『サムライマラソン』小松菜奈 単独インタビュー
毎日が闘いのような撮影現場
取材・文:高山亜紀 写真:日吉永遠
日本のマラソンの発祥とされる「安政遠足(あんせいとおあし)」を描いた幕末エンターテインメント『サムライマラソン』。企画・プロデュースは『ラストエンペラー』のジェレミー・トーマスと『おくりびと』の中沢敏明。監督は『パガニーニ 愛と狂気のヴァイオリニスト』のバーナード・ローズ。世界的スタッフが手掛ける群像劇に日本を代表するキャストが集結。小松菜奈は藩主の娘でありながら、自分の目で世界を見たいと城を飛び出す雪姫を演じている。
パワフルなバーナード・ローズ監督
Q:バーナード・ローズ監督との仕事はどうでしたか?
パワフルで明るくて、海賊みたいな人なんです(笑)。一生懸命、日本語を話して、周囲とコミュニケーションを図っていました。自分の撮りたい画は、ビジョンがちゃんとあり、役者に対してはすごく自由で、思っているようにのびのびやってほしいという方だったので、現場では常に話し合いが大事でした。現場に入る際にワークショップがあったんですが、「役としてバーにいる想定で会話してみて」と言われて、「時代劇なのにバー?」とすごく不思議な感覚でした。
Q:外国の監督が時代劇を撮るということは?
視点が全然、違うんです。いわゆる時代劇ではなく、西洋のスパイスが合わさることで、洋画みたいなテイストになっていると思います。もちろん、時代劇ならではの入り組んだ人間関係のドラマが根底にはきちんと描かれていて、そのバックに映っている風景の壮大さはなんとも言えません。観客として観ていると魅了されますが、現場は本当に混とんとしていて、毎日が闘いのような現場でした。監督の要望で、自由に演技をさせてもらっているからこその不安もあって。撮影中は天気の都合などでスケジュールが厳しくて、これで1本の映画になるのかしら? と思うこともありました。出来上がりを観たら、ちゃんと映画になっていて、それが一番びっくりしました(笑)。どんなときでも最終的には「監督がそこまで言うなら任せよう」ということで、現場はみんな一丸となっていて、士気は高かったです。
ライブ感を大切にした撮影現場
Q:劇中、アクションに近い殺陣シーンは迫力がありました。
そうですね。でも、すごく残念なことがあって、実はわたしにはもうちょっと長い殺陣のシーンがあって準備をしていたのですが、それが当日になくなっちゃったんです。監督は現場のライブ感をすごく大切にしていたので、台本にあることないこと、どんどん好きなように言っていいとおっしゃっていて。だから、みんなが準備して用意してきたものをその場でやるというのは好ましくなかったようです。「こう来たからこう避ける」というパターンを見せられても面白くないという監督のおっしゃることもわかりますが、そこを面白く見せるのが役者なので……。かといって練習してきたとはいえ、アクションのプロの方のようにその場で急に動けるわけもなくて……。わたしとしては複雑な思いでした。ただ、現場には時代劇の経験が多い方がたくさんいたので、その場で監督にいろいろプレゼンをされていて。今回のことは新鮮で楽しく、自分にとって大きな経験にもなりました。
Q:練習の成果が披露できなかったんですね。
それは本当にもうショックでした(笑)。自分の大きな見せ場で、好きな場面でもあったんです。時代劇は準備することが本当に多くて、撮影に入る1か月前から殺陣、乗馬、所作など時間をかけて一生懸命に練習していたので、撮影直前に急に変わったときは茫然としました。それでも雪姫を演じる上で、練習したことがちょっとした動きのなかにも生きていたら嬉しいです。
刺激を受けた森山未來との初共演
Q:主演の佐藤健さんとは何か話しましたか?
事前にはそんなに話していなかったです。監督はその場でわたしたちが戸惑うような反応すらもうまく利用していて、その瞬間を撮られている感覚がありました。わたしたちの“どうしよう”みたいな動揺の顔をとらえて、ハプニングを喜んでいるような感じがありました(笑)。
Q:佐藤さん含め共演者のみなさんとはアクションや殺陣のシーンについてどんな話をしましたか?
殺陣やアクションに慣れていた方たちも戸惑うような現場でした。自由過ぎて、逆に落としどころがわからない。だけど、現場を重ねていくうちに楽しんでいる自分たちがいたんです。みんな同じ気持ちを味わっているので、共感することも多くて「今日の現場どうだった?」「こんなことがあったんだよ」ってお互いに報告し合って、慰め合って(笑)。みんなの壁が取っ払われて、一人一人とすごく正直に向き合えたのはよかったです。本当にすごい現場でした。
Q:日本を代表する俳優たちの共演となりましたが、小松さんにとって刺激になったのは?
初めて共演させてもらったんですが、森山未來さんは生命力にあふれている方だなと思いました。現場での在り方、役に向き合ってる姿も本当に男らしいし、考え方がとてもかっこいいんです。役に対して自分なりの解釈、役としてのプロセスがちゃんとあって、役の面白さみたいなものをしっかり見つけていたので、見ていて楽しそうでした。今回の現場はそういう侍らしい方々がいっぱいいらっしゃったので、みなさんに対して敬意を抱いて、「自分も見習わなくちゃ、いいところを盗まなきゃ」とじっくり観察していました。なかでも森山さんと出会えたことは大きかったと思います。
女優業を楽しんで続けられる理由
Q:昨年末は『来る』で締めくくり、大活躍の年でしたね。
実をいうと、去年は一発目に『来る』の撮影をして、次に5月に公開される『さよならくちびる』を撮っていたんです。その後は作品に入ってなかったので、モデル業に集中して自分の時間も持てて、かなりゆっくりできたんです。今後の撮影では自分のこれまでのイメージとは全然違う激しい役に挑戦できたらなと思っています。23歳にもなりますし、また、いろんな殻が破れるのかなと思っています。
Q:毎回、殻を破っている印象ですよ。
激しい役もあれば、穏やかな役もあって、そのおかげで役者としても飽きずにいられるんですかね(笑)。全く違うからこそ楽しくて、やりがいがある。楽しんで女優業をやらせてもらえています。
Q:女優業は楽しいですか?
撮影中はテンパってばっかりです。ずっと考えていますね。ず~っとそればかり(笑)。周りの役者さんたちはすごい方ばかりなので、自分も負けたくないなと思いますし、役の何かを映画のなかに残したいとそればかり考えているんです。そんな風だから、作品に入ると、ずっと気持ちが張っている状態になります。なので、時には緩むことも必要ですね。次の作品に向かう気持ちを高めるために、わたしは作品の合間に大好きな旅行に出かけるようにしています。海外でも日本でも、近くでもいいんですけど、リラックスできる時間を現場と現場の間に挟んで気持ちを入れ替えることがわたしにはとても大事なんです。それも含めて、楽しくうまくやっていけてるのだと思います。
この穏やかな女性のどこにあんな激しい感情や表情が隠されているのだろうと取材をする度に不思議に思わずにいられない。ビジュアル的に大いに驚かされた『来る』に続く本作では強い意志と信念を内に秘めた凜とした雪姫を演じている。どんなファッションもクールに着こなす小松菜奈はどんな役にもかっこよくハマる。23歳の今年はどんな役をまとうのか。ワクワクしながらファッション誌をめくるように、彼女の新作は毎回楽しみで仕方ない。
映画『サムライマラソン』は全国公開中