『翔んで埼玉』二階堂ふみ&GACKT 単独インタビュー
くだらない!と笑える映画
取材・文:浅見祥子 写真:尾藤能暢
人気コミック「パタリロ!」の魔夜峰央による原作を、『テルマエ・ロマエ』シリーズの武内英樹監督が壮大なスケールで大真面目に実写映画化した『翔んで埼玉』。この映画で二階堂ふみとGACKTが共演している。舞台は、埼玉県人が東京都民からひどい迫害を受ける架空の日本。二階堂演じる都内の名門校・白鵬堂学院の生徒会長、壇ノ浦百美はGACKT演じる転校生の麻実麗と出会い、やがて埼玉を解放する戦いに身を投じていく……ってなんだそりゃ!?
沖縄県出身同士の2人
Q:お二人は同じ沖縄県出身ですね。
GACKT:初めて会ったのは沖縄を舞台にした作品(ドラマ「テンペスト」)で、沖縄出身の人たちがたくさん集まっていて。ふみちゃんはいま、何歳だっけ?
二階堂ふみ(以下、二階堂):24歳です。
GACKT:すると17歳のときだから……若いな。
二階堂:若かったです(笑)。
GACKT:ボクは30代後半だったかな。でもそのときはたくさんの人がいたから。
二階堂:初めてお会いしたのは顔合わせのときでしたね。
GACKT:同じシーンでの撮影はなかったから、その顔合わせだけで。そのあとにバラエティー番組で会ったんだ。
Q:初対面の印象は?
二階堂:沖縄を舞台にした作品でしたから、GACKTさんが「これでボクも島に恩を返せる! と思ったら、沖縄人の役ではなく中国人でした」とおっしゃって、笑いを取られていたんです。それを見て、楽しい方だな~という印象を持ちました。お芝居でご一緒することはありませんでしたが、顔合わせで「はじめまして、二階堂です」とごあいさつさせていただいたら、とても優しく「よろしくね」と。謎に包まれているイメージがありましたが、優しい方なのだろうなと思ったのを覚えています。
Q:お二人から見て、この映画で描かれる“関東圏ヒエラルキー”のようなもの、東京、埼玉、千葉の関係性をどう思いますか?
GACKT:他県に対してそうした感情を抱くのとは違うかもしれないけど、沖縄の中でも北部と南部とでイメージが違うというのはある。
二階堂:ありますね。
GACKT:方言も全然違うし。ボクのひいじいちゃんが暮らしていたのは北部の信号もないようなところで、ボクが行ってもドン引きするくらいの田舎(笑)。沖縄の人に「もともとはあそこの出身」という話をすると、笑われることが多い。
Q:それは外部の人間にはわからないですね?
GACKT:それとまったく同じで。関東の中で東京と埼玉が……という話は、他の県の人間からすると正直どうでもいいというか、くだらない! と笑えるようなこと。でもそういう自分たちにも、住んでいるところには大なり小なりそうした感情がある。自分が住む町と隣の町とか、自分と隣家の人とか。人間というのはそんなふうに劣等感と優越感の狭間で生きていて、それを、くっだらない! と客観的に笑える映画になってる。それを狙ってつくってはいないんだけれども。
実際の高校時代は?
Q:高校生を演じられたわけですが、ご自身はどんな高校生でしたか?
二階堂:ごくふつうの高校生でした。学校は楽しかったです。友達がたくさんいたし、毎日たくさん遊んでいたし。仕事を始めたのが12歳で、しかも父は東京の人なので、「沖縄から出てきて東京で高校生になった」というのとは、またちょっと違う感覚でした。
Q:映画みたいに出身が東京じゃないからと、特別視されることはないですよね?
二階堂:高校の同級生でとても沖縄が好きな子がいました。私自身は三線を触ったこともないのですが、その子は弾けたんです! そんなふうにリスペクトを感じることの方が多かった気がします。
Q:GACKTさんが学校の先生の車を壁に立てかけた、というのは高校時代ですか?
GACKT:それどこの情報?(笑)。まあまあ……でも最近思うんだけど、世の中がいろいろなことに対してストリクト(厳格)になりすぎている気がする。くだらない! で済ませられることをそうさせない風潮がある。不倫とか恋愛とか、これ誰にとっての問題なのか? どうでもよくない? ということを大げさに騒ぎ立てたり。治安はいいが、規制が多すぎて、自由がどんどんなくなってる。昔はもっと笑って許せることや、許してもらえることが多かった気がするけど。
“美しい画”を優先させたキスシーン!
Q:この映画はただ埼玉をディスるわけではなく、本気の笑いに昇華しているところが大人ですよね?
GACKT:確かにポスターなどには“ディスり合戦”と書かれているけど、世間でいう“ディスる”という行為を詰め込みました! ということではなくて、ある結論に結びつくために必要なテイストだとボクは思っている。映画を観てもらえばわかるけど、大人が非常にくだらないことを本気で言い合っている。これが、実はいまの世の中なんじゃないの? と。これを観たら、もっと笑って、くだらない! で済ませられることってたくさんあるんじゃないかな?
Q:二階堂さん演じる百美とGACKTさん演じる麗とのキスシーンは、その前後で百美の表情がガラリと変わるのが印象的でした。
二階堂:GACKTさんがおっしゃっていたのですが役としての気持ちではなく、画として美しいものをというのが大前提にありました。感情がどう動くかよりはここの角度からどう見えるか、タイミングなど、画づくりを優先した演技ではあったと思います。キスのあとの百美の変化については監督が「その前後で表情や麗に対する態度をどんどん変えてほしい」とおっしゃっていたので、そのギャップは、演じていても楽しいものでした。
GACKT:キスシーンというのは本来、2人の関係性があって感情が高ぶって行われるもので、ドラマとして大きな意味を持つ。そうした感情を優先させるキスシーンもあれば、今回の映画のようにキスをする画だけでそこからの物語に説得力を持たせるだけのインパクトが必要なもの、圧倒的な存在感がないとダメなものもある。この物語って、ボクと百美がキスした瞬間から一気に変わるじゃない? そこが起点になっている。一気にばん! と物語が変わるように見えるためにはものすごく美しい画が必要で、カメラマンとボクとふみちゃんとの間で何回も何回もタイミングを合わせた。漫画のように美しく、物語に説得力を持たせるために。この映画には、そうした“起点”がたくさんあった。
細かい面白さと壮大なスケールを映画館で
Q:映画を観る人にどういった部分を楽しんでいただきたいですか?
二階堂:非常に面白い映画になっていると思います。ぜひ、劇場で観ていただき、細かい部分の面白さや壮大なスケール感を同時に楽しんでいただけたらうれしいです。
GACKT:東京都民に虐げられる埼玉県人を解放するという非常にくだらない、それでいてよくわからない内容の話になっています。観ていただければきっと、最後まで何回も何回も、くだらない! と笑ってもらえるのではないかと。映画館でないと存分に味わえないような壮大な画づくりというものにもこだわりました。
24歳ながら堂々とした佇まいの二階堂ふみと、そこにいるだけで圧倒的な存在感を放つGACKT。リスペクトし合う関係であることが、言葉の端々から伝わってくる。この映画には彼らだけでなく、京本政樹、中尾彬、麿赤兒、竹中直人と存在が濃厚なメンツが勢ぞろい。サラリとしたハンサムである伊勢谷友介までもがインパクト大の演技を見せて、むちゃくちゃな設定のギャグ漫画を大真面目な大作のように仕上げている。これだけのメンツをナチュラルと思わせる世界観をセンスよく作り上げた武内監督、さすが!
映画『翔んで埼玉』は2月22日より全国公開