本物そのもの!8月の5つ星映画5作品はこれだ!
今月の5つ星
今月の5つ星映画は、海外で評価された日本の低予算作品、ディズニーの“超実写版”作品、エルトン・ジョンの半生を描いた伝記映画、人種問題の盲点をあぶり出した快作、ハリウッドの大物人気俳優共演作。これが8月の5つ星映画5作品だ!
物騒なことを平然と言うブラックな面白さ
『メランコリック』
イタリアのウディネ・ファーイースト映画祭で、新人監督作品の中で最も優れた映画に贈られるホワイト・マルベリー賞を受賞した、巻き込まれ型サスペンス・コメディー。本来、疲れを癒やして明日への活力を手にするはずの銭湯が、裏では殺人を犯すには好都合な場所として活用されているというギャップから生まれるブラックユーモアが、作品の面白さを決定づけている。ものすごく物騒なことを「おなかすいたー」と同じくらい日常的なテンションで平然と言う場面が多々あり、声を出して笑わずにはいられない。製作費300万円の自主製作映画ならではの熱意が全編を通して貫かれており、東大卒のフリーターである主人公が初めて体験する甘酸っぱい恋や友情も混ざり合って、青春ドラマとしての深みもある。何事も受け身の自分が情けなくなり、変化を求めて映画作りを決意したという主演・プロデューサーの皆川暢二。彼の声かけで結成された映画製作ユニットOne Goose(ワングース)(皆川、監督・脚本・編集:田中征爾、出演・アクションシーン演出:磯崎義知の3名)による本作の成功によって、次回作への期待も高まる。(編集部・小松芙未)
映画『メランコリック』は8月3日より全国公開
洋楽ファンも必見!音楽を楽しめる“超実写版”映画
『ライオン・キング』
名作アニメーションの実写化が続くディズニーが『ライオン・キング』を、実写もアニメーションも超えた“超実写版”としてよみがえらせた本作。同じく超実写版『ジャングル・ブック』が記憶に新しいジョン・ファヴロー監督が、最新鋭のCG技術で映画化したその映像は驚くほどにリアルで、本物そのもの。そして、もう一つ注目したいのが声優キャストと音楽。主人公・シンバ役にチャイルディッシュ・ガンビーノ名義でリリースした「ディス・イズ・アメリカ」がグラミー賞に輝いた俳優のドナルド・グローヴァー、その幼なじみ・ナラ役に世界の歌姫ビヨンセ。さらにエルトン・ジョンが手掛けたアニメーションの名曲たちを、ファレル・ウィリアムスによるプロデュース&新キャストの歌唱で新録。『ボヘミアン・ラプソディ』『アラジン』に続く音楽を楽しむ映画として洋楽ファンも必見の1作だ。ストーリーはオリジナルに忠実で、プンバァ役のセス・ローゲンやハイエナ役のキーガン=マイケル・キーといったコメディアンもいいエッセンスになっている。(編集部・中山雄一朗)
映画『ライオン・キング』は8月9日より全国公開
歌って踊るタロン・エガートンに首ったけ!
『ロケットマン』
『キングスマン』シリーズのタロン・エガートンが、世界的なミュージシャン、エルトン・ジョンにふんした伝記ミュージカル。音楽の才能を発揮して成功していくエルトンだが、親に十分な愛を受けずに育ったことで愛情を求め続けた孤独な一面にもスポットが当てられる。ミュージシャンとして成功するも恋人に裏切られ、酒と薬物に溺れるエルトンをタロンが熱演。ステージに上がるときの笑顔や、ド派手な衣装で行うパフォーマンスはエルトンそのもので、エルトンも認める力強い歌声は、物語と演技に説得力を持たせている。また、エルトンと長年タッグを組んできた作詞家バーニー・トーピン(ジェイミー・ベル)との出会いと深い絆も描かれる。バーニーの書いた歌詞にエルトンがメロディーをつけ、名曲「Your Song/ユア・ソング(僕の歌は君の歌)」が誕生するシーンは感動的で目頭が熱くなる。音楽に愛され、周囲に支えられながらも悲しい過去と向き合えずにいるエルトンの半生を、ファンタジックでユーモアにあふれた愛のある映像に仕上げたデクスター・フレッチャー監督の手腕が光る。大切な人をハグしたくなる1作だ。(編集部・梅山富美子)
映画『ロケットマン』は8月23日より全国公開
怒りのラップにしびれる!人種問題の盲点をあぶり出した快作
保護観察期間の残り3日を無事に乗り切らなければならない黒人のコリン(問題を起こせば刑務所に逆戻り)と、彼の幼なじみで白人のマイルズを主人公に、今のアメリカが抱える問題をあぶり出した本作。同じ場所・環境・価値観で育ってきた親友同士ながら一人は黒人で一人は白人であったために“二人が見ていた世界”は全くの別物だったという盲点を鮮やかに描き出す。コミカルとシリアスを織り交ぜ、ラップまで駆使したストーリーテリングがユニークかつ効果的で、どんなことがあっても互いに向き合い続ける二人の友情もアツく、友情物語としても最高! ミュージカル「ハミルトン」で超高速ラップを披露してトニー賞にも輝いたダヴィード・ディグス(コリン役)の、魂のラップには誰もが激しく心を揺さぶられるはずだ。舞台となるカリフォルニア州オークランドで実際に育った友人同士のダヴィード&ラファエル・カザルが主演&脚本を二人で務めているため、急速に高級住宅街へと変わっていくことに戸惑うオークランドの地元民と、新参者の緊張関係もリアルで興味深い。(編集部・市川遥)
映画『ブラインドスポッティング』は8月30日より全国公開
1969年のハリウッドとタランティーノをたっぷりと味わえる
『パルプ・フィクション』『キル・ビル』シリーズなどの鬼才クエンティン・タランティーノ監督の長編9作目はハリウッド黄金時代の「とある3日間」を映し出す。タイムスリップしたかのように感じるクオリティーで1969年のハリウッドを完璧に再現、一つ一つのカットで一時停止して、背景や小道具をじっくりと眺めたくなるほど作り込まれた細部は、映画オタクであるタランティーノの真骨頂。落ち目のテレビ俳優リック(レオナルド・ディカプリオ)、彼のスタントマンを長年務めてきた親友クリフ(ブラッド・ピット)、売れっ子女優のシャロン・テート(マーゴット・ロビー)、怪しげなヒッピー集団など登場人物たちを際立たせながら、トゥルーストーリーとフィクションを交錯させる脚本も秀逸。タランティーノ作品ならではの「いや~な沈黙と間を伴うドキドキ」や「血みどろ描写」はややひかえめだが、監督のハリウッドに生きる人たちへの愛、映画への愛をたっぷりと味わうことができる。ディカプリオとブラピは、二人が長い間世界的な人気を誇っている理由がわかる名演ぶり。タランティーノの監督作『ジャンゴ 繋がれざる者』でも見せていたディカプリオの怒りの演技はまさに彼のお家芸。約2時間40分という長尺にもかかわらず、高いクオリティーのまま怒とうと驚きのラストまで一気に駆け込む。(編集部・海江田宗)
映画『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』は8月30日より全国公開