『リング』から21年…中田秀夫ホラーの絶叫シーン16連発
今週のクローズアップ
興行収入約20億円(配給調べ)のヒットを記録し、ハリウッドでリメイクもされ世界的に広く知られる1998年のホラー映画『リング』。中田秀夫監督が約14年ぶりに同シリーズのメガホンをとる『貞子』(公開中)をはじめ、中田作品のトラウマ必至の衝撃シーンを振り返ります!(構成・文:編集部 石井百合子)
お金がないからこそ知恵で勝負!『女優霊』(1996)
<絶叫ポイント>
未現像のフィルムに映った“笑う女”
ロケバスに一瞬映る女
キャットウォークのラストシーン
柳ユーレイふんする映画監督・村井を主人公に、新作映画の撮影スタジオで起きる怪現象を描く。古い未現像のフィルムで主演女優の背後に映っている不気味な女は一体何者なのか? この世ならざる者を「映した」ではなく「映ってしまった」というような、中田監督の姿かたちをはっきり映さない独特な表現は、この頃から。長い黒髪に白い衣服のビジュアルは貞子の原型とも言える(お歯黒なのが余計に怖い)。フィルムに映った女優が不審死を遂げていた事実、そのフィルムを幼少期に観たことがあるという村井、事務所と揉める主演女優(白鳥靖代)、村井が撮影中の脱走兵を匿う姉妹の物語……女と、いくつもの事象の因果関係が明かされぬまま、怪現象が続発する不条理な怖さ。
2009年にはアメリカでリメイク。ドラキュラを生んだトランシルバニア高原の古びた撮影スタジオで巻き起こる怪現象が描かれた。監督は『メイド・イン・ホンコン』などのフルーツ・チャン。
世界的なブームに!『リング』(1998)
<絶叫ポイント>
呪いのビデオの映像
真昼間に足だけ見える貞子
ラストのどんでん返し
鈴木光司のホラー小説を、『女優霊』に続いて中田秀夫監督×高橋洋脚本のゴールデンコンビで映画化。「観た者は1週間後に死ぬ」という呪いのビデオ、怨霊・貞子の恐怖を描き、興行収入20億円の大ヒットを飛ばした。中田監督いわく、原作者である鈴木の画期的なアイデアは「観たら均等に死んでもらうという発想」。「例えば『四谷怪談』のように民谷伊右衛門がお岩にたたられて死ぬというような因果は関係なしに殺される、災いが降りかかる恐怖というのがモダンホラーではないでしょうか」と続ける。また「貞子が人間と海の魔物の間に生まれた」という設定は映画独自のアイデアだそう。『女優霊』と同じく「お金と時間がない難産ゆえの知恵」は踏襲されており、「例えば貞子で言うと本当は後ずさって井戸に入っているんだけれど、それを逆回転させて迫ってきているように見せた」といったようなシンプルなテクニックが絶大な効果を生んでいる。
また、真田広之演じる大学講師の高山竜司が白昼、貞子を目撃する場面があるが「足だけ」見えているのがかなり怖い。中田監督いわく「人はこの世ならざる者の気配を感じたときに真正面からは観ようとしないもの」。「ここから上は本当は見えているんだけど(引けば見えている)、その人にとってはそこしか見えていないというふうに見せた方が怖い」としている。ちなみに「足元だけ」の描写は、オムニバスドラマ「世にも奇妙な物語」(2015)で中田監督が担当した中谷美紀主演のエピソード「事故物件」などでも観られる。
前作を上回るヒット!『リング2』(1999)
<絶叫ポイント>
佐藤仁美の貞子回想シーン
深田恭子の“普通じゃない”形相
『リング』のその後を描くオリジナルストーリー。脚本は、前作に続いて高橋洋。ヒロインは、『リング』で呪いのビデオを観て死亡した大学講師・高山竜司(真田広之)の教え子・高野舞(中谷美紀)。同じくビデオを観た高山の元妻・玲子(松嶋菜々子)は助かったにもかかわらず、なぜ高山は死ななければならなかったのか? その謎を追うストーリーが描かれる。前作で友人・智子(竹内結子)の死に際を目撃した雅美(佐藤仁美)の回想シーンは、モノクロゆえに恐怖倍増。プール、井戸、海など「水」がモチーフになっており、幽霊の顔が多数登場するショットでは実話がヒントになったという。「トンネルでの列車の火災事故の取材に行ったテレビ局の報道カメラマンの助手が、消防車が撒きちらした水のあちこちの水たまりにたくさんの人々の顔が映っているのを見たそうです。こうした心霊実話にイメージを喚起させられることは多いですね」
また呪いのビデオを取材するテレビ局AD・岡崎(柳ユーレイ)と、呪いのビデオを観たという女子高生・香苗(深田恭子)のサイドストーリーがまた怖い。前作の智子(竹内結子)に続き、呪いのビデオの犠牲者となる女子高生を深田恭子が熱演。“普通じゃない”死に顔は竹内とともに伝説に。深田は「はっきり言って、恭子を捨ててます。それだけがんばりました」と言い、「生まれて初めてあんな大きな口を開けました。ちょっと口の端が切れたくらい」とその壮絶な体験を明かしている。(コメントはすべて劇場用パンフレットより抜粋)
泣けるホラーの金字塔『仄暗い水の底から』(2001)
<絶叫ポイント>
ヒロインの手をつかんだ娘ではない誰か
ドアから覗く顔の見えない少女
中田監督が鈴木光司の短編小説「浮遊する水」を映画化。『アヒルと鴨のコインロッカー』『ゴールデンスランバー』などの中村義洋が脚本に参加している。いわゆる幽霊屋敷もので、いわくつきの古いマンションに引っ越した母娘が見舞われる怪異を描く。そのマンションでは、娘と同じ幼稚園に通っていた少女が行方不明になっていた……。雨の日に幼稚園で一人ぼっちで来ない迎えを待つ少女のフラッシュバック、広がっていく天井の染み・水漏れなど、『リング2』に続いて「水」を用いた恐怖描写がメインに。マンションに設置された監視カメラの映像も効果的だ。
娘の親権を巡って別れた夫と争うなか、続発する怪事件や娘の異変に追い詰められていくシングルマザーの焦燥、不安を演じて見せた黒木瞳の熱演が胸に迫る。その母の手を離すまいと懸命に戦う5歳の郁子を演じた子役・菅野莉央の体当たりの名演にも圧倒される。2004年に『ダーク・ウォーター』のタイトルで、『モーターサイクル・ダイアリーズ』のウォルター・サレス監督、ジェニファー・コネリー主演によりリメイクされた。
中田監督、ハリウッドへ『ザ・リング2』(2005)
<絶叫ポイント>
シャッターを切るたびに近づくサマラ
『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズのゴア・ヴァービンスキー監督×ナオミ・ワッツ主演の前作から6か月後が舞台。ジャーナリストのレイチェル(ナオミ)と幼い息子エイダン(デヴィッド・ドーフマン)が再び怨霊サマラに取りつかれていく。本作でも浴室のシーンを中心に、水が重要なモチーフとして用いられている。日本版の貞子にあたるサマラは前作に続いてアメリカナイズされていて幽霊というよりモンスターに近い印象だが、中田監督らしさが感じられるシーンも。とりわけ、エイダンがシャッターを切るたびにサマラが近づき、やがてエイダンと重なっていく様子にはゾッとするはず。
『キャリー』などで知られる大御所シシー・スペイセクがサマラの母親役で出演。シーンは短いながら強烈な存在感を発揮している。
時代劇ならではの怖さ『怪談』(2007)
<絶叫ポイント>
橋の隙間から覗く目
赤ん坊を見下ろす女幽霊
『東海道四谷怪談』(1959)、『怪異談 生きてゐる小平次』(1982)などで知られる怪談映画の名手・中川信夫を「心の師匠」(2015年10月21日シネマトゥデイインタビューより)と語っているように、古典にも造詣の深い中田監督が三遊亭円朝の怪談落語「真景累ヶ淵」を映画化。年上の三味線の師匠・豊志賀と恐ろしい因縁で結ばれた煙草売りの美男子・新吉を、本作が映画初主演となる尾上菊之助が艶やかに演じた。新吉と恋に落ちたことから破滅していく豊志賀を、『仄暗い水の底から』に続いて中田監督とタッグを組む黒木瞳がはまり役で演じた。
いくら親の因縁と言えど、イケメンに生まれたからといってここまで悲惨な目にあうものかと同情したくなるほど女難に見舞われる新吉。死んでからも新吉を離すまいとする豊志賀の執念はそれは恐ろしく、のちに結婚したお累(麻生久美子)との間に生まれた赤ん坊にも脅威が及ぶ。とりわけ、豊志賀が寝ている赤ん坊を上からのぞき込む様子を、お累がふすま越しに目撃するシーンは夢に見そうな怖さ。
14年ぶりにシリーズ復帰!『貞子』(2019)
<絶叫ポイント>
佐藤仁美の変わり果てたキャラクター
池田エライザの恐怖の表情
台本から変更されたラストシーン
鈴木光司の原作「タイド」から大幅にストーリーが変更になっているが、貞子の生家がある伊豆大島の行者海岸が重要なカギとなっているところは同じ。『リング』では、貞子の叔父・山村敬(沼田曜一)が大学講師の高山竜司(真田広之)に貞子の思い出を語るシーンとして登場した。中田監督いわく、『貞子』ではその海岸の付近にある行者窟を発想の原点にすることを鈴木、プロデューサーと話し合ったという。たった一人の肉親である弟(清水尋也)を救いたい一心で、命がけで戦うヒロインの心理カウンセラー・茉優を体当たりで熱演した池田エライザの恐怖におののく表情は、貞子に劣らぬ怖さ。目の大きさも相まって、絶叫クイーンにばっちりハマっている。
呪いのビデオを観ていないにもかかわらず、その犠牲者となった智子(竹内結子)の死に際を目撃したことから精神に異常をきたした雅美(佐藤仁美)は『リング2』に続き通院を続けており、『貞子』では茉優が勤める病院に通っている設定。『リング』『リング2』からの“生き残り”を登場させたいと考えた中田監督が、このキャラクターを選んだ。また、ラストシーンでは中田監督が台本にあった描写について「おさまりが良すぎる」のではないかと感じたことから、助監督とともに「小学生がちびるような」ショッキングなシーンに変更したという。