藤原竜也特集~異世界のプリンス~
藤原竜也の主演作『Diner ダイナー』が本日(7月5日)より公開されます。ここでは殺し屋専門の食堂=ダイナーのシェフ・ボンべロを演じています。ボンべロは、食堂では砂糖の一粒まで自分に従わせる絶対的な王として君臨。ウエイトレスとして派遣されてきたオオバカナコ(玉城ティナ)にも有無を言わせぬ態度で迫ります。元々凄腕の殺し屋でもあるボンべロ、クライマックスにはダイナミックなアクションも披露します。本作は藤原の主演映画としては約2年ぶりになります。(村松健太郎)
ゆかりある蜷川実花監督の新作に連続出演
監督は蜷川実花。写真家として知られ、2020年東京オリンピック・パラリンピックの組織委員会の理事を務めるなど活躍が多岐に渡る表現者です。蜷川監督といえばその父親は世界的にも高い評価を受けた劇作家の故・蜷川幸雄。それまでサッカーボールを追いかけてきた少年・藤原竜也を演技の道に導いた張本人です。この時の演目は「身毒丸」で、最初の公演はロンドンという破格のデビューでした。
藤原竜也と蜷川実花という、文字通り蜷川幸雄の遺伝子を受け着いた二つの才能がついに一つの映画に集結した、映画『Diner ダイナー』は平山夢明のバイオレンス小説を大胆にビジュアルアレンジした極彩色のエンターテイメントに仕上がっています。そして、蜷川実花監督は藤原と共に父親の活動後期の代表的な教え子の一人といってもいい小栗旬主演で、『人間失格 太宰治と3人の女たち』(9月13日公開)も公開待機中。こちらにも藤原は坂口安吾役で出演しています。
破格・異例のデビューで演じ手としてのキャリアをスタートさせた藤原竜也は恵まれた環境と、天性の素質を開花させてどんなに無茶な設定の物語にも問答無用の説得力を与える唯一無二の存在となりました。ここからは彼のフィルモグラフィーを遡っていきたいと思います。(村松健太郎)
大ヒットシリーズの顔に
1997年の舞台デビューから3年後、『バトル・ロワイアル』(2000)に主演します。中学生の一クラスの生徒が最後の一人になるまで殺し合うという高見広春による原作を、『仁義なき戦い』シリーズの深作欣二監督が映画化。31億円を超す大ヒット作となりました。その後2003年に『バトル・ロワイアルII~鎮魂歌(レクイエム)~』が製作されました。本作は深作監督の遺作となりました。若手俳優が多数出演していたことでも知られ、本作を観たクエンティン・タランティーノ監督が『キル・ビル』に栗山千明を起用しています。
ここで藤原竜也が演じるのがゲームの当事者となった中学生の七原秋也。唐突に殺し合いを強いられるという“巻き込まれ型”のキャラクターで、事態の不条理さを嘆きながらも懸命に生きる姿を見せています。
『バトル・ロワイアル』の後に主演し、大ヒットを記録したのが前後編で製作された2006年の『DEATH NOTE デスノート』。死神のノートを手にし、新たな秩序を築こうという天才犯罪者・夜神月を演じました。相対する天才探偵“L”を演じたのは松山ケンイチで、本作で大ブレイクを果たしました。
藤原竜也は、これ以降も後編の『DEATH NOTE デスノート the Last name』から2008年の『L change the WorLd』、2016年の『デスノート Light up the NEW world』とシリーズ全作に夜神月として登場しています。
同じく、シリーズモノでは闇ギャンブルに挑む青年が主人公の「カイジ」シリーズがあります。香川照之、伊勢谷友介、天海祐希、佐藤慶ら大物俳優との顔芸勝負が見どころです。2009年の『カイジ 人生逆転ゲーム』、2011年の『カイジ2~人生奪回ゲーム~』と連続して公開され、ともに大ヒットしました。来年にはシリーズ完結編の『カイジ ファイナルゲーム』が公開されます。こちらでは福士蒼汰、新田真剣佑、吉田鋼太郎と共演します。
同じように不条理な世界に取り込まれた者を演じたものにタイムリープを繰り返す青年・藤沼悟を演じた、2016年の『僕だけがいない街』もあります。原作とは全く違うエンディングにも注目が集まりました。
カオスな群像劇の中心に
2010年の行定勲監督の『パレード』では微妙な緊張感の中で保たれてきた共同生活の脆さに巻き込まれる生活のリーダー格・伊原を演じています。自他ともに認める良識的な人間ですが、ちょっとしたことで一気に生活の基盤が狂っていく負のスパイラルに巻き込まれていきます。
同じ年の『インシミテミル 7日間のデス・ゲーム』は殺人ゲームに巻き込まれる青年の役で『バトル・ロワイアル』や『カイジ』のような不条理な心理戦が繰り広げられる作品ですが、状況に怯える受け身的で臆病なキャラクター・結城を演じていて、結果として違った感触を作品に残しています。
2012年の『I'M FLASH!』では新興宗教の若き教祖を演じ、2013年には銀行強盗犯のキャバクラの雇われ店長を演じた『サンブンノイチ』などで役のふり幅の広さを披露しています。
2014年の『映画 ST赤と白の捜査ファイル』での役どころは謎が解けてしまうことに心から落ち込む天才捜査官・赤城左門。スペシャルドラマから連ドラになり、完結編として公開された劇場版ではなんと逮捕されてしまう赤城。曲者ぞろいの面々を振り回す見事なトリックスターっぷりを発揮しています。
UMA(未確認生物)発見に挑む探検隊ドキュメンタリーの内幕モノ『探検隊の栄光』(2015)では、探検隊の隊長役を演じることになった俳優・杉崎を演じています。今までにないコメディー調の今作では大仰な演技で知られる俳優というセルパロディーのような役どころです。
究極のダークヒーロー
その抜群の存在感から究極のダークヒーローを演じることも多い藤原竜也。『DEATH NOTE デスノート』シリーズの夜神月役もその一つといっていいでしょう。2013年の『藁の楯 わらのたて』ではその首に10億円の賞金が賭けられる凶悪な殺人犯・清丸国秀役。孫娘を殺された大富豪が清丸を殺した者に10億円を支払うと宣言したことから、日本中から追われる身となったために警察に出頭してきた清丸。そんな彼を警視庁のSP(大沢たかお&松嶋菜々子)が護衛しながら九州から東京に連れてくるという、矛盾した正義と任務が描かれます。清丸は多くの犠牲を経て東京に送致され、裁判を受けることになりますが、判決後の一言がさらに闇を深くします。
人間を自由に操れる“男”(劇中で名前は語られません)と彼が唯一操れない男(山田孝之)との対決を描いた、2014年の『MONSTERZ モンスターズ』では、その能力故に両親ですら恐れられてしまった絶望を纏った“男”として藤原が登場します。実は韓国映画『超能力者』のリメイク作なのですが、オリジナル以上の演技合戦を見ることができます。
同じ2014年に連続公開されたのが『るろうに剣心 京都大火編』『るろうに剣心 伝説の最期編』。最終章二部作の公開も決定した大ヒット剣劇アクションシリーズ。その第二部と第三部に登場した原作最大の強敵・志々雄真実を特殊メイクで演じました。
佐藤健演じる緋村剣心を終始圧倒する強敵としてスクリーンに君臨し続け、クライマックスのVS佐藤健&青木崇高&江口洋介&伊勢谷友介という1対4の大立ち回りを見せてくれました。
2017年の『22年目の告白-私が殺人犯です-』の主人公こそ、まさに藤原竜也の存在感を生かし切った一つの完成形のような作品で、彼の存在自体が映画全体に張り巡らされる、壮大なトリックの根幹と言い切ってもいいでしょう。自身の犯罪についての自叙伝を書いた未解決事件の犯人・曾根崎雅人のポジションには藤原以外の選択肢はないと思わせます。
友情出演作など多岐に渡る作品群
スクリーンデビュー作の『仮面学園』(2000)では貴重な学生姿、2002年の三池崇史監督作品『SABUさぶ』でもなかなか見られない時代劇・町人姿を見ることができます。難病に侵された弟を抱える裏社会の青年にふんする『ムーンライト・ジェリーフィッシュ』(2004)や、あの松田優作を想定した脚本を基にした2008年の『カメレオン』などでは舞台でも見せる圧倒的な存在感をスクリーンで感じることができます。ただ、これらの作品では劇中での世界の縮尺と藤原竜也の存在感の大きさがややミスマッチをしているようにも感じられ、少しバランスが悪く見えてしまいます。
『禅ZEN』(2008)では主人公・中村勘九郎(当時・勘太郎)演じる道元と深く関わりを持つ北城時頼役で出演しています。立て続けに作られた人工衛星“はやぶさ”を巡る『おかえり、はやぶさ』(2012)ではJAXAのエンジニアを、『神様のカルテ2』(2014)では櫻井翔演じる主人公・栗原一止の大学の同期で新たに同僚となる医師・進藤辰也を演じ、医療の理想と現実の狭間で思い悩む姿を熱演。『億男』(2018)では怪しげな自己啓発セミナーのハイテンションな主催者として登場。『るろうに剣心』以来の佐藤健との共演作でもあります。
他にも恩人・蜷川幸雄がメガホンをとった『蛇にピアス』(2008)や同じ蜷川幸雄門下生の溝端淳平主演『君が踊る、夏』(2010)、2011年の『あぜ道のダンディ』(2010)、『泣き虫しょったんの奇跡』(2018)などに顔を見せています。また、蜷川幸雄演出の「ムサシ」、市村正親と共演した「ANJINイングリッシュサムライ」、劇団☆新感線の『ゲキ×シネ シレンとラギ』、蜷川幸雄三回忌追悼企画「身毒丸 ファイナル」などの舞台作品が映像作品として劇場公開されています。
次回作では竹内涼真と共演
『悪人』『怒り』の原作者・吉田修一の『太陽は動かない』の映画化。秘密組織のエージェントで、竹内涼真と共演。監督は『海猿』『MOZU』と大掛かりなサスペンス映画に定評のある羽住英一郎監督。ブルガリアで一か月に及ぶロケを行うなどの大型企画です。
まとめ
設定を越えて映画を成り立たせる男・藤原竜也
小説であれコミックであれ、それを映像化するときに必ずつきものなのが原作ファンの反応。小説の時であればまず目に映る形で登場人物たちが初めて登場することになるのですが、それで合っているのかどうか? 最大公約数的な解答となっているかどうか? ということで賛否が出てしまいます。コミックの場合はすでに一度、絵という形で具象化されたものを実際の人間が演じることになり、ある意味に答えが出ているようなものですが、それに寄せていけばいいということでもなく、賛否を呼ぶことになります。
映画が公開前にある種の賛否が出されてしまうという一番不幸なことが起きかねません。そんな時に頼りになるのが藤原竜也。彼がいることで、原作や設定を実写化した際の細かい差異を忘れさせてくれます。ライフワークともいうべき舞台出演に軸足を置いていることもあって、映像作品に出ずっぱりという風にはなかなかなってくれないのが残念ですが、やはり今の日本映画界において藤原竜也とは唯一無二の存在であり続けることでしょう。
※興行収入記録は日本映画製作者連盟調べ