ウーマンラッシュアワー、コンビ仲は悪化中 -『グリーンブック』
映画たて・よこ・ななめ見!
ジブリで宮崎駿監督の出待ちをしちゃうほど映画大好きな村本大輔と、映画に関しては素人同然の中川パラダイスが、あらゆる角度からブッ飛んだ視点で映画トーク。今回は、第91回アカデミー賞作品賞を受賞した映画『グリーンブック』をななめ見! 正反対な黒人と白人のドラマに大感動のウーマンが、コンビ結成時を振り返ります。(取材・文:シネマトゥデイ編集部・森田真帆)
『グリーンブック』
1960年代のアメリカを舞台に、白人の運転手トニー・リップと、彼を雇った黒人ピアニスト、ドクター・シャーリーが、黒人用旅行ガイド「グリーンブック」を手に、人種差別が残る南部を巡る人間ドラマ。性格も生活環境も正反対の二人を、ヴィゴ・モーテンセンとマハーシャラ・アリが好演。第91回アカデミー賞においてマハーシャラに2度目の助演男優賞をもたらし、見事作品賞も受賞した。
美しいコントラストに脱帽
村本:トニーとドクターがだんだん絆を深め合ってく感じが、俺の好きな『パーフェクトワールド』(1993)※みたいやったなぁ。二人が旅をする街の雰囲気や、音楽、乗っている車まで、めっちゃ綺麗で。そのコントラストが、一番心にグッときた。実は結構、疲れていた時に観て、酒もはいってたから絶対に寝るわと思ってたけど、全く飽きなかった。これといった波もないはずなのに。
※『パーフェクトワールド』ケヴィン・コスナー主演で犯罪者と少年の絆を描く感動作
中川:僕も最初の1時間くらいは、何も起きへん映画やな~って思うてたけど、二人がだんだん打ち解けて仲良くなっていくくらいから、熱い気持ちになれたなぁ。
村本:エリートの黒人と労働階級の白人っていうコンビが面白い。ドクターは音楽の才能に惚れ込んだ白人たちからは大歓迎されるんやけど、それでもまだ、南部では日常のように差別をされてしまう現実があって。それを描くことで、どんなに成功しても、黒人というだけで差別をされてしまうんやっていう現実を、知ることができたわ。
中川:僕は確かにそういう歴史とか、ぜんぜん知らんからなぁ。だから最初、南アメリカに行くって行ってもそれがどんなに危ないのかとか、厳しいんかも全然分からへんかった。
村本:南アメリカってお前……南アフリカみたいに言うな! あれは南部って言うんですよ、南部! お前にはやっぱ、キラキラな青春映画あたりがちょうどお似合いなんちゃうか?
中川:いや、俺はパニックホラーとかやな。いつパンデミックが起きるんか、ちょっとワクワクしてたもん!
村本:起きるわけないやろ! これはね、いわばコーヒーの味の違いがわかる人間が観られる映画ですよ。もうね、いっつもいっつも安い缶コーヒーばっかり飲んでるお前のような奴は、豆の煎り加減とか、ようわからんやろ。美味しいコーヒーの良さなんてわかるわけない! この甘口コーヒー牛乳野郎!
日本の差別を勉強する機会に
村本:黒人と白人でバスの席が分けられてたとか、現実にそういうことがあったんやっていう描写を見られることも大事。あと、ちょうど差別の話になったから言いたいんやけど、俺はこの映画をきっかけに、みんなが日本にもある差別にもちゃんと目を向けるようになるべきやと思う。朝鮮や韓国籍を保有していて、生きづらさを感じているような人が、実際にたくさんおんねん。在日韓国人の方の話なんかを聞いていると、時々、黒人差別の話を聞いているような感覚になるわ。こういう、良い映画を観て、ちょっと差別の歴史を調べたりして、教養を深めるのは大事やないかな。
中川:知らんかったことを知れることって、おもろいなって思うしな。
村本:この映画の見どころは、なぜドクターは、白人のトニーを運転手に雇って南部に行ったのか。ここやと思うねん。俺には、脳性麻痺のふうかちゃんっていう、車椅子生活の友達が北海道におんねんけど、前に「一回、私と一緒に北海道を回ってください。私のいつも見ている景色を見てください」って言われたことがあって。それがちょうど、その子に舞台の前座を頼んだんやけど、車椅子が難しい会場なのがわかって、断らなあかんかったときで。この映画を観ていたら、そのことを思い出したわ。もしかしてドクターも、同じように見えて、実は違う景色を、トニーに見てほしかったのかもしれないなって。
中川:なるほどな。そう言われるとドクターが見てる景色を、トニーに見せてる感じしたもんなぁ。
実はコメディー?
村本:あとすごいと思ったのが、南部の畑の前で車を修理してるシーン。畑で働かされてる黒人みんなが、高級スーツを着て、白人のドライバーを雇っているドクターを、じーっと見ているのがめっちゃ怖くて。黒人やのに、ドクターにはもう、黒人としての居場所もないんやなっていう。めっちゃ孤独な感じで、すごく象徴的なシーンやった。
中川:あれは悲しかったなぁ。でも、そういう悲しいシーンだけじゃなくて、めっちゃ笑えるシーンもあって、そのバランスも良かった!
村本:この映画の監督って(お下劣ラブコメ)『メリーに首ったけ』の人なんやろ? すごいよな! コメディーをやってきただけあって、二人の掛け合いなんかもほんまに面白く作られてて、びっくりしたわ。出てくる白人たちが、滑稽に見えるのも面白い。いうたら、人種差別コメディーみたいな。
中川:二人の掛け合い、最高やったな。会話を聞いているだけで、お互いの距離がどんどん縮まっていくのがわかったし。荒っぽいトニーがめっちゃ素直だったりするのもおもろい。奥さんから、旅先で手紙書けとか言われてちゃんと約束守ってて。俺なら恥ずかしすぎて絶対描かんで。もうイカツイくせにロマンチックすぎるやろって(笑)。
村本:ほんま、言われた通りやってたもんな(笑)。
漫才コンビとの共通点
村本:なんか、突然見ず知らずの人間同士がコンビになるっていう点では、二人と漫才コンビって似てるよな。
中川:確かに。一方がネタを書いて、相方はそれについて行くだけってのも、トニーがドクターの言う通りに手紙書いてる感じに似てるね。
村本:ただな、この映画の二人は徐々に仲良くなっていくやん? でも、俺ら芸人の場合は逆やで。徐々に嫌いになっていっとるから(笑)。だんだん喋らなくなってくるしな。
中川:結局、僕らだって一番仲良かったのは、コンビ結成のころやったもんね。NSCの先輩後輩の関係で、バイクを二人乗りしたりして……楽しかったなぁ。
村本:あの頃は友人関係で、ビジネスは関係なかったもんな。ダメ出しもしないし。でもなぁ、どちらかと言うと、メインの二人っていうより、俺がドクターで、お前は彼のバンドメンバーって感じやで。
中川:全然違うわ!
映画『グリーンブック』オフィシャルサイト
(C) 2018 UNIVERSAL STUDIOS AND STORYTELLER DISTRIBUTION CO., LLC. All Rights Reserved.
※記事内容には個人の意見が含まれています
ウーマンラッシュアワー・プロフィール
2008年に結成された、村本大輔と中川パラダイスによるお笑いコンビ。2011年「ABCお笑い新人グランプリ」最優秀新人賞受賞、2012年「THE MANZAI 2012」決勝進出、2013年NHK上方漫才コンテスト優勝など数々の賞に輝き、4月に東京進出。「THE MANZAI 2013」で見事優勝し、3代目王者に輝いた。
村本大輔 1980年生まれ。福井県出身。自分でも「ネットに書き込まれるうわさはほとんどが事実です!」と認めている、自称・ゲス野郎芸人。だがその一方で、ジブリ作品やピクサーなどの心温まるアニメが大好きで、映画『あなたへ』で号泣するほどのピュアな一面も持ち合わせる大の映画好き。水産高校に通っていたため(中退)、お魚系や海洋ネタにも意外に詳しい。
中川パラダイス 1981年生まれ。大阪府出身。これまで10回もコンビ解散している村本と唯一トラブルもなくコンビを続けている広い心の持ち主。2012年に入籍し、現在1児の子育てを満喫中のイクメンパパでもある。映画に関しては、「王道なものしか観ない」というフツーレベル。