東野圭吾原作映画総まとめ!~初映画化から20年、国内映画化20作~
玉森裕太、吉岡里帆、染谷将太という若手実力派が2つの世界で不可思議な三角関係を作っていく『パラレルワールド・ラブストーリー』。向かい側の電車で窓越しに見つめ合うだけだった麻由子(吉岡)がある日親友の智彦(染谷)の恋人として現れて、大いに戸惑う崇史(玉森)……。という夢から目覚める崇史は同棲中の麻由子に変な夢を見たと語り、親友の智彦と久しく連絡を取っていないことに気づき、戸惑う。妙に生々しい夢に何か違和感を感じた、麻由子にも秘密にしたまま、真相を探り始める。どちらが真実なのか? 麻由子が本当に愛しているのはどちらなのか? 目覚めるたびに変わる2つの世界のラブストーリー、その原作はベストセラー小説を連発している東野圭吾です。
そして本作は1999年の『秘密』の映画化以来20年目の作品であると同時に、国内映画化20作品目という節目の作品でもあります。そこで、その20年の20作品、さらに海外リメイク作品まで一気にまとめます。(村松健太郎)
人気シリーズ「ガリレオ」と「新参者」
- 『容疑者Xの献身』(2008)
- 『麒麟の翼 ~劇場版・新参者~』(2011)
- 『真夏の方程式』(2013)
- 『祈りの幕が下りる時』(2017)
- 『マスカレード・ホテル』(2018)
多くの作品を手掛けている東野圭吾ですが、その中でもデビュー作の「卒業」から続く“加賀恭一郎”シリーズと天才物理学者湯川学が主人公の“ガリレオ”シリーズは息の長い作品となっています。
加賀恭一郎は原作では国立大生として登場し、警視庁捜査一課を経て練馬署の刑事に、その後日本橋署に異動、最新作のエピローグに本庁(警視庁)に異動することが示されています。
この流れの中で日本橋署に異動して(その土地では)“新参者”になった加賀が主人公になる小説「新参者」がテレビドラマ化。
さらにスペシャルドラマや映画『麒麟の翼 ~劇場版・新参者~』『祈りの幕が下りる時』へと続いたこともあって「新参者」シリーズとも呼ばれています。加賀恭一郎を演じるのはドラマから一貫して阿部寛が演じていて、彼自身の代表作にもなっています。ただ、その前に一度だけドラマで山下真司が演じたことがあります。
同じく映像化でも成功した代表的なシリーズが“ガリレオ”こと天才物理学者・湯川学を福山雅治が演じた「ガリレオ」シリーズです。
2度の連続ドラマにスペシャルドラマ、そして2本の映画『容疑者Xの献身』『真夏の方程式』に結びついた人気シリーズは俳優としての福山雅治の代表作となり、また新人女性刑事役の柴咲コウとのユニット「KOH+」の主題歌も大ヒットしました。
東野圭吾が2010年代に入って新たにスタートしたのが、高級ホテルを舞台にした「マスカレード」シリーズ。
そのシリーズ第一弾を主木村拓哉と長澤まさみのダブル主演で映画化したのが『マスカレード・ホテル』です。映画はおおむね好評で、ヒットもしたことで「新参者」「ガリレオ」に続く映像化シリーズになるかもしれませんね。
理系出身ならではのSFサスペンス作品
- 『秘密』(1999)
- 『変身』(2005)
- 『プラチナデータ』(2012)
- 『ナミヤ雑貨店の奇蹟』(2017)
- 『ラプラスの魔女』(2018)
- 『パラレルワールド・ラブストーリー』(2018)
もともと、大学の工学部出身で現デンソーでサラリーマンをしていた経験もある東野圭吾は、その作品の中に「SF的な」仕掛けを持った作品が多数存在します。
「ガリレオ」シリーズもその流れの中で誕生したものといっていいでしょう。
このカテゴリーの中での最新作は『パラレルワールド・ラブストーリー』です。
“パラレルワールド”という概念はもちろんバーチャルリアリティーなどの“らしさ”を感じるエッセンスと三角関係のラブストーリーの融合が楽しめます。
ちなみに原作と比べると、映画独自の展開もあって、どちらも独立して楽しむことができます。
2018年に櫻井翔・福士蒼汰・広瀬すずという豪華キャストで映画化されたのが『ラプラスの魔女』。天才的な頭脳による予知が全体の鍵になっています。三池崇史監督作品ということもあって、クライマックスは外連味あふれた作品に仕上がりました。
また、DNA捜査操作によって検挙率100%になった近未来を舞台にしたのが、二宮和也、豊川悦司主演の『プラチナデータ』。
時空を超えて本来結びつかない人と人が出逢っていく奇蹟を描いた『ナミヤ雑貨店の奇蹟』(山田涼介主演)では、バラバラに見えたエピソードが集約されていき温かい感動を呼びます。
『パラレルワールド・ラブストーリー』などにもある“意識のあり方”は東野作品では定番のモチーフですが、初の映画化作品『秘密』(広末涼子主演)や『変身』(玉木宏、蒼井優主演)といった作品でも描かれています。
入門編としてミステリー・サスペンスの4作
- 『g@me.』(2003)
- 『レイクサイドマーダーケース』(2004)
- 『夜明けの街で』(2011)
- 『疾風ロンド』(2016)
SF的要素を排して、より純粋なミステリーとなっているのがこの4作品です。テイストとしては「新参者」シリーズなどに通じる作風なので、入門編としてはおすすめです。
横浜を舞台にした岸谷五朗と深田恭子の不倫劇と時効を迎える事件を絡めた『夜明けの街で』。
仲間由紀恵がファムファタール(魔性の女)を演じる小説「ゲームの名は誘拐」を基にした『g@me.』。
お受験合宿の中で起きる殺人事件と3つの家族を描いた、役所広司と薬師丸ひろ子主演の『レイクサイドマーダーケース』(原作名は「レイクサイド」)。
“新参者”以外で阿部寛が東野圭吾作品に出演した、サスペンスにユーモアを加えた『疾風ロンド』などがあります。
本格的な社会派ドラマも…
- 『手紙』(2006)
- 『さまよう刃』(2009)
- 『白夜行』(2010)
- 『天空の蜂』(2015)
- 『人魚の眠る家』(2018)
事件以上に人間としてのあり方、過酷な運命を正面から描いた本格的な社会派ドラマも多くあります。
篠原涼子主演の『人魚の眠る家』は脳死状態に陥った愛娘を外部からの刺激で肉体的に生き続ける状況にしたことで、生命のあり方、生きているということとはなんなのか? という難問に苦悩する両親の物語です。
事件に巻き込まれた人間を扱った作品としては、『手紙』『さまよう刃』『白夜行』の3作品。
『手紙』では加害者家族となった青年(山田孝之)が、『さまよう刃』では少年犯罪の被害者家族となった父親(寺尾聰)が主人公です。
『白夜行』は、とある事件の被害者の息子(高良健吾)と容疑者の娘(堀北真希)が、その後たどる数奇な運命を19年にわたって描く大河ドラマです。
東日本大震災以降“未来を予知していた”とも言われるようになった小説を映画化した、江口洋介と本木雅弘共演の『天空の蜂』(2015)は“原発の安全神話”というある種のタブーに挑んだ社会派大作です。
人気はアジア圏でも!海外リメイク作品
- 『秘密 THE SECRET』(2007)
- 『白夜行 -白い闇の中を歩く-』(2009)
- 『容疑者X 天才数学者のアリバイ』(2012)
- 『さまよう刃』(2014)
- 『ナミヤ雑貨店の奇蹟 -再生-』(2017)
- 『嫌疑人X的献身』(2017)
東野圭吾の作品は日本だけにとどまらず韓国・中国などアジア圏でも高い人気を誇ります。韓国では韓国人作家も含めてみても国内で1、2を争う人気作家となっています。
小説「容疑者Xの献身」はアメリカ探偵作家クラブの主宰する優れた長編推理小説に与えられるエドガー賞長編賞の2012年の候補作にもなっています。
『秘密 THE SECRET』は俳優としても活躍するヴァンサン・ペレーズが監督した作品で、主演は海外ドラマ「X-ファイル」のモルダー捜査官でお馴染みのデヴィッド・ドゥカヴニーというフランス映画です。
『白夜行 -白い闇の中を歩く-』『さまよう刃』の2作品は韓国映画で、韓国での東野圭吾人気を示しているといっていいでしょう。
どれも原作と日本版を踏襲しつつも独自のアレンジを加えています。『白夜行 -白い闇の中を歩く-』は描写に遠慮がなく日本ではR18指定映画となっています。
『さまよう刃』もバイオレンス描写に容赦のない韓国映画らしい作りになっています。
『容疑者X 天才数学者のアリバイ』『嫌疑人X的献身』はそれぞれ韓国と中国でのリメイク版です。韓国版の『容疑者X 天才数学者のアリバイ』ではなんとガリレオ先生が丸々出てきません。オリジナル版で北村一輝が演じた草薙刑事に当たる役どころに集約されていて、天才数学者が名実共に主役となっています。
中国版の『嫌疑人X的献身』ではガリレオは警察学校の指導者といった立場の人になります。どちらも警察の描写などがそれぞれのお国柄に合わせてアレンジされています。
『ナミヤ雑貨店の奇蹟 -再生-』は日本と同じ2017年に中国で公開された香港・中国・日本の合作映画です。日本でも2018年に公開されていて、オリジナル版では西田敏行が演じたナミヤ雑貨店の老店主をあのジャッキー・チェンが演じています。
日本の映画だけでも20作品が映像化されていて、海外でも映像化作品が多く、テレビドラマまで含めると複数回、映像化されている作品もある東野圭吾の世界。
ライトタッチから重厚なドラマまでさまざまなジャンルがありますが、エンターテインメントであるという基本的な部分はしっかりと確保されていて、想像よりはるかに敷居は低いです。「読んでから見るか、見てから読むか」は角川映画のかつての売り文句ですが、まさに東野圭吾作品はそんな作品といっていいでしょう。
映画にしても小説にしてもどちらからも入りやすいので、ぜひ片方を味わったらもう一方にもチャレンジしてみてください。