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あの名作が作品賞落選!第71回エミー賞の行方を分析

厳選!ハマる海外ドラマ

 現地時間7月16日に第71回エミー賞のノミネートが発表されました。すでに当サイトや他媒体でも今年の傾向やノミネート数についての記事はたくさん出ているので、本稿では日本で視聴可能な作品を中心に、各カテゴリーの作品賞について筆者の見解を述べたいと思います。軽い読みものとしてお付き合いください。(今祥枝)

ドラマ&コメディー部門作品賞候補は全て上陸済み

Fleabag
「Fleabag フリーバッグ」のフィービー・ウォーラー=ブリッジ - Laura Cavanaugh / FilmMagic / Getty Images

 まずノミネート一覧を見て思ったのは、日本上陸作品が多いということ。特にコメディー・シリーズ部門の作品賞候補は全7本が上陸済み。長らくコメディーの秀作は、ごく一部を除いて日本では不遇でしたが、もはや過去のことになったと言えるのかも。フィービー・ウォーラー=ブリッジの異才ぶりが弾ける「Fleabagフリーバッグ」のような話題作でさえ、旧態依然とした業界からすれば題材的には厳しいと判断されたに違いありません。放送を待っていたら一体何年後に上陸しただろうかと、考えただけでも恐ろしいですね。

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シッツ・クリーク
「シッツ・クリーク」シーズン5より (C)CBS Corp. 2019

 一方で筆者がノーチェックだったのは、カナダのCBCの作品でシーズン5にして初の作品賞候補となった「シッツ・クリーク」。日本に居ながらの米テレビ業界ウォッチャーなので、当然リーチできていない作品(及び時間との闘い)は多々あります。が、調べたらNetflixに最新のシーズン5まで入っているではないですか。早速見始めたのですが、冒頭で毎回「本作には下品な表現が出てきます。ご注意ください」と出てくる通り、なかなかにゲスな感じでイタい家族の話のようで、これまた従来なら絶対に上陸しなかっただろうなと。動画配信サービスさまさまです。

エミー賞史上最多!「GOT」の圧勝となるか?

ゲーム・オブ・スローンズ
「ゲーム・オブ・スローンズ 最終章」より Photo: Helen Sloan/HBO (C)2019 Home Box Office, Inc. All Rights Reserved. HBO(R)and related channels and service marks are the property of Home Box Office, Inc.

 さて、ドラマシリーズ部門から行きましょう。どう考えても鉄板だった「ゲーム・オブ・スローンズ 最終章」は、少なからぬファンの非難の声で幕を閉じるという、ある意味で衝撃的な展開でした。結果として32ノミネートを獲得して歴代記録を更新しましたが、授賞式はゲースロ祭りとなるのでしょうか? 個人的には同作は殿堂入りなので最終章は「これはこれでよし」と全てを受け入れていますが、仮に本作が作品賞を逃すとしたらどの作品に最も可能性があるでしょうか。これは結構難しいものがあると思います。「オザークへようこそ」「ボディガード -守るべきもの-」「サクセッション」はいずれも見応えのある作品ですが、作品賞と言われると決定打には欠ける気がします。

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評価は高いのにエミー賞では不遇「ベター・コール・ソウル」

ベター・コール・ソウル
Netflixオリジナルシリーズ「ベター・コール・ソウル」シーズン4より

 「This Is Us/ディス・イズ・アス」のシーズン3は未見ですが、ロッテントマトなどでも当然のごとく高評価だし、みんなの愛されドラマなので作品賞受賞でも概ね納得となるのかも? でも、それだったら「ベター・コール・ソウル」のシーズン4でしょうと思う人は多いはず。毎シーズン、スーパーハイスコアを叩き出す批評家好みの作品なのに、なぜかエミー賞では不遇の印象。ここで受賞したらファンは盛り上がることでしょう。というかエミー賞は最終シーズンであげようとか思ってないですよね……? 最後にとっておく系の流れで「ジ・アメリカンズ」のような憂き目にあう秀作はままあるので、いいところであげてほしいものです。

 そういえば「ゲーム・オブ・スローンズ 最終章」は「脚本を書き直せ、作り直せ!」という声も上がりましたが、いくら何でもそれはないでしょうと思いました。賞レースを席巻した「ザ・ソプラノズ/哀愁のマフィア」(1999~2007)や「MAD MEN マッドメン」(2007~2015)だって、最終シーズンは非難を受けましたよね。どちらの作品も、特に物議を醸した前者の幕切れは、私自身は実にこの番組らしいと思ったものです。何が言いたいかというと、絶賛されたロングランシリーズを誰もが納得のいくラストで締めくくることの難しさは尋常ではないということは、理解しておきたいなということです(そのことと評価はまた別の話)。

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イチオシは、LGBTQ描く「POSE」!

POSE
「POSE」より(C)2018 FX Productions, LLC. All rights reserved.

 話が逸れましたが、マイ推しは「POSE」です。トランスジェンダーの黒人女性をメインに据えてLGBTQのコミュニティーを描き出す本作は、ライアン・マーフィーの時代の先読みが神がかっていて怖いほど。まさに今の時代に必要なメッセージを伝えて非常に意義のある作品でありながら、圧倒的な娯楽性の高さが、さすがと思わせます。メッセージ性全開なのに、純粋に娯楽として面白い。これこそがマーフィー作品の真髄でしょう。偏愛としてはシーズン2もキレッキレだった「キリング・イヴ/Killing Eve」ですが、前述のフィービーらしい倒錯した映像世界は、エミー賞向きとはいえなさそうな雰囲気はあります。ところで最近の海外ドラマファンの悩みといえば、放送はされてもパッケージ化されず配信にもこない話題作があることでしょうか。「キリング・イヴ」ほどの時代を代表する重要な作品が、現時点で視聴する方法がないのは何とも残念な限りです(WOWOWでシーズン1放送済み)。

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鉄板の「Veep」をはじめ激戦のコメディー部門

Veep
「Veep/ヴィープ」シーズン5より HBO / Photofest / ゲッティ イメージズ

 コメディー・シリーズ部門は「Fleabag フリーバッグ」「バリー」「マーベラス・ミセス・メイゼル」「Veep /ヴィープ」と強豪が勢ぞろい。正直どの作品が有利なのかもよくわからなくなるレベルではないでしょうか。注目は、『007』最新作『Bond 25』の脚本を手掛けるフィービーの自作自演による「Fleabagフリーバッグ」にここであげておくか、エミー賞の覚えめでたい「Veep /ヴィープ」の最終となるシーズン7が有終の美を飾るのか、でしょうか。勢いはフィービーにある気がしますが、米国テレビ芸術科学アカデミー会員のジュリア・ルイス=ドレイファス信仰は強固なものがあるので正直わかりません。

グッド・プレイス
Netflixオリジナルシリーズ「グッド・プレイス」シーズン3より

 個人的には「グッド・プレイス」もエミー賞では冷遇されていると感じています。非常に制約の多い地上波番組でこのクオリティーは素晴らしい限り。今秋から放送の最終となるシーズン4も楽しみです。前述の作品に比べると「ロシアン・ドール:謎のタイムループ」と「シッツ・クリーク」は、作品賞は厳しいかなと思いますが、特に前者は今時のSF要素、タイムトラベルをうまく使った構成がお見事。今年のベスト作品の一つであることには違いありません。まとまりが良かったのでミニ(リミテッド)シリーズ扱いでもよかった気がするのですが、どんな続きを見せてくれるのか楽しみにしたいと思います。

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大注目のリミテッド部門

TRUE DETECTIVE
「TRUE DETECTIVE/迷宮捜査」(C)2019 Home Box Office, Inc. All rights reserved. HBO(R)and related channels and service marks are the property of Home Box Office, Inc.

 個人的にも大注目なのがリミテッドシリーズ部門です。最近は6~10話程度の作品が増えており人気ですが、いやもう、今年はまた何というハイレベルな闘いなんでしょうか! 伝説のシーズン1に匹敵する傑作となった同シリーズ第3弾「TRUE DETECTIVE/迷宮捜査」が、作品賞の候補に入らないとは……。しかし5本の候補作を眺めると仕方がないと諦めざるを得ないというほどに充実しています。私自身がミュージカルファンというのもありますが、「フォッシー/ヴァードン(原題)/ Fosse/Verdon」が、どれほど美しい夢を見せてくれるのかに触れずにはいられません。「スウィート・チャリティ」から「シカゴ」まで、ミシェル・ウィリアムズらが珠玉のパフォーマンスを見せるミュージカルシーンを思うだけでも、ため息が出てしまいます。一刻も早い日本上陸を切に願います。

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実録ドラマの傑作「チェルノブイリ」「ボクらを見る目」

チェルノブイリ
「チェルノブイリ」(C) 2019 Home Box Office, Inc. All Rights Reserved. HBO(R)and related channels and service marks are the property of Home Box Office, Inc.

 しかし、このカテゴリーの作品賞は今年のエミー賞のHBOとNetflixの闘いを象徴するものとなるでしょう。何と言っても今期を代表する大傑作がHBOの「チェルノブイリ」です。実録ドラマの最高峰と言える本作は、時系列を追いながらも大胆に人物や事実を省略し、膨大なリサーチから何を描写するかを絞り込むことで作り手の視点を明確にしています。非常に簡潔でシンプルな作りで、感情をかき乱すようなあざとさやヒロイックな描写とは無縁。不気味なまでに淡々としているのですが、これほど恐怖を覚えた作品もそうはないというぐらい臨場感と緊迫感に神経がすり減るほど。いずれの描写も、まるで日本人が東日本大震災に伴う福島第一原子力発電所事故の災害を追体験するかのようにも感じられるからです。チェルノブイリ原子力発電所事故が起きたのは1986年ですが、私たちがこの悲劇を今振り返ることにはどんな意味があるのか? そこにはトランプ時代に対する強い危機意識が感じられますが、現在多くの人が感じている日本の政治に対する不信感にも直結するものがあると思います。

ボクらを見る目
Netflixオリジナルシリーズ「ボクらを見る目」より

 一方、Netflixの実話に基づく「ボクらを見る目」の勢いも見逃すことはできません。今も続く悲劇と、社会や司法制度にはびこる問題を、この冤罪事件を現代の視点から描くことによって鋭く浮き彫りにする秀作です。どの国の人にとっても衝撃的な内容であることに変わりはないのですが、やはりアメリカにおいて本作が起こしたムーブメントの大きさ、社会に与えた影響には計り知れないものがあると思われます。そして本作もまたトランプ大統領に対する痛烈な批判が込められています。受賞のいかんにかかわらず現代社会に警鐘を鳴らすこの2本が、今期を代表する秀作であることは間違いないでしょう。

 第71回エミー賞授賞式は日本時間9月23日に米ロサンゼルスのマイクロソフトシアターで開催される。日本ではFOXチャンネルで9時から12時まで二カ国語版(同時通訳)を独占生中継。午前8時からはレッドカーペットも生中継予定。

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エミー賞作品賞候補はココで観られる!

<ドラマシリーズ部門>
「ベター・コール・ソウル」Netflixでシーズン4まで独占配信中、シーズン2までDVD発売&レンタル中
「ボディガード -守るべきもの-」Netflixでシーズン1配信中
「ゲーム・オブ・スローンズ」BS10 スターチャンネルで全章アンコール放送中(スターチャンネルEXで「最終章」配信中)、Huluでシーズン7まで配信中、シーズン7までDVD発売&レンタル中
「オザークへようこそ」Netflixでシーズン2まで配信中
「POSE」FOXチャンネルで9月22日11:30~21:00<字幕版>全8話一挙放送
「キング・オブ・メディア」BS10 スターチャンネルで2019年放送予定
「This Is Us/ディス・イズ・アス」Amazon Prime Videoでシーズン2まで配信&レンタル中、シーズン2までDVD発売&レンタル中

<コメディー部門>
「バリー」Amazon Prime Videoでシーズン1配信中
「Fleabag フリーバッグ」Amazon Prime Videoでシーズン1配信中
「グッド・プレイス」Netflixでシーズン3まで独占配信中
「マーベラス・ミセス・メイゼル」Amazon Prime Videoでシーズン2まで配信中
「ロシアン・ドール:謎のタイムループ」Netflixでシーズン1配信中
「シッツ・クリーク」Netflixでシーズン5まで配信中
「Veep/ヴィープ」Amazon Prime Videoでシーズン6まで配信中

<リミテッドシリーズ部門>
「チェルノブイリ」BS10 スターチャンネルで9月25日より毎週水曜11:00ほか独占日本初放送
「KIZU -傷-」BS10 スターチャンネルで9月3日より毎週火曜11:00ほか放送
「ボクらを見る目」Netflixで配信中
「エスケイプ・アット・ダネモラ(原題)/ Escape at Dannemora」放送&配信未定
「フォッシー/ヴァードン(原題)/ Fosse/Verdon」放送&配信未定

今祥枝(いま・さちえ)ライター/編集者。「小説すばる」で「ピークTV最前線」、「yom yom」で「海外エンタメ考 意識高いとかじゃなくて」、「日経エンタテインメント!」で「海外ドラマはやめられない!」を連載中。本サイトでは間違いなしの神配信映画を担当。Twitter @SachieIma

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