『貞子』池田エライザ 単独インタビュー
貞子が出てもおかしくなかった撮影現場
取材・文:坂田正樹 写真:日吉永遠
ジャパニーズホラーブームの火付け役となった映画『リング』(1998)の生みの親である中田秀夫監督が、『ザ・リング2』(2005)以来、実に14年ぶりにシリーズのメガホンを取った映画『貞子』。主演を務めたのは、女優として映画・ドラマで活躍する一方で、映画監督デビューも決まった池田エライザ。鈴木光司のホラー小説「タイド」に基づき、時代を反映した新たな恐怖が展開するなか、決死の覚悟で“中田組”に挑んだ彼女が過酷な撮影を振り返った。
オファーが来たとき正直戸惑った
Q:1作目の松嶋菜々子さんをはじめ、中谷美紀さん、石原さとみさん、瀧本美織さんら錚々たる女優陣が貞子と対峙してきました。池田さんも今回、その仲間入りを果たしましたね。
日本の代表的なホラー映画シリーズに、わたしを指名してくださったことに関しては、とてもうれしかったですね。ただ、すごく怖がりなので、決断するのにかなり勇気が必要でした。
Q:そう言えば、 Twitterで『貞子』の予告編が「怖くて夜見返せない」とつぶやいていましたね。もともとホラー映画は苦手だったのですか?
実はすごく苦手で、オファーが来たときは正直、戸惑いました。事務所の社長から「この脚本を読んでみてください」とお話が来ると、いつもはその日のうちに全部読んでしまうのですが、この作品だけは脚本を開くまでに2日かかりました。だって、表紙に思いっきり『貞子』って書いてあるし……(笑)。幼少期に『リング』をたまたま観ちゃったんですが、トラウマになるくらい怖くて。その影響で、ホテルのテレビにも布をかけちゃうくらいですから。完全に貞子を怖がっている身としては、そのくらいハードルが高かったです。
Q:2日目でようやく開いた脚本、その先に何がありましたか?
なんとかページを開いて読み進めていくと、貞子の怖さよりも、「弟が行方不明になる」という状況に直面した主人公・茉優(まゆ)の気持ちがつらくてたまらなかった。わたしにも弟がいるのですが、自分と照らし合わせてみると、茉優を演じることに最後まで耐えられるかな、と思い始めて……。それが一番の悩みでしたね。
なぜ、わたし?悩んだ末に中田監督に相談
Q:最終的に出演を決断した要因は何だったのですか?
茉優を演じられるかどうか、本気で悩んでしまったので、中田監督のもとへ直接相談に行きました。こんな生意気なことを聞いちゃいけないと思いながら、「どのような意図でわたしに声をかけてくださったのか」「鈴木先生の『タイド』をなぜ、今、実写化するのか」など、気にかかっていたことを全部質問しました。作り手の強い意志をご本人の口から聞けば、わたしも「よし、やろう!」と決断できると思ったからです。
Q:池田さんの抜てきについて、中田監督は何とおっしゃっていましたか?
ヒロインを演じた歴代の女優さんもそうですが、現代的で、恐怖に立ち向かっていく強さだったり、凜々しさだったり、そういったものを体現できる方を監督は求めていたそうです。そんな中で、わたしの名前が挙がったときに「面白い」と直感的に思ってくださったみたいで。あとは、はっきりした目鼻立ちのルックスはホラー映画のヒロインに向いているとか、意外とたくましいとか、いろいろおっしゃっていましたね。
Q:強さやたくましさもそうですが、茉優が時折見せる弱さも絶妙だなと思いました。
わたし自身、日ごろから人間の強さや弱さをずっと自問自答しているタイプ。強い瞬間こそ、実はすごくもろかったりするものだなぁって思うこともありますね。特に茉優は、強さと弱さなど矛盾していることが多いので、演じてみて共感する部分がたくさんありました。
エゴを捨て、「えぐみ」を出した叫び
Q:中田監督は「新時代のスクリーミング・ヒロイン」と評価していましたが、絶叫するシーンは難しかったですか?
きれいに叫ぶとか、きれいに泣くとかじゃなくて、誰も聞いたことのない、目を背けたくなるような表現にまで自分を持っていかなければいけない、というのはありましたね。自分をきれいに見せたいというエゴは一切捨てて、いかに「えぐみ」を出せるかに終始しました。
Q:「絶叫」に関しては中田監督の直伝だそうですね。
そうなんです! 中田監督が「ギャー!」と叫んで見本を見せてくださるのですが、それに勝てないんですよ、強いんです(笑)。監督が納得いかないと、もう喉がかれるくらい何度もやらされて。でも、もうそんなことで弱音を吐いてはいられないので、とにかく我を忘れて、必死に叫びましたね。
Q:絶叫も含め、ホラー映画を演じるうえで、苦労した点はありますか?
例えば、「あ、ここ怖いな」って思った瞬間、物音がするだけで「わぁ!」ってなるし、普段は聞こえない自分の呼吸とかも大きく聞こえたりしますよね。そのときの過敏になっている「感度」みたいなものを思い出しながら演じました。なるべく自分の筋肉から臓器まで張りつめさせて、力が抜けている部分がないようにはしていましたね。あとは、劇中、弟の和真(清水尋也)が行方不明になり、自分に照らし合わせながら演じていたら、カットがかかっても気持ちを区切ることができなくて……ずっと、ずっと、苦しかったです。
貞子が出てもおかしくなかった撮影現場
Q:『リング』シリーズは、近年、どちらかというとアトラクションムービーに流れつつありましたが、本作は貞子が井戸から這い出す「呪いの映像」も盛り込まれ、原点回帰のような印象があります。池田さんはどうお感じになりましたか?
画の撮り方や、セリフを際立たせたお芝居など、中田監督の演出方法もそうですが、1998年版の『リング』を観ていらっしゃる方には、これこそが『リング』の真骨頂だと思っていただける作品になっていると思います。中には、『リング』に触れたことがない方、あるいは、わたしのように幼少期のトラウマになっている方もいると思います。今回は、あの「呪いのビデオ」が、撮ったら呪われる「SNS」や「動画サイト」などに替わり、時代に寄り添った物語になっているので、クラシックホラーとより拡散力を増した現代のカルチャーが融合した、新たなホラーを楽しんでいただけると思います。
Q:ちなみに撮影中、「心霊現象かな?」と思えるような奇妙な出来事ってありましたか?
ちょこちょこ、ありましたよ。カメラなどの機材が急におかしくなったり、メイキングチームのモニターが砂嵐状態になったりしました。
Q:それはちょっと怖いですね……。
撮影中、みんな和気あいあいとしているのですが、各々がどこか張りつめていて緊張感がありましたね。「いつ、リアル貞子が出てきてもおかしくない」という奇妙な空気感があって……。
Q:エネルギッシュな中田監督なら出せそうですね。
確かに! 作品に対して、ものすごい熱量がありますからね(笑)。わたしも今、初監督に挑んでいるのですが、中田監督の心の熱は見習いたいです!
中田監督のみなぎる情熱に後押しされて、苦手なホラー映画のヒロインを全身全霊で演じきった池田。現在、初監督作に取り組んでいる彼女にとって、中田監督の「映画に対するハートの熱さ」は大いに刺激になったという。女優として新たなチャレンジを試みながら、衣装などにもさまざまなアイデアを提案し、「裏方力」にもさらに磨きをかけた。1作ごとに積み重ねてきた彼女の経験は、2019年、大きく花開くことだろう。
(C) 2019「貞子」製作委員会
映画『貞子』は5月24日より全国公開