き合い方を考える-』をはじめ3作が選ばれている。
「今年の傾向として、食やファッションといったわたしたちの消費をテーマにした作品が多かったように思います」(宇津さん)
会期中は映画の上映のほか、上映後のトークイベントのほか、はたらく馬に関するシンポジウムも予定されている。
「まだ6回と歴史は浅いですが、わたしたちも映画『里馬の森から-映像で伝える森を活かす古くて新しい技術・馬搬』(2016)を製作したことでネットワークが広がり、一般社団法人馬搬振興会が設立され、全国から馬の仕事に従事する人たちが集まって、馬耕伝習会講座を開催するなど映像祭にとどまらない新しい動きも生まれています。面までとは行かないまでも、点と点が線となってつながってきました。映像作品の力の大きさを感じます」(宇津さん)
ちなみにグリーンフィルムネットワークでは、加盟映画祭の最高賞の中から年間グランプリを決めるグリーンフィルムネットワークアワードを毎年発表している。グリーンイメージ国際環境映像祭からどの作品が世界へと羽ばたくのか、注目したい。