映画館でできることを考える…の巻
まほの別府ブルーバード劇場日記
別府ブルーバード劇場のお手伝いをし始めたとき、自分の中で目標に定めたことがありました。それは、1. 数か月に1回、映画のイベントを開催する。2. 小さくてもいいから映画祭を開催する。の2つでした。(森田真帆)
映画祭は3年前から実現し、数か月に一回のイベント開催と定めていた目標は今、ほぼ毎月レベルでイベントができるまでに達成され、私自身も月に何回もイベントがあるときは、毎週別府と東京を往復しては「お金がやべえ!」と嬉しい悲鳴をあげています。
映画『隣る人』の上映が決定!
そんな中で、昨年あたりから試みているのが「映画を通して社会問題を考える」というイベントです。LGBTをテーマにした作品を上映して、私のお友達のドラァグクイーンを招いてトークショーをしたり、震災の作品を上映したり、戦争映画を上映して平和について考えたり、「映画」というみんなでシェアしやすいコンテンツを使って一緒に考えるようなイベントをしています。
今回決まったのが映画『隣る人』の上映です。千葉県野田市でおきた栗原心愛ちゃんの虐待死事件、目黒区で起きた船戸結愛ちゃんの虐待死事件。心の痛む事件が続きました。その度に児相の対応、教育委員会の対応、学校の対応にたくさんの批判が集まりました。2012年に上映された映画『隣る人』は、2011年10月時点で、全国でおよそ3万人の子どもたちが預けられていた児童養護施設の一つ「光の子どもの家」の日々の生活を、8年にわたり追い続けたドキュメンタリーです。何らかの理由で親と生活を送れず、施設で過ごす子どもたちをめぐる何げない日常を丁寧に描き出します。この映画を緊急上映することで、みんなでちゃんと考えたい! と上映を決めたのです。
トークゲストを探せ!
わたし森田はふだん東京で仕事をしているため、仕事のスケジュールをぬいぬいしながら別府に行きます。そして、その限られた時間の中でブルーバード関連のことをブワーーーってやって帰るのがいつもの森田です。
緊急上映だったので2月23日からの上映が決まったのは、2月10日のことでした。上映まで1週間しかないから、告知も急いでやらないと間に合わないのですが、どうしてもこの映画でトークイベントがしたかった。映画を観て、現場の人の声を聞いて、そして私たち一般の人間が小さな命を助けるためにどんなことができるのかを考えたいと思ったからです。
そこでわたしの頭に思い浮かんだのは、いつも映画を観に来てくれる常連さんの「タローさん」。タローさんは市役所で働いていて、照館長の娘・実紀さんの同級生のおっちゃんで、映画を観て、みんなで照ちゃんの甥っ子が経営しているスナックに飲みに行っては酔っ払っている陽気な人。わたしは以前、太郎さんがふと「おれなあ、昔、児童相談所にいたことがあって。そのとき子供がひとり虐待で亡くなったんだよ。辛かったなあ」と話していたことを思い出しました。「太郎ちゃんなら、きっと話をしてくれる!」。すぐに別府に飛んで実紀さんと一緒に市役所へGO! 太郎さんを探して「トークゲストになって、現場レベルの話をしてほしい」とお願いしました。
「自分ができることだったら、協力させてほしい」と快く返事をしてくれた太郎さんは携帯を取り出すと「もう一人、一緒にトークしてくれる人がいると思うから」と番号を押し始めました。電話の相手は、別府にある児童養護施設「別府光の園」の職員さん。「おれが児童相談の担当になったとき、本当に助けてもらった人たちだから」と太郎さんが電話すると、その方が偶然市役所にいたこともあって5分後に来てくれるとのこと。トークイベントが来週しかできないことも、どうしても虐待の話を現場レベルで話してほしいということもお願いしたところ「うちの施設長を紹介しましょう」と言ってくださり、私たちはその日の夜に施設長さんにお願いをしにいきました。
初めてお会いした施設長さんの松永忠さんは、わたしに虐待問題の難しさ、そして今回の虐待事件の見解を2時間以上語ってくれて、その熱に心から感動しました。そして、開催まで1週間もない状況で、トークショーへの登壇を快くOKしてくれたのです。
映画を通じて、私たちができることを考える
映画『隣る人』のアフタートーク付き上映は、水曜日の夜に開催されました。平日の夜なんて、ブルーバードではなかなか観客の人が来ない時間。この日もそんなに多くの人たちは来れないだろうと思っていましたが、なんと場内は満員! 常連のお客様に加え、教育関係の方や、児童福祉に関わる方など本当にたくさんの方々がいらしてくださいました。
第一部の映画『隣る人』の上映が終わると、早速アフタートークへ。実際に児童虐待の現場に関わってきたお二方の話はとても貴重で、私たち一般の人間が「見て見ぬふり」をするのではなく、きちんと通報するという行動にでなければならないこと。そのための、虐待防止ネットワーク「189」という番号があることなど、地域の子供達を守るためにできることを話し合うことができました。トークショーでは、野田市で起きた小学生の虐待事件に対しての松永施設長の言葉「小学校四年生の女の子が虐待で死ぬというのは、どれだけ恐ろしいことかを皆さん知ってください。小学生の女の子は立派な大人なんです。幼児ではなく、小学生の子供が死んでしまうのはよっぽどの暴力が加えられ、そして本人が生きることを諦めたということ」に、客席からはすすり泣きが聞こえました。
別府ブルーバード劇場では、楽しいイベントもたくさんしていきたいと思っていますが、こんな風に映画を通して、みんなで社会を考えていくことも大事なのだ! と改めて思ったのでした。