間違いなしの神配信映画『マッドバウンド 哀しき友情』Netflix
神配信映画
賞をにぎわせた王道編 連載第4回(全8回)
ここ最近ネット配信映画に名作が増えてきた。NetflixやAmazonなどのオリジナルを含め、劇場未公開映画でネット視聴できるハズレなしの鉄板映画を紹介する。今回はアワードシーンをにぎわせた王道編。全8作品、毎日1作品のレビューをお送りする。
第二次世界大戦中のアメリカ南部を舞台に描く家族の物語
『マッドバウンド 哀しき友情』Netflix
上映時間:135分
監督:ディー・リース
キャスト:キャリー・マリガン、ジェイソン・クラーク、メアリー・J・ブライジ
昨年のアカデミー賞でメアリー・J・ブライジが助演女優賞、レイチェル・モリソンがオスカー史上初(長編映画部門)の女性撮影監督として撮影賞にノミネートされるなど4部門で候補になり、Netflix配信作としてオスカー候補となった劇映画。1つ1つが1本の映画になるくらい濃密なエピソードが織りなす群像劇だ。
第二次世界大戦中の1940年代、アメリカ南部のミシシッピ州にある農園で始まる物語は、まず白人の兄と弟の関係を描くかと思わせる。そこに兄ヘンリーの妻となるローラが登場し、綿花栽培で成功を目指すヘンリー一家の物語になるかと思うと、彼らが目指した新天地で隣人となる黒人の小作農ハップとその家族が現れる。そして、それぞれの家族から出征した2人の青年(ヘンリーの弟ジェイミーとハップの長男ロンゼル)が戦後に戻ったミシシッピで友情を育む物語が始まる。
交通機関の席や建物の出入口が分けられ、人種差別が社会のルールだった時代。兵士として赴いたヨーロッパで、肌の色の違いはそれ以上の意味を持たないことを体感したロンゼルは、戦後に戻った故郷で戦前と“変わらない現実”に直面する。一方、空軍パイロットで英雄になったジェイミーはPTSDに苦しみ、真の理解者であるロンゼルと親交を深めるが、人種を超えた友情は思わぬ悲劇を引き起こす。
本作が描く差別は、貧しい敗者がさらに弱い者を探して痛めつける醜さを容赦なく突きつける。白人兄弟の父親は絵に描いたような毒親で、肌の色だけで問答無用に相手をさげすむ白人至上主義者。父ほど過激ではないが、相手を人として尊重する感覚がないヘンリーの無神経さは、当時のアメリカの常識を表しているように思える。尊厳を踏みつけられ、無駄に生きるしかないという諦観(ていかん)に襲われながら耐え続けるマイノリティーの姿を、黒人一家、あるいは母として妻として生きる女性キャラクターたちが体現している。
ヒラリー・ジョーダンの原作小説をヴァージル・ウィリアムズと共同で脚色したディー・リース監督は黒人女性として初めてアカデミー脚色賞候補となった。前述のモリソンをはじめ、音楽を手がけたタマール=カリ、編集のマコ・カミツナなど主要スタッフのほとんどが女性であるのも注目したいポイントだ。
トランプ政権誕生直後の2017年1月にサンダンス映画祭でお披露目され、Netflixが1,250万ドル(約13億7,500万円。1ドル=110円換算)で買いつけた本作は、過去を舞台にしながらも21世紀の現実と重なる内容で、観客の心に強く訴えかけてくる。(文・冨永由紀)