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『ザ・ファブル』山本美月 単独インタビュー

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『ザ・ファブル』山本美月 単独インタビュー

2次元しか愛せないと言われた

取材・文:坂田正樹 写真:高野広美

南勝久による週刊ヤングマガジン連載の人気コミックを岡田准一主演で実写映画化した『ザ・ファブル』。伝説の殺し屋と呼ばれるファブル(岡田)が、アキラという名前で“普通の暮らし”を学ぶため、相棒のヨウコ(木村文乃)とともに大阪に引っ越すが、裏社会の人間たちが引き起こすトラブルに次々と巻き込まれる! 山本美月演じるミサキは、危ない人間たちに翻弄されながらも、自らの手で人生を切り拓き、健気に生きようとする一般女性。裏社会に生きるアキラの気持ちを解きほぐし、人間らしい優しさを呼び覚ますキーパーソンだ。

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笑えば笑うほど、哀しみがこぼれ落ちる

山本美月

Q:独特の世界観を持った原作ですが、読んでみてどんな印象を持たれましたか?

すごく新鮮で面白かったのですが……本当に映画化できるのかな? っていうくらい、お色気シーンが満載だったので、正直戸惑いました。「これをわたしがやるんですか?」ってお聞きしたら、「映画ではそういうのはないので安心してください」って言われたので、だったら大丈夫かなと(笑)。

Q:クセ者ぞろいのキャラクターの中、山本さん演じるミサキは、ワケありな部分も抱えながらも、唯一、普通の感覚を持ったピュアな女性でしたね。

ミサキは本当にいい娘で、すごく笑うんですよ。自分がいろいろ大変な目に遭っていることを隠しつつ、無理して笑顔を作って元気を出すといった感じなので、そこのサジ加減が難しかったですね。楽しそうに笑えば笑うほど、逆に哀しみがこぼれ落ちるというところは常に意識して演じていましたから。

Q:華のある山本さんが幸薄く地味なミサキをとてもいい距離感で演じていました。

江口カン監督から、特に「幸薄いキャラですから」って言われたわけではないので、実はそれを意識して役づくりをしたつもりはないんです。でも、最近、パンフレットなど、いろいろ読んでいると「素直で優しい幸薄ガール」って書いてあるから、「ああ、ミサキってそうなんだ」と(笑)。確かに彼女の境遇はいろいろとワケありですが、ただ、お母さんに楽をさせてあげたい、自分の夢を実現させたい一心でがんばっている中で、たまたま悪い人たちに出会ってしまうだけで……それでも笑顔を作ってがんばっているから、結果的にそういう風に見えたのかな? と思いました。

関西弁に苦戦!現場に行くたびドキドキ

山本美月

Q:関西弁にも挑戦されていましたが難しかったですか?

難しかったですね。セリフで言うのがやっとで、撮影の合間に関西弁で会話をしたり冗談を言ったりという余裕もなかったです。事前に(参考として)いただいていた音源以外に、当日いろいろ指示されることもあって、現場に行くたびにドキドキしていました。

Q:これまでに関西弁の役はなかったのですか?

以前「アオイホノオ」(2014年/テレビ東京)というドラマで、ちょっと不思議な関西弁をしゃべったことはあります。あの経験がなかったら、もっと苦戦していたでしょうね。関西弁って、わたしにはリズミカルというか「歌」に聞こえてくるんです。もしかすると、言葉の流れで関西の方はみなさん歌が上手なのかもしれませんね。

Q:完成作品を観て、関西弁も含めて周りの反応はいかがでしたか?

作品の感想は今までで一番よく聞きますね。別のドラマの番宣とかでバラエティー番組に出たときなんかも、試写で観たという方が何人かいらっしゃって、「すごく面白かったよ」と言っていただいて。関西弁も「がんばってたね」って言われるんですが、それがいい意味なのかどうなのか……よくわからないので、とりあえず「ありがとうございます!」って返しています(笑)。

網タイツで這いずり回るシーンは痛かった!

山本美月

Q:役に合わせて少しダサめの服を用意しても「山本さんはオシャレに着こなしてしまう」とスタイリストさんが困っていたそうですね。

あっそうなんですね。でも、ファッション誌のお仕事もやらせていただいているので「着こなしてしまう」って言われると、逆にちょっとうれしいです(笑)。でも、最終的にはスタイリストの伊賀(大介)さんが絶妙に地味な衣装を作ってくださいましたし、それに合わせたメイクもしているので、ミサキというキャラクターがうまく表現されていればいいなと思います。

Q:ご自身で見え方の面で工夫された部分もあるんですか?

例えば、シャツをインしてもフワっとさせないとか、とにかく着崩さずにきちんと着るみたいなところは意識しましたね。リュックも(ベルトに)両手を添えて、「わたし、ルール守っています」みたいな感じで背負っていましたし(笑)。

Q:今回はアクションにも挑んでいますが、かなりハードなシーンでした。

クライマックスのシーンですよね。あれは真夏の撮影で、しかも舞台がゴミ処理場だったので大変でしたね。みんな汗だくになりながら、がんばって撮りました。わたしの場合は、飛び降りたりするシーンもあるんですが、何より膝をついて網タイツで這いずり回るシーンが痛くて、痛くて……。

Q:アクションは苦手な方ですか?

アクションは何度か経験させていただいたことがあるんですが、嫌いではないです。チャンスがあったら、またトライしてみたいという気持ちはありますね。

岡田准一から「優しい」があふれていた

山本美月

Q:アキラにハンカチを差し出す純愛感や、ヨウコとの変顔対決など、印象的なシーンがたくさんありますが、山本さんご自身が一番好きなシーンはどこですか?

佐藤二朗さんが社長役を務める「オクトパス」というデザイン事務所にミサキは勤めていて、アキラ(岡田)もアルバイトで働きはじめるんですが、その社内でのゆる~い感じの会話がコントみたいで一番楽しかったですね。わたし、二朗さんのアドリブが大好きなんですが、『女子ーズ』(2014)のときに笑いをこらえきれずに苦戦したので、「今回は負けない!」という強い気持ちで、奥歯をかみ締めながら耐えました(笑)。岡田さんはクールな役柄もあったせいか、全く動じない感じでしたね。でも「カット!」って声がかかった途端に大爆笑していたので、まさにアキラそのもの、さすがだなって思いました。

Q:岡田さんとの共演はやはり刺激になりましたか? ご本人は「黙っていると怖い人だと思われるので、なるべく気さくに話しかけるように心掛けた」とおっしゃっていました。

本当ですか? 確かに「オクトパス」のシーンでは、みんなでワイワイやっていましたが。でも、岡田さんが仮に黙って座っていても怖いとは思わないですね。なんていうか「優しい」があふれている人だなって思います。わたしが緊張しているときも、「大丈夫だよ、ちゃんと芝居を受けるから安心して」みたいな感じが、言葉ではなくてご本人の雰囲気からにじみ出ている。例えば、「関西弁のこのセリフを、このテンションで言えるかな?」と不安に思っていても、岡田さんなら何度NGを出しても付き合ってくれそうな、そんな優しさが伝わってくるんですよね。

Q:そうなんですね。ご本人は逆に話しかけ過ぎて「ウザい」と思われたんじゃないかとちょっと心配されていました。

全然そんなことないです! 第一、そんなに岡田さんと1対1でたくさんお話しした記憶はないですし……。好きな異性のタイプなど、雑談は、少しくらいはあったかもしれませんが、そのときも二朗さんが割って入ってきて、「美月ちゃんはアニメオタクだから、2次元しか愛せないんでしょ?」みたいに言われて、「そんなことありません!」と2人で戦いモードになっていましたから(笑)。そういうやりとりは、「オクトパス」のシーンでは毎回です。ウザいどころか、あんなに楽しい現場はなかったです。


山本美月

伝説の殺し屋・ファブルをはじめ、極悪非道な裏社会の組織、ムショ帰りの狂犬野郎、ファブルに憧れるキレッキレの殺し屋コンビなど、クセ者、ツワ者が渋滞する中、懸命に生きる普通の女の子ミサキに“幸薄”という計算外の命を吹き込んだ山本。地味オーラを出しながらも、その素直で健気な佇まいが男心をくすぐり、女優としての幅をまたひとつ拡げたようだ。もしかすると、山本自身が気づいていない金鉱が、本人の中に眠っているのかもしれない。

映画『ザ・ファブル』は6月21日より全国公開

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