間違いなしの神配信映画『チェイシング・コーラル -消えゆく珊瑚礁-』Netflix
神配信映画
ドキュメンタリー編 連載第4回(全7回)
ここ最近ネット配信映画に名作が増えてきた。NetflixやAmazonなどのオリジナルを含め、劇場未公開映画でネット視聴できるハズレなしの鉄板映画を紹介する。今回はドキュメンタリー編として、全7作品、毎日1作品のレビューをお送りする。
陸の上からは知ることのできない、その知られざる危機を告発
『チェイシング・コーラル -消えゆく珊瑚礁-』Netflix
上映時間:89分
監督:ジェフ・オーロースキー
キャスト:アンドリュー・アッカーマン
海の中に美しい景観を作り出しているサンゴ礁。それが、いま急激に減少の一途をたどっているという。陸の上からは知ることのできない、その知られざる危機を告発し、エミー賞・自然ドキュメンタリー部門で最優秀賞を獲得したのが、ドキュメンタリー映画『チェイシング・コーラル -消えゆく珊瑚礁-』(2017)である。
本作は、まずサンゴの不思議な生態を伝えていく。サンゴ礁は“ポリプ”と呼ばれる小さな個体が無数に集まることで形成される立体的な構造物であり、生命そのものの建築物だ。水域によってはそれが壮大な規模に及び、宇宙からも確認できるのだという。日中は、日の光を浴びて光合成を行う「植物」として活動するが、夜は触手を伸ばし、「動物」として活発化、そばを泳ぐものを捕らえる。そして、死ぬと白く変色し、波に打ち上げられて熱帯に幻想的な白い砂浜を作りあげる。
80年代から、そんなサンゴ礁が、大規模に死滅し、海中に真っ白なサンゴの死骸が無視できない規模で広がる「白化現象」が発見され始めた。研究者たちは現在までに、この現象が世界の海で起こっていることを確認している。その原因として考えられるのは、「地球温暖化」である。水の温度が上昇し、世界中の海はサンゴにとって生存しづらい環境へと変わってきているのだ。
わずか数か月で、サンゴが急激に白化していく。そして、そこで生きる魚類たちも姿を消す。本作では、オーストラリアのグレートバリアリーフのサンゴ礁が、1年間で29%が死滅したという、あまりにショッキングなデータが明かされる。 今後、温暖化現象は進むことが予測され、このままでは近い将来、サンゴ礁がほぼ死滅するかもしれない。
本作に登場するのは、サンゴに愛情を持った人々だ。だからこそ彼らは同じ問題意識を共有し、連帯する。彼らの努力や協力によって、死滅するサンゴ礁による、白くなり果てた海中の光景が撮影され、そのことの意味が解説される。
「海のオアシス」とも呼ばれ、多くの海洋生物の住処(すみか)や、産卵場所になったりしているサンゴ礁。その役割は、海の生物のためだけでなく、津波の防波堤として機能したり、二酸化炭素を吸収したりなど、人間の生きる環境にも影響を与えている。
普段見ることができず、その役割も広く知られているわけでないため、地球規模のサンゴ白化現象は、あまり人々に関心を持たれていない。本作において、サンゴ研究の第一人者であるジョン・“チャーリー”・ベロン博士は、温暖化だけでなく、人間の海洋における開発がサンゴ礁に深刻なダメージを与えていることを指摘し、「訴え続けることが必要だ。その歩みを止めてはならない」と語る。
人間の都合によって、サンゴ礁は深刻な被害を受け、姿を消していく。それは、人間が自分で自分の首を締めているようなものだといえる。本作の映像は、そんな矛盾をはらんだ問題に対して「自分にも何かできないか」と、観る者に思わせる力を持っている。
知られざる重要な事実をそのまま映し出し、人々に現実の問題を認識させる。これこそ、ドキュメンタリー映画の大きな役割であるだろう。(文・小野寺系)