『スター・ウォーズ』スカイウォーカー家の人々:第2回ルークの物語
スター・ウォーズ特集
12月20日世界同時公開される最新作『スター・ウォーズ/ザ・ライズ・オブ・スカイウォーカー(原題)』のサブタイトルにちなんで、これまでの物語をスカイウォーカー家の人々のドラマを、“正史”とされている映画とテレビシリーズで見直してみた。第2回は光のジェダイ、ルーク・スカイウォーカーを紹介しよう。(平沢薫)
※この連載はその人物の生涯を知るために、作品が公開された順ではなく出来事の起きた順で紹介する。
フォースの光明面を見つめ続けた光のジェダイ
ルークはジェダイになる前から“光”を見つめる青年だった
ルーク・スカイウォーカー(マーク・ハミル)は、フォースの暗黒面(ダークサイド)に魅入られてシスの暗黒卿ダース・ベイダーになった父アナキン・スカイウォーカーとは真逆に、常にフォースの光明面(ライトサイド)を見続けて来た。父親が"闇に落ちたジェダイ"なら、彼は“光のジェダイ”と言えるだろう。
ルークの“闇”よりも“光”の方を見るという性格は、まだ彼がジェダイになる前、本当の父親が何者なのかも知らず、辺境の惑星タトゥイーンで暮らしていた頃から変わらない。青年時代までのルークの生活はあまり豊かではない。『スター・ウォーズ エピソードIII/シスの復讐』の最後、父アナキン(ヘイデン・クリステンセン)と母パドメ(ナタリー・ポートマン)の間に生まれた双生児ルークとレイア(キャリー・フィッシャー)は、父親には誕生が隠すため、別々に養子に出される。妹レイアは、惑星オルデランの貴族である共和国元老院議員夫妻が養女にしてプリンセスとして育てられるが、ルークは違う。『スター・ウォーズ』で描かれるように、ルークは砂漠の惑星タトゥイーンで水分農場を経営する、アナキンの義理の兄夫妻に育てられ、農場で働きながら育つ。アカデミーに入学したいという希望を持っているが、農場に労働力が必要なため入学は先延ばしになっていた。
しかし、そんな状況でもルークは叔父や叔母に反抗心は抱かず、何か仕事を言いつけられると、すぐにそれをやる。オビ=ワン・ケノービ(アレック・ギネス)に反乱軍に協力する旅への誘われた時も、農場の手伝いがあるからと断る。そして帝国軍が農場を襲ったと知ると、すぐに叔父叔母の安否を確かめに行き、彼らが帝国軍に殺されたことを知ると悲しむ。そしてやっと、オビ=ワンとの旅を承諾するのだ。なんとも素直で前向きな心の持ち主なのだ。
このオビ=ワンとの旅でルークはレイアに出会い、彼女が参加している反乱軍に加わって、優れた戦闘機パイロットとして活躍するようになる。しかし、そうなってもルークはオビ=ワンの勧めに従い、ジェダイの修行を続けていく。
そして、彼の人を思いやる気持ちは、ジェダイの修行中にも変わらない。『スター・ウォーズ/帝国の逆襲』の惑星ダゴバでヨーダ(フランク・オズ)の元で修行しているときも、ハン・ソロ(ハリソン・フォード)たちの苦境を知ると、ジェダイ修行よりも友人たちの救出を優先し、彼らを助けに向かうのだ。
ルークのこの性質は、父親が何者なのかを知ってからも変わらない。彼は父親のダークサイドへの誘いはきっぱり断るが、一度として彼の行動を非難したり、罵倒したりはしないのだ。故オビ=ワンに対しては、なぜ真実を教えてくれなかったのかと彼を批判するような言葉も漏らすが、父親については最初から「まだ善の心が残っている」と信じ、本人にもそう宣言するのみ。そして『スター・ウォーズ/ジェダイの帰還』でルークのまっすぐな思いが、ベイダーとなっていたアナキンをライトサイドに引き戻すのだ。
ただ一度の“迷い”がルークを隠者にする
そして『スター・ウォーズ/ジェダイの帰還』で反乱軍が帝国軍を壊滅させた後、ルークはジェダイとして、12人の弟子たちを育てていた。そのままジェダイの育成に人生を捧げるつもりだっただろう。しかし、おそらくただ一度だけの “迷い”が恐ろしい結果を招き、彼を隠者にしてしまう。その経緯は『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』で語られる。それは、妹レイアと親友ハン・ソロの一人息子ベン(アダム・ドライヴァー)のジェダイ修行中の出来事だった。
その頃、帝国軍に変わる新たな勢力ファースト・オーダーが台頭し、レイアはそれに対抗するレジスタンスを率いて戦っていた。レイアは、息子がファースト・オーダーの最高指導者スノーク(アンディ・サーキス)の悪影響を受けているのを心配して、息子をルークに預けてジェダイの修行をさせる。しかしルークは、強力なフォースの力を持つベンの心の闇が大きくなっていくのを知って、その未来の影響を憂慮する。そして彼が眠っているのを見たある時、一瞬、「止めるなら今だ」と彼を亡き者にすることが頭に浮かんでしまうのだ。ルークはその直後に恥と後悔の念に駆られるが、彼の一瞬の迷いに気づいたベンは目覚め、自分が師に見放されたと思って攻撃に出て、ジェダイ寺院を焼き払う。これを自分のせいだと思ったルークは姿を隠し、隠遁生活を送ることになるのだ。
しかし、隠遁生活に入っても、ルークの本質が変わったわけではない。『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』の最後に、隠遁中のルークの元に、ある偶然からレジスタンスに参加した若い女性レイ(デイジー・リドリー)が、ジェダイの修行をするためにやってくる。『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』で、ルークは当初、自分の過去の失敗を思ってレイの修行を断るが、R2-D2が『スター・ウォーズ』でレイアがオビ=ワンに助けを求めて「あなたが最後の希望です」と言うホログラムを見せると、「ずるいぞ」と言いながらも当時の自分を思い出し、彼女の修行に協力する。そしてレイの強大な力を知る。そのレイが、今はカイロ・レンと名乗るかつての弟子ベンについて「彼は闇に落ちたんじゃない」と言うのを聞いたときには、自分がかつて父について同じように言ったことを思い出しただろう。そして、霊体となったヨーダに、失敗こそ師匠が弟子に伝えるべきものだと諭される。こうして彼は、本来のルークに戻る。
だから、カイロ・レンの軍勢が、レイアたちレジスタンスを窮地に追い詰めた時、ルークはカイロ・レンの前に立ちはだかる。そして、レジスタンスの兵士たちを逃して、最後には力尽きる。その姿は、若き日のルークたちを逃して力尽きたかつての師オビ=ワンの最後によく似ている。ルークの身体がこの世界から消える時、彼の目の前には、若き日にタトゥイーンで未来を思いながら見た光景とよく似た、二つの太陽による夕焼けが眩しく輝いている。このルークの人生という輪が、大きな弧を描いてまた同じところに戻ったかのような光景が静かな感動を呼ぶ。
こうしてルークは去ったが『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』に霊体となったヨーダが登場したように、ジェダイたちは霊体になるので、また登場してもおかしくない。最新作『スター・ウォーズ/ザ・ライズ・オブ・スカイウォーカー(原題)』が、スカイウォーカー家の話の締めくくりとなるなら、そこにはルークの姿もあるのではないだろうか。
<ヴィランズ列伝:ダース・ベイダー>
SF映画史上、もっとも有名なヴィランと言えるのが、ダース・ベイダー(デヴィッド・プラウズ、声:ジェームズ・アール・ジョーンズ)だ。彼がどんな人物だったのかは、この企画の第1回、アナキンの物語で見てきた通り。実は悲劇的な人物なのだが、それを知った後でもベイダーが稀代のヴィランであることに変わりはない。彼は登場するだけで、見る者を圧倒し恐怖心を抱かせる。
その理由はまず、外見にある。大きな身体、それを覆う黒いマント、そして何より、奇妙な形のマスク。重要なのは、このマスクのせいで彼の表情がまったくわからないことだ。彼の姿を見ても、怒っているのか、悲しんでいるのか、彼の感情がまったく読み取れない。何を考えているかがわからないので、周囲の人々は彼に自分が最も恐れるものを投影して恐怖を抱く。加えて恐ろしいのは、彼が普通の人間にはない謎の力=フォースの暗黒面を使うことだ。理解できないものは恐ろしい。
だからこそ、まだ若いルークがベイダーに立ち向かうとき、ルークの果敢さとベイダーの巨大さが際立つ。ルークが象徴する光の微かさと、ベイダーが代表する闇の深さが対比されるのだ。果たして、ダース・ベイダーを凌駕するヴィランを創出することは可能なのか。それは『スター・ウォーズ』シリーズだけでなく、すべてのSF映画にとっての課題であり続けるだろう。