トップクリエイターを揃えたApple TV+オリジナルドラマ5作品
去る、3月26日(現地25日)、米カリフォルニア州クパチーノのApple本社スティーブ・ジョブズ・シアターでスペシャルイベント「It’s show time」が開催され、Appleオリジナルの番組、映画、ドキュメンタリーなどの映像配信サービス、Apple TV+が発表された。サービスの詳細については明かされなかったがサービスの開始が世界100か国で秋ということは明言。ここではこの日に発表されたオリジナルのドラマコンテンツに絞って紹介する。位置づけとしては映画ではなくドラマだが(総合的な規模は大作映画並)全何話になるなどの言及はなかった。既存の映像配信サービスのオリジナル作品には、映像史に残るほどの名作もあるが、それがまたオリジナル映像作品の魅力であったりするとはいえ、首をかしげたくなる実験的作品もある。少なくとも、Appleが今回発表した作品に、最初から実験的作品を狙ったものは見当たらなかった。キャッチフレーズが「for the world's most creative storytellers」というだけに製作陣やキャスト、規模、どこをとってもトップクリエイターばかりのA級品印を掲げている。(編集部:下村麻美)
「アメージング・ストーリーズ(原題) / Amazing Stories」
スティーヴン・スピルバーグの同名作品のリブート。オリジナルは1987年に公開された映画で、3つの物語からなるホラーアンソロジー。今作はオリジナル版とはまったく違った解釈になるというが、第二次世界大戦を舞台にしたエピソードがあるなど重なる部分はある。オリジナル版は、スピルバーグがテレビドラマ「ミステリー・ゾーン」にオマージュをささげた作品でもあり、本作も映画ではなく、ドラマなので原点回帰ということもあるかもしれない。人気テレビシリーズ「ワンス・アポン・ア・タイム」のプロデューサー、アダム・ホロウィッツとエドワード・キッツィスも製作に参加することからファンタジックな画になることも予想される。キャストについての言及はなかったが、名も無き俳優を魅力的に映し、後に大スターになることが数多いスピルバーグの先見の明は右に出るものがおらず、ニューフェイスの登場には期待大。
「ザ・モーニング・ショウ(原題) / The Morning Show」
女性キャスターを中心に朝のニュース番組の裏側を描く。職場の男女格差の問題などに切り込んでいく。すでに2シーズンまで製作されることが決まっている。リース・ウィザースプーン、ジェニファー・アニストン、スティーヴ・カレルのほかビリー・クラダップ、マーク・デュプラスなどの出演が予定されている。中心となる3人だが、リースは人気ドラマ「ビッグ・リトル・ライズ ~セレブママたちの憂うつ~」で存在感を放ち、アニストンといえばご存じ「フレンズ」のレイチェル! カレルもコアなファンが多い「ザ・オフィス」でナナメ上をいく愛すべき上司になり、ドラマでは人気キャラクターを演じている。そんな主役級の3人が一緒にというのはどのような化学反応が起きるのか楽しみだ。MeToo問題に揺れたハリウッドだったが、テレビ業界や世の中に蔓延する男女格差についてどう取り組むのか、興味深い。
「シー(原題) / See」
原因不明で突然盲目になった男の戦いを描くSFファンタジー叙事詩。ジェイソン・モモア、アルフレ・ウッダードが出演。Netflixの「ピーキー・ブラインダーズ」のスティーヴン・ナイトと『ハンガー・ゲーム』『アイ・アム・レジェンド』とランシス・ローレンスが監督・製作にあたる。『アクアマン』で一躍人気スターの仲間入りをしたモモアが、本作でも鋼のように強靱で、整ったシルエットのもはやアートともいえる肉体美を存分に見せてくれる。盲目の男のアクションといえば『デアデビル』がNetflixで人気の高いまま終了しているが、強いだけでなく悲哀も背負ったヒーローをどう演じるのか、モモアの真骨頂となるニューヒーローの誕生に期待したい。
「リトルアメリカ(原題)/ Little America」
アメリカの移民を描く事実に基づく物語。『ビッグ・シック ぼくたちの大いなる目ざめ』や「シリコンバレー」のクメイル・ナンジアニが脚本を務め、リー・アイゼンバーグや「マスター・オブ・ゼロ」のアラン・ヤンがプロデューサーを務める。クメイルは、コメディアンでもあり、「シリコンバレー」でそのコミカルな演技を発揮しているが、優秀な脚本家でもありコメディーセンスを絶妙なバランスで取り入れた『ビッグ・シック ぼくたちの大いなる目ざめ』は評価が高い。自身もパキスタンからのアメリカ移民であることから、リアルでありながらも、笑えるハートフルな物語になるだろう。
「リトル・ボイス(原題)/ Little Voice」
ニューヨークでシンガーソング・ライターを目指し奮闘する女性の物語。ミュージカル仕立てでコメディー要素も盛り込まれているという。J・J・エイブラムスとサラ・バレリスが共同製作する。J・Jといえば「LOST」や「FRINGE/フリンジ」を手掛けているが、それよりも「フェリシティの青春」に近い女性の成長物語だという。ミュージカルシーンもふんだんに取り入れられており、ドラマだけでなく、2度おいしい作品といえよう。ミュージカルといえば単純なストーリーが多いが、複雑な人間関係をドラマチックに描くことでは定評のあるエイブラムスがどう調理していくのか楽しみだ。
<取材後記> ほかにも「セサミ・ストリート」でおなじみのビッグバードがMCをするプログラミング教育番組「ヘルパーズ(原題 )/ Helpsters」やオプラ・ウィンフリーの番組「Toxic Labor」が発表された。全体的な印象としては、大ヒットブロックバスター映画やドラマを好む観客であれば迷うことなく興味を示すであろう安定感のあるラインナップだということ。見る作品に迷ってジャケットサーフィンをしている者にとってひとまず手を止めるパワーを持った作品群であることは間違いない。
いくつか不思議に思ったこともある。たとえば、この日発表はされなかったが、映画『アベンジャーズ』シリーズのキャプテン・アメリカ役のクリス・エヴァンスが主演と製作総指揮を務める「ディフェンディング・ジェイコブ(原題)/ Defending Jacob」などもラインナップ入りのうわさがあり、クリスはAppleのイベントにも来場していることから信憑性は高いといえるが、なぜこの日この作品について一切発表がされなかったのだろう。また会場のスクリーンで上映されたプレビューには、M・ナイト・シャマラン監督やソフィア・コッポラ、ロン・ハワードなどが登場しているのだが、彼らの作品についても特に発表がなかった。また、これはAppleサイドからは正式発表がされてはいないが、映画『キャプテン・マーベル』のブリー・ラーソンのCIAを描いたドラマや『ラ・ラ・ランド』のデイミアン・チャゼルが監督するドラマなど、Apple TV+のオリジナルコンテンツはそのほかにもたくさん控えているはず。その証拠にこの日のイベントには、ユアン・マクレガーやドラマ「ブレイキング・バッド」のピンクマン役アーロン・ポールなどアカデミー賞やエミー賞の授賞式並にスターが来場していた。これらの作品はなぜ、一切発表されることなくイベントは終わったのだろうか。
また、このサービスが定額で見放題のサブスクリプションサービスの中で展開されるのかや日本へのサービスも気になる。Netflixが日本の進出に慎重だったように日本人のエンターテインメントの嗜好は、世界からみると独特ともいわれており、日本でサービスが始まるにあたっては、日本人向けのカスタマイズも必要になってくるだろう。今回の発表会はひとまずアウトラインの発表ということで、華やかなスタートダッシュを切った。次回の詳細発表を待ちたい。Apple TV+の試聴はApple TVのアプリから可能になりiPhone、iPad、MacやAmazonのFireやサムスン、LG、ソニー製のスマートTVでも試聴可能になるという。