間違いなしの神配信映画『ザ・ライダー』Amazon Prime Video
神配信映画
賞をにぎわせた王道編 連載第8回(全8回)
ここ最近ネット配信映画に名作が増えてきた。NetflixやAmazonなどのオリジナルを含め、劇場未公開映画でネット視聴できるハズレなしの鉄板映画を紹介する。今回はアワードシーンをにぎわせた王道編。全8作品、毎日1作品のレビューをお送りする。
大けがをしたカウボーイ本人が演じる自身の生きる意味を探す物語
『ザ・ライダー』Amazon Prime Video
上映時間:124分
監督:クロエ・ジャオ
キャスト:ブレイディ・ジャンドロー、リリー・ジャンドロー、ティム・ジャンドロー
アカデミー賞前哨戦のゴッサム・インディペンデント映画賞や全米映画批評家協会で作品賞を受賞、バラク・オバマ米前大統領が2018年のお気に入り映画として挙げた1本。落馬事故で頭部に重傷を負った若きカウボーイが、ロデオライダーとしての将来を断たれた自身の生きる意味を探す物語だ。
舞台はアメリカ中西部のサウスダコタ。実際にロデオで活躍していた青年、ブレイディ・ジャンドローが自身の身に起きた出来事を北京出身の女性監督、クロエ・ジャオのもとで演じている。ジャオが別の企画でリサーチ中だった2015年にジャンドローと知り合った後に彼が事故に遭い、再会したジャオが彼の物語を映画化した。
アメリカの象徴であるカウボーイの物語を中国で生まれ育った女性監督が映画にする。それだけでも簡単に想像のつかない状況だが、本作では主人公の苗字こそブラックバーンと変えたが、父と自閉症の妹を含めて主人公の周囲の人々は、全て当人たちが実名のまま演じている。クリント・イーストウッド監督の『15時17分、パリ行き』(2018)と同じ手法だ。同作もそうだったが、とてつもない体験をした彼らはなぜか風貌からして非常に劇的で、演技経験ゼロであっても、確かな腕の監督に委ねれば映画の主役を担うだけの力がある。
幼い頃からすべてが馬とともにあった生活が、その馬によって激変させられ、抜け殻のようになった青年を静かに追う演出は、決して安っぽい再現映像には陥らない。
ブレイディが、兄のように慕う元ロデオスターのレインも登場する。自分よりも重い後遺症に苦しむレインとリハビリ室でロデオを再現する場面は胸を突く。ひたすら打ち込んできた夢を断たれるのは、努力を人一倍重ねていればいるほど辛い。だが、人はそれでも生きていく。
そんなブレイディに寄り添うのはやはり馬だ。馬と人間という関係もなぜかとてもドラマティックなのは、映画史に数多ある名作が証明している。ブレイディと馬との蜜月をとらえる映像の美しさに息を呑む。薄く暮れ始めた空に溶け込む両者の間にある、言葉にならない何かが映し出されているのだ。
製作資金はジャオ本人と恋人でもある撮影監督ジョシュア・ジェームズ・リチャーズの持ち出し。マジックアワーの多用は、撮影時間がブレイディが本業の馬の調教を終えた後に限られた結果だ。
固い絆の中で生きているであろう人々がよそ者の女性を信頼し、自分たちの物語を作らせた成り立ちを含めて、閉塞感が漂う今という時代にかすかな希望を感じさせる、一度限りの魔法のような作品だ。(文・冨永由紀)
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