間違いなしの神配信映画『7月22日』Netflix
神配信映画
賞をにぎわせた王道編 連載第6回(全8回)
ここ最近ネット配信映画に名作が増えてきた。NetflixやAmazonなどのオリジナルを含め、劇場未公開映画でネット視聴できるハズレなしの鉄板映画を紹介する。今回はアワードシーンをにぎわせた王道編。全8作品、毎日1作品のレビューをお送りする。
ノルウェーで実際に起きた無差別銃乱射事件を生残者と犯人の対比で描く
『7月22日』Netflix
上映時間:144分
監督:ポール・グリーングラス
キャスト:ヨナス・ストラン・グラヴリ、アンデルシュ・ダニエルセン・リー、ヨン・オイガーデン
2011年7月22日に、ノルウェーの首都オスロとウトヤ島で発生した連続テロ事件。オスロ市内で政府庁舎爆破事件を起こした後、極右過激派でキリスト教原理主義者のアンネシュ・ブレイビク(当時32歳)は、ウトヤ島でノルウェー労働党青年部の夏季集会に参加していた子供たちを銃撃した。両事件の死者は計77人。世界を震撼させた未曾有の連続テロを描いた本作は、144分という長尺を感じさせない力作である。
監督は『ボーン』シリーズのポール・グリーングラス。ジャーナリスト出身で『ブラディ・サンデー』(2002)や『ユナイテッド93』(2006)、『キャプテン・フィリップス』(2013)など史実を扱った作品で知られており高く評価されている。本作では、オスロでの自動車爆破事件からウトヤ島での銃撃事件までの流れに息もつかせぬスピード感があり、ファンの期待を裏切らない。しかし、予想に反して(そしてその判断は正しい)、本作はウトヤ島の虐殺を長々と描くことはせず、映画の大部分はその後の物語、テロの余波に時間が費やされる。
これまで実話ベースの作品では、基本的に事件そのものを中心に据えて描いてきたグリーングラス。だが、本作では重症を負いながらも生き残った10代の青年ビリヤルと、極めて利己的な犯行動機の主張と自己の正当性を訴える犯人ブレイビクの対比によって、この題材をあえて今描くことの意味を、わかりやすく伝えることを一義としているように感じられる。
事件対応や未然に防げなかったことに対する首相陣営、警察への批判や、移民に対する恐怖といった、非常に多岐にわたる社会問題を盛り込んでいる。加えて個々の犠牲者の関係者にとってはかけがいのない命の重さを、ビリヤルという青年に集約させた作りに歯がゆさを覚える人もいるかもしれない。しかし、まばゆく輝く夏のウトヤ島で夢を語り合う若者たちの姿と、北欧の凍てつく風景の中で心身をむしばまれ、希望のかけらも失ったビリヤルの慟哭。それでも前を向こうとする魂の崇高さ。
一方で、今こそ世界の注目を集めている自分に陶酔するブレイビクが、イデオロギーのレベルに達するにはあまりにも混沌とした“信念”を語る姿のおぞましさ。この2者にフォーカスした構図は、複雑な問題が山積する本件において、私たちが何を学ぶべきなのかを明確に伝えている。そして現代のSNSやネットを見渡せば、ブレイビクと同じ類いの主張を簡単に見つけることができる現実に、改めて恐怖を覚えるのだ。(文・今祥枝)