『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』でピーターはヒーローとしてどう成長するか!?
どうなる?『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』(連載第2回)
『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』(6月28日公開)で注目したいのは、ピーター・パーカーが今度はどのように描かれるかです。スパイダーマンの物語というのは基本は、若者の成長のお話ですから、今回、彼にどんな運命・試練がやってきて成長するかがポイントです。歴代ピーター・パーカー、スパイダーマンと比較しながら、そのことを探ってみましょう。(文:杉山すぴ豊)
実はトム・ホランドは5度目のスパイダーマンを演じる
『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』でスパイダーマンことピーター・パーカーを演じるのはトム・ホランドです。前作に引き続き2度目の登板、と思いきや『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』(2016)、『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』(2018)、『アベンジャーズ/エンドゲーム』でもこの役を演じています。つまり5回実写映画でスパイダーマンを演じているのは史上最多です。
サム・ライミ版で同役を演じたトビー・マグワイアが3回、マーク・ウェブ版(『アメイジング・スパイダーマン』シリーズ)のアンドリュー・ガーフィールドが2回ですから。一方、ここからわかるのは(バットマンほどではないですが)スパイダーマンは頻繁に役者を変えているのがわかります。
ヒュー・ジャックマンはウルヴァリンを18年近く、アイアンマンのロバート・ダウニー・Jrも11年同役です。X-MEN、アイアンマンと違ってスパイダーマンの場合は、何度か設定を一新してのキャスト交代なので当然と言えば当然なのですが。ただ、この頻繁な役者交代は、スパイダーマンというキャラならではの事情があります。
スパイダーマンは基本青春ものであり“悩める若者(高校生か大学生)”でなければいけない。従って演じる役者さんも若者でなければならないのです。1作目のトビー・マグワイヤは執筆時点で44歳、アンドリューは35歳ですから、さすがに高校生を演じ続けるわけにはいかないですよね(笑)。
そして時代時代の若者の悩みを反映させています。アンドリューがスパイダーマン役に抜擢された時、イケメンすぎてピーターっぽくないと言われました。トビー版はいかにもイケてない、いじめられっ子みたいな感じでしたから。
当時のプロデューサーにインタビューする機会があって、このことを聞いたら「いまの時代、世の中が複雑になったからいかにも“いじめられっ子”ばかりが悩んでいるわけではないし、一見リア充みたいな子でも傷ついてるんだよ」と。ちなみにアンドリュー自身は自分の体形のことをあげて“スパイダーマンっていうのは僕みたいな華奢(きゃしゃ)な子どもでもヒーローになれるってことを教えてくれたんだ”と語っていました。
確かにスパイダーマンは決して彫刻のような肉体美ヒーローではないですから。誰にだって悩みはあるわけですね。
青年ヒーローとしての変化
だからスパイダーマンの物語は、
1.若者が演じなければならない
2.その時代の若者の悩みを反映させる必要がある
わけです。
それゆえ 時代時代の若者および若者事情でアップデート(作りかえていく)していくのです。
僕が特に2.を感じたのはピーターをいじめるフラッシュ・トンプソンの描き方なのですが、トビー版のフラッシュはドラえもんでいうジャイアンみたいな奴。しかしトム版はスネ夫タイプ。いまの時代、ジャイアンみたいな子も減っていてスネ夫みたいな子がのさばっているのかもしれません(笑)。
そしてトム版はスパイダーマンであることに“悩んでない”ことです。トビー版は“スパイダーマンとしての使命と自分の人生どっちが大事”みたいに仕事かプライベートか的苦悩ですが、トム版はそのワークバランスはとれていて、どっちも充実させたいという感じです。
また、トビー版、アンドリュー版は“ベンおじさん”が彼の心の師匠ですが、トム版はこの役割をアイアンマンことトニーが担っています。
“人間としてどう成長するか”が今までのスパイダーマンだとすれば、“ヒーローとしてどう成長するか”です。
これも時代を反映していて、つまり「若者はまず大人になってから社会に関わっていく」というのがトビー版たちの時代の成長のプロセスですが、例えばITの分野で(それこそFacebook創設者マーク・ザッカーバーグ氏のように)10~20代ぐらいの若者がいきなり世界を変えちゃうことをやってのけたとき、彼らはそれをどうしていかなきゃならないかをすぐに学ばなけばならない。
歴代スパイダーマンを見比べると、そうした若者像の変遷を楽しむことができます。
トニーの期待に応え、奮闘するピーター…
今度の『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』は明るく、楽しいアクションですが、スパイダーマン、ピーターは失った2つのことを取り戻すために活躍します。
1つは、アベンジャーズの最強の敵サノスによって失われた5年間の青春をとりもどすため、そして、もう1つは失った師であるアイアンマン、トニーの志を継ぐため、です。その奮闘ぶりがほほえましく、かっこいいです。そこのところを『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』では注目してください。
さて、なぜトニーは多くのヒーローがいる中で、スパイダーマンことピーターに期待したのでしょうか?
『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』のプロデューサーの話を聞いたとき、実はこういう設定があったそうです。トニーはキャプテン・アメリカたちを傷つけず捕まえたかった、だから相手を叩きのめすのではなく、クモの糸で縛るスパイダーマンをスカウトした。トニーはヒーローとは“敵を倒す”のではなく“人を守る”者と思っていたのかもしれません。だからピーターを選んだのでしょう。(と、ここまで書いて、だったらスパイダースーツに“瞬殺モードは必要か”という議論にもなりますが……笑)
そんなスパイダーマン(ピーター)の今後は?
5作演じてピーターぶりがますます板についてきたトム・ホランドのスパイダーマン(ピーター)ですが、今回はどうなるのか? 最後に予測してみましょう。
・MJとのキスシーンに期待
これは予告編でも示唆されているし、また今までのスパイダーマン映画でもヒロインに正体がバレるという展開なので。トビー版では、スパイダーマンとMJの逆さづりのキスシーンが話題にアンドリュー版では、クモの糸でグウェンをたぐりよせてのキスでした。今回もピーターとMJの間に印象的なキスシーンはあるのでしょうか?
・スパイダーマンはアベンジャーズ入りするのか?
現時点で、ピーターことスパイダーマンがアベンジャーズの正式メンバーなのか解釈がわかれるところです。『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』でトニーはとりあえず彼をアベンジャーズの一人と認定しますが。そもそも現時点で、アベンジャーズがどうなっているのか、わからない。仮に新生アベンジャーズが立ち上がったとして、そこにピーターがメンバーとして入るかですよね。
・これからのスパイダーマンは赤・黒スーツ?
予告編の最後で、スパイダーマンが新スーツを着ていることがわかります。よーく見ると今までの赤と青から、赤と黒。原作コミックでもこのパターンのスーツは存在します。前作『スパイダーマン:ホームカミング』では、最初はトニーが作ったスーツを着る、最後は自前のスーツで戦うでした。解禁されたテレビCMを見るとトニー・スタークに仕えていたハッピー・ホーガン(ジョン・ファヴロー)の協力のもとピーターが赤と黒のスーツを自分で作るようです。これからはこのバージョンで活躍するのでしょうか?
・最後にとんでもないことが起きる?
前作『スパイダーマン:ホームカミング』の最後にメイおばさん(マリサ・トメイ)に正体がバレるというという失態をおかしました。今回もそれに匹敵するぐらいの何かが起こる可能性ありますね。
いかがだったでしょうか? スパイダーマンはいつも初夏から夏にかけて公開されるサマームービーでもあります。青い空をバックに爽快に宙を駆けるスパイダーマンの姿を楽しみつつ、ピーターの青春模様にも注目です!
第1回:『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』が『アベンジャーズ/エンドゲーム』と同じぐらい重要作である理由
杉山すぴ豊(すぎやま すぴ ゆたか)プロフィール
アメキャラ系ライターの肩書でアメコミ映画についての情報をさまざまなメディア、劇場パンフレット、東京コミコン等のイベントで発信。現在「スクリーン」「ヤングアニマル嵐」でアメコミ映画の連載あり。サンディエゴ・コミコンも毎年参加している。来日したエマ・ストーンに「あなた(日本の)スパイダーマンね」と言われたことが自慢。