間違いなしの神配信映画『ブライト・ライツ:キャリー・フィッシャーとデビー・レイノルズ主演』Amazon Prime Video
神配信映画
ドキュメンタリー編 連載第3回(全7回)
ここ最近ネット配信映画に名作が増えてきた。NetflixやAmazonなどのオリジナルを含め、劇場未公開映画でネット視聴できるハズレなしの鉄板映画を紹介する。今回はドキュメンタリー編として、全7作品、毎日1作品のレビューをお送りする。
ハリウッドのセレブ一家、“親友”となった母娘の絆を浮き彫りに
『ブライト・ライツ:キャリー・フィッシャーとデビー・レイノルズ主演』Amazon Prime Video
上映時間:94分
キャスト:キャリー・フィッシャー、デビー・レイノルズ、トッド・フィッシャー
「母にとって、わたしは娘というより親友なの。自分自身の延長線上に置いておきたいのよ。母が何を感じ、何を求めるか、母親以上にわかるときがある」
キャリー・フィッシャーは、母親デビー・レイノルズについて劇中でこう語る。
HBOドキュメンタリー・フィルムズ他が製作を手がけたHBO配給作品『ブライト・ライツ:キャリー・フィッシャーとデビー・レイノルズ主演』(2016)は、『雨に唄えば』(1952)や『西部開拓史』(1962)などで知られるデビー・レイノルズと、その娘であるキャリー・フィッシャーの母娘関係を追ったドキュメンタリー。
映画業界が大好きで、観客の前に立つことを何よりも愛する母。幼少の時からパパラッチに追われ、思春期から麻薬に溺れ、躁鬱(そううつ)を繰り返すその娘。だが時を経て、冒頭の言葉のように親子というより支え合う“親友”となっていく。その過程を2人のインタビューやさまざまなフッテージ映像、家族のホームムービーを交えて描いていく。
「家族から得られないものを、ショービズから得ているのよ。母を支えているのは、家族ではなく観客よ」と娘は母親について言う。歳を取り、どんなに体が辛くなろうとも昔と変わらない姿を求め、老いてなおステージショーを行うデビー。そのことに苛立ちを覚えながらも、年齢と経験を経てその気持ちを娘は理解していく。2人の関係とドラッグに溺れた時代については、キャリーが1978年に執筆した「崖っぷちからのはがき」(キャリーの脚本で1990年『ハリウッドにくちづけ』として映画化もされた。ちなみに母娘を演じたのは、シャーリー・マクレーンとメリル・ストリープ)に詳しく書かれている。
相当な映画ファンだったデビーが、私財をつぎ込んで映画で使用された衣装や小道具を収集していたというエピソードには驚かされる。きっかけはMGMで行われたオークションで、貴重な品々が散逸するのを守るためだったという。中にはマリリン・モンローの『七年目の浮気』(1955)のドレス、『オズの魔法使』(1939)のドロシーの衣装、『クレオパトラ』(1963)の衣装やエリザベス・テイラーのメイク用の椅子なども。しかし、映画博物館を作ろうと何十年も夢見ていたデビーの願いは、実現には至らなかった。残念がるデビーの姿に、心の底からハリウッド映画を愛していたことが感じられて胸が熱くなる。
ハイライトは、多くのヒット映画やヒット曲を残したものの、賞とは無縁だったデビー・レイノルズが、2014年に全米映画俳優組合から生涯功労賞を受けるくだりだ。プレゼンターは娘のキャリー。直前までふらついていた母を心配するが、壇上に立つやお気に入りの一本であった『不沈のモリー・ブラウン』(1963)から引用した感動的なコメントを放つ。その姿はまさに“ハリウッドスター”だ。
本作は、2016年5月に開催された第69回カンヌ国際映画祭で初披露された。まさかその半年後に、これほどの悲しい出来事が起ころうとは誰もが思ってもみなかっただろう。同年12月27日に娘キャリーが心臓発作で死去、享年60歳。『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』(2016)で、若き日の“レイア姫”を目にして、わずか10日あまりのことだった。そして、翌日には娘を追うように母デビーも亡くなった。享年84歳。偶然とはいえ、この母娘の絆の強さを表わしているかのような訃報に、改めて本作がカメラに収めた映像の貴重さを思う。(角安蘭)