『アルキメデスの大戦』菅田将暉 単独インタビュー
俳優業にはロマンを感じる
取材・文:磯部正和 写真:日吉永遠
人気漫画家・三田紀房の同名漫画を『永遠の0』や『寄生獣』シリーズの山崎貴監督が実写映画化した『アルキメデスの大戦』。1930年代の大日本帝国海軍を舞台に、巨大戦艦建造計画を阻止するために海軍少将・山本五十六から海軍入りをオファーされた天才数学者の戦いを描く。本作で、100年に1人と言われた数学者・櫂直を演じたのが俳優・菅田将暉だ。若手実力派俳優として、確固たる地位を築いてきた菅田が、大ベテラン俳優を相手にどんな思いで作品に挑んだのか、胸の内を語った。
上の人に認めてもらうためには、しっかり結果を出さなくてはいけない
Q:太平洋戦争下の大日本帝国海軍が舞台の物語ですが、原作および台本を読んだとき、どんなことを感じましたか?
戦争という結構シビアなテーマがあり、櫂は海軍のなかで、自分の持つ数学の力で戦っていくのですが、櫂の行動って、現代社会においても変わらないことなんだろうなという印象がありました。
Q:具体的にはどんな部分が共通すると?
ひとつの組織のなかで、上層部はその人たちの立場やこれまで培ってきた経験やプライドもある。そのなかで、新しい風というのはなかなか受け入れてもらえなかったりすると思うんです。こうした構図っていまの世の中にも通じるものがありますよね。
Q:菅田さん自身にも、新しいものを受け入れてもらえないなと感じることはありますか?
いっぱいあります。ファッションとかもそうだと思うんです。良いと思っても、最初は全然受け入れてもらえないことが多い。でもあるきっかけで急に流行ることもあるじゃないですか。そうなってしまえば勝ちみたいな……。結局、上の人にちゃんと理解してもらうためには、結果を見せなくてはいけない。その意味で、櫂は理詰めで周囲を納得させる。彼がやっていることは、いまの社会人にも響くと思うんですよね。
大ベテラン俳優との芝居で感じたこと
Q:劇中、山本五十六役の舘ひろしさんをはじめ、國村隼さん、橋爪功さん、田中泯さん、小林克也さんなど大ベテランの俳優に囲まれたお芝居が多かったですね。
みなさん誰に言われることなく、自分のなかで役を膨らませて、積み上げてお芝居をするんですよね。その色のはみ出し方というか、漏れ出る感じを見ているのが楽しくて、こんな言い方はおこがましいのですが、共演していて、とてもやりやすかったんです。いろいろな色が混ざっていくなか、僕は出ていくだけでいいんですから。ものすごくありがたい現場でした。
Q:これまであまり経験したことがない感覚でしたか?
勝手な言い方になってしまうかもしれませんが、これまで割と自分から巻き込んでいく形で芝居を作っていくことが多く、待っていると物足りなく感じてしまうことがあったのですが、この現場では必死にやらないと消されていってしまうという緊張感がありました。ものすごく刺激的でした。
Q:そんななかでも造船中将・平山忠道を演じた田中泯さんと対峙するシーンはしびれました。
これまで泯さんと言えば、孤高な雰囲気で、肉体で表現しているイメージがあったのですが、泯さんがしゃべると時間軸が変わるのを肌で感じることができました。絵にも出ていますが、現場も「聞かなきゃ」って思わせる説得力がすごいです。
Q:田中さんのダンサーとしての佇まいが、そうさせているのでしょうか?
確かに、俳優だと「このシーンだったらこうしよう」みたいな狙いが少なからず出てしまう気がするのですが、泯さんにはそういったものは感じませんでした。ものすごい存在感で、芝居をしていてもビシビシと伝わってくるものがありました。
柄本佑との相性は抜群「崖に全力疾走しても止めてくれそう」
Q:一方で、世代的に近い海軍少尉・田中正二郎役の柄本佑さんとのコンビネーションも惹きつけられました。
今回初めて共演したのですが、ファーストコンタクトのときから、なんとも言えない信頼感がありました。
Q:具体的にはどういった部分に信頼感があったのでしょうか?
いわゆる漫才コンビのような……。僕がボケで佑くんが突っ込みなのですが、ときにそれが入れ替わることもある。お互い相手のことをしっかり見ているという安心感があるので、なにをやっても大丈夫という……。崖に向かって全力疾走しても、きっと止めてくれるみたいな(笑)。
Q:そういった感覚というのは、なにか根拠があるのでしょうか?
表現するのが難しいのですが、シンプルに言うと「相性がいい」という言葉になってしまうのかな。それはやっぱり特別な感じです。でもこの物語において、地味な肉体労働がずっと続いていくので、僕たちの一喜一憂感にワクワクしてもらわないと、作品がつまらないものになってしまう危険性がある。その意味で、ワンシーンワンシーンすごく反応できた感じがあったのはよかったです。
俳優業のロマンは「伝わったと思った瞬間」
Q:この作品には巨大戦艦に思いを馳せる軍人たちのロマンも描かれていますが、菅田さんにとって俳優業に感じるロマンは?
表現という意味では、いろいろな人に出会えて、やりたいもの、楽しいものが作れるというのは、大きな喜びですよね。そして、それを観てもらえる場があるということも大きな魅力です。ものすごく小さなことでも、自分が思いを込めて表現したことが、伝わったり、広がったりする瞬間はすごく楽しいし、ロマンを感じます。僕らは感情を表現することが仕事。それが相手に伝わるというのは、なにものにも替えられない喜びですね。
Q:表現するという意味では、櫂は数学的発想のもと、理詰めで相手に伝えていきましたが、菅田さんはどちらのタイプなのですか?
高校時代は理系だったので、どちらかというと理詰めでものを考えていたような気がしますが、芝居に関しては感覚的な部分が多いかもしれません。家ではいろいろと考えていくのですが、いざ現場に入ると全く違う感情が湧いてくることも多いので。でも計画した無計画もあるし、一概には言えません。どちらも必要だと思います。
Q:戦争の経験がない菅田さんが、本作を通じてどんなことができると思って作品に挑んだのでしょうか?
僕を介して、いろいろな人が知るきっかけになってくれればという目標があります。まだ戦争を知っている世代がいるうちに、若い世代が、自分たちをツールにして年配の方々と会話をするきっかけになれれば嬉しいです。
完成披露舞台あいさつの席で、舘ひろしや橋爪功、小林克也ら先輩たちから、芝居や佇まいを絶賛された菅田将暉。どんな役柄でもスクリーンや画面に引き込む力は圧倒的で、観ているものをくぎ付けにする。そんな菅田が「楽しかった」と目を輝かせて語った大ベテラン俳優との共演。菅田の口からは「緊張」や「萎縮」という言葉は出てこなかった。芝居のなかで「消されてしまうかも」という緊張感は味わったというが、それすらも楽しい瞬間だという。人を楽しませるエンターテインメントの世界に生きる人間にとって、どんな状況でも楽しめることは、最大の武器なのかもしれない。
ヘアメイク:AZUMA(M-rep by MONDO-artist)、スタイリスト:猪塚慶太
映画『アルキメデスの大戦』は7月26日より全国公開