間違いなしの神配信映画『好きだった君へのラブレター』Netflix
神配信映画
ラブロマンス編 連載第6回(全7回)
ここ最近ネット配信映画に名作が増えてきた。NetflixやAmazonなどのオリジナルを含め、劇場未公開映画でネット視聴できるハズレなしの鉄板映画を紹介する。今回はラブロマンス編として、全7作品、毎日1作品のレビューをお送りする。
王道のロマコメに新たな風を吹き込むごく普通の女の子の恋愛物語
『好きだった君へのラブレター』Netflix
上映時間:99分
監督:スーザン・ジョンソン
出演:ラナ・コンドル、ノア・センティネオ、ジャネル・パリッシュ
2018年は「アジア」が大躍進した年だった。白人を主人公にした作品が中心のハリウッドにおいて、アジア人キャストで固めた映画『クレイジー・リッチ!』が大成功を収めたことからも明らかだが、同時期にNetflixで配信されたオリジナル映画『好きだった君へのラブレター』も、ベトナム系アメリカ人のラナ・コンドルをヒロインに起用し、そのムーブメントに一役買った作品だと評価する。
原作は韓国系アメリカ人作家ジェニー・ハンの同名小説。昨今、元々の人種が白人でないはずの役柄に白人が配役されてしまう“ホワイトウォッシュ”が問題になっているが、映像化にあたりハンはこれに強く反対。内気で夢見がちな女子高生ララ・ジーン役にコンドルが起用された。
かつて片想いした5人の相手にこっそりラブレターを書いていたララ・ジーン。だが、送ることなくクローゼットの奥に保管していたはずの手紙がなぜか本人たちに届いてしまい、恋愛とは無縁だった彼女の生活は一変! 5人のうちの1人、本気で想いを寄せた姉の元カレに悟られたくない一心で、学校の人気者ピーター(ノア・センティネオ)と恋人のフリをすることになる。彼もまた手紙を受け取った1人だが、フラれたばかりの元カノを嫉妬させたいという利害が一致し「彼氏彼女を演じる契約」が始まる。
正直、物語においてララ・ジーンがアジア系である必然性はあまり感じられない。言ってしまえば、アメリカのごく普通の高校生が恋に悩む日常が描かれているだけなのだが、むしろこの「当たり前」に価値がある。なぜなら、これまでのハリウッド作品においてアジア系は常にステレオタイプ的な描かれ方をされてきた。厳しい両親を持ち、頭脳明晰(めいせき)で勤勉……といった類の描写がそうだ。かつては普通だったそのような描写に、昨今異を唱える声が挙がるようになった。
本作でもそんな描写が避けられたことで、胸をなでおろした観客も少なくないだろう。視聴者はララ・ジーンを「特殊なアジア系の少女」ではなく、アメリカの高校に通い、恋に憧れる16歳の「ごく普通の」女の子と認識し、彼女の内面に触れ、成長を垣間見ていく。原作者が望んだ通り、アジア系俳優のコンドルが「アジア系であることの必然性のない役」を演じていること自体が意義深いといえよう。
作品の持つバックグラウンドだけでなく、作品そのものの作りも非常にうまく、ティーン向けの作品ながら幅広い年齢層に向けた目配せが利いているのも魅力的。手紙がなければ交わるはずのなかった2人が恋人として振る舞う姿のぎこちなさや、恋愛初心者のララ・ジーンがピーターの一挙一動にドギマギする様、ピーターの元カノからの執拗(しつよう)な嫌がらせや、2人の関係性の変化など、ロマコメのお約束がふんだんに散りばめられ、いい意味で安心して身を任せられる仕上がりになっている。
それでいて、恋愛に強い憧れを抱きながらもなかなか一歩を踏み出せないララ・ジーンからはティーンならではの複雑な心情がひしひしと伝わってくるし、スクールカースト(学校内での身分制度)にSNSを使ったいじめ、ララ・ジーンとピーターの両親が片親のもとで暮らしているなど、現代的な設定も垣間見える。
アジア系女優をメインに据えたブレイクスルーと、その周りを彩る現代的な設定描写が、王道のロマコメに新たな風を吹き込んだ良作である。ハリウッドにおけるアジアの「今」、若者の「今」を感じながら、笑えてホロリとくるヒロインの恋に身を委ねてみたい。(中井佑來)