小栗旬がヤバい!蜷川実花が艶やかに映した俳優たち
今週のクローズアップ
2001年に「写真界の芥川賞」とされる木村伊兵衛写真賞を受賞して以来、写真家として注目を浴び続ける蜷川実花。2007年には『さくらん』で長編映画監督デビューを果たし、以後『ヘルタースケルター』(2012)、『Diner ダイナー』(2019)が公開。土屋アンナ、沢尻エリカ、藤原竜也ら名だたるスターとタッグを組んできた。最新作『人間失格 太宰治と3人の女たち』(9月13日公開)では、スキャンダラスな生きざまから“破滅型作家”と謳われる稀代の作家・太宰治の物語に挑戦。蜷川監督が、「キング・オブ・ダメ男」という太宰をあふれる色香と圧倒的なカリスマ性をもって演じた小栗旬をはじめ、艶やかに輝かせてきた俳優たちの魅力を語った。(取材・文:編集部・石井百合子)
小栗旬『人間失格 太宰治と3人の女たち』(2019)
唇が赤く染まった小栗旬
『人間失格 太宰治と3人の女たち』の世界観を象徴するのが、唇を赤く染めた太宰をアップで捉えたポスタービジュアル。妻子がありながら女性とのスキャンダルが絶えず、自殺未遂を繰り返した太宰の人生を表すかのように、この赤が「血」=死、「紅」=女たちにも見える絶妙なショット。小栗の物憂げな表情も印象的だ。
「小栗くんはあまりこういうダメ男のイメージがないと思うので、挑戦だったと思うし、実際に大変だったと思います。太宰が色男に見えないと作品として成立しないので、小栗くんにはとにかく『色っぽく。指先まで気を抜かないでね』と伝えました。ポスターのビジュアルは、かなり試行錯誤しました。いわゆる“文芸作品”っぽいイメージにはしたくなかったので。『人間失格』『太宰治』と聞くと、自分とまるで関係ない話のように捉える人も多いと思うんです。映画の入り口をどれだけ広くもてるかというのはすごく重要で、宣伝でどういうビジュアルを展開していくのかという点について、随分議論を重ねました。このポスターは、映画の撮影中にスタジオで撮ったものなので役が入ったままの小栗くんなんです。あと、これはわたしの特権ですが、監督自身が写真を撮るので被写体である彼もやりやすかったのではないかと。現場にスチールカメラマンが入って撮るのではなく、俳優が物語と地続きのままスチールの撮影ができる。おそらく今、小栗くんを撮ってもこういう表情にはならないと思います」
減量を経た太宰のビジュアル
常に酒浸りの自堕落な日々を過ごし、結核を患いやつれていく太宰を演じるにあたって、減量も行ったという小栗。身長184センチ。もともと小顔でスクリーン映えする抜群のスタイルを誇る小栗だが、後半シーンではやつれ悲愴感が強まるほど輝きを増していく。
「クランクインする前に小栗くんが自ら提案してくれたんです。『やせた方がいいよね』『髪も伸ばした方がいいよね』と。太宰が雪道を歩くシーンの時には16キロぐらい体重を落としていて、おそらくギリギリの状態だったと思うんですよね。もう動くのがしんどいぐらい食事制限していたので。鬼気迫っていて、ここは(演技の)ピークの一つだと思います。あとは妻の美知子(宮沢りえ)から『壊しなさい、わたしたちを』と言われた瞬間や、祭りで富栄(二階堂ふみ)に迫っているところを美知子に見つかってしまったときのあくびのような表情も『こんな小栗旬、見たことない』と思うはず。情けなくなるほどかっこいいんですよね」
「大丈夫、君は僕が好きだよ」の殺し文句
劇中、小栗演じる太宰が愛人に「死ぬ気で恋、する?」「大丈夫、君は僕が好きだよ」とささやく口説き文句は、赤面しそうなほどキザだが、これは富栄の日記に実際に記録されているもの。こういった言葉の数々からも、太宰が「恋愛マスター」であったことがうかがえる。
「映画用に創作しているセリフもあるんですけど、太宰が実際に口にした言葉を多く用いています。文章を書く人だから、口説き文句もすごくて!『そんなこと言われたら困る!』といったような殺し文句をリストアップして脚本家の早船歌江子さんに渡しました。反応する人とそうでない人といると思うんですけど、わたしは反応するタイプで(笑)。しかも、小栗くんに言われたら、もう……ね?(笑)」
怒濤のラブシーン!
大ヒット映画『銀魂』シリーズ(2017・2018)をはじめ出演作多数だが、意外にもいわゆる恋愛モノのイメージがない小栗。ドラマ&映画『花より男子』シリーズ(2005~2008)やドラマ「花ざかりの君たちへ イケメン♂パラダイス」(2007)、映画『ルパン三世』(2014)などでもモテキャラを演じているが、本作ほどバッチリとラブシーンが見られる作品も珍しい。正妻の美知子(宮沢りえ)、2人の愛人、静子(沢尻エリカ)・富栄(二階堂ふみ)との三者三様のラブシーンは、本作最大の見せ場と言っても過言ではない。
「小栗くんはもともとラブシーンのイメージがないんですよね。だからなのか、初めはすごく遠慮していて(笑)。撮影初日が、静子が太宰に赤ちゃんが欲しいと懇願するシーン、太宰が飲み屋の伊藤若冲の絵の前で静子に日記が欲しいと言うところだったんですけど、まだ(芝居に)照れが入っていたので『もっと、もっと!』と言いました。そこからは怒濤のラブシーンで、本領を発揮されていましたけど。わたしは普段はあまり指示出ししないのに、ラブシーンになると途端に細かくなるところがあって(笑)。例えば、太宰は静子の前では常にかっこつけているので、キス一つも丁寧に、大切なものを扱うように。いわゆる『月9』的な、誰が見てもかっこいい男性像を意識しました。かたや自分を崇める富栄に対しては扱いがすごく雑。タバコを持ったままキスしていたり。あと、都合が悪くなるとすぐにキスで口をふさいでごまかす(笑)。妻の美知子には驚くほど甘えっぱなし。小栗くんの芝居を見ていても思いましたけど、本当に子どものように甘えられて、絶対戻ってこられる場所だと思っている。美知子は襟元も一切乱れていないというのもポイントで、『しょうがないから受け入れている』という宮沢さんの絶妙な表情も素晴らしいです。そういうふうに、ラブシーンの中にもいろんな、それぞれの関係が表れていたらいいなと思っていました」
蜷川監督イチオシのときめきシーン
劇中、小栗旬が最も美しいと感じるシーンは……?
「例えば、太宰がバーで、テーブルの下で密かに富栄の手を触るシーンは好評です(笑)。『飲み会あるある』みたいな。ここも、どうしてもやりたかったシーンです。個人的には、富栄が太宰を追いかけて告白するシーンでしょうか。富栄が太宰の口に付いた血を拭こうと手を伸ばした瞬間、太宰が彼女の手をパッと取って『何?』って聞く。あの『何?』が好きです(笑)」
(C) 2019『人間失格』製作委員会
『人間失格 太宰治と3人の女たち』予告編
藤原竜也『Diner ダイナー』(2019)
公開3週の累計興行収入が10億円超えのヒット。平山夢明のバイオレンス小説に基づく、「殺し屋専用の食堂」を舞台にした映画『Diner ダイナー』には主演の藤原竜也をはじめ、窪田正孝、本郷奏多、武田真治ら芸達者なイケメン俳優が勢ぞろい。とりわけ、ウエイトレスとしてやって来た女性カナコ(玉城ティナ)を翻弄するカリスマシェフにふんした藤原は狂気をたたえたキャラクターにして、蜷川監督によって色香が最大限に引き出されている。
「竜也は芝居もうまいし、彼がすごいのはみんな知っているけど、『男としてもカッコいいんです!』っていうのを示すのがわたしの使命だと思っていて。だから『(食材の)香りをかぐときも、ジャケットを脱ぐときもかっこよく』『味見するのもエロくね』『ここ見せ場だから!』とか、ひたすら言いました。非現実的な世界を描くからこそ、女性として萌えるポイントは、わたしたち現代と地続きになるフックになるのではないか。映画をヒットさせるために戦略的につめ込むというよりも、まずは自分が見たい。ウキウキしたり、夢見心地になりたいという心理が働いているのかもしれないですね」
なお、本作には小栗も出演。スキン(窪田)のボスで、容姿端麗&頭脳明晰な殺し屋という設定。金髪・メガネのビジュアルに加え、クワガタを食すシーンも話題になった。一方、藤原も『人間失格 太宰治と3人の女たち』に坂口安吾役で出演し、監督いわく“交換留学制度”で再び小栗との共演シーンが実現した。
<蜷川作品で艶やかに輝く男たち>
安藤政信『さくらん』(2007)
蜷川監督にとって長編映画監督デビュー作となった『さくらん』は、原作が安野モヨコ、脚本がタナダユキ、音楽が椎名林檎と各界の女性クリエイターが集結した「ガールズ・ムービー」としても話題に。江戸の遊郭・吉原を舞台にした本作は、土屋アンナ、木村佳乃、菅野美穂ら遊女役の女優陣のほか、それを取り巻く男優陣にも椎名桔平、成宮寛貴、永瀬正敏ら華やかな面々がズラリ。とりわけ、ヒロイン・きよ葉(土屋)を幼いころから見守る店番の清次(安藤政信)は、蜷川監督の「夢がつまった」、ほれぼれとするキャラクターとなっている。ちなみに、本作にも小栗旬が出演。シーンは短いながらも、うぶな花屋役としてスウィートな魅力を放っている。
興行収入約21億5,000万円の大ヒットを記録した第2作『ヘルタースケルター』では、全身整形の秘密を持つ人気モデルを体当たりで演じた沢尻エリカの熱演、綾野剛、窪塚洋介らとのラブシーンも注目を浴びた。朝ドラ「カーネーション」でブレイクしつつあった綾野は、ヒロイン・りりこ(沢尻)のマネージャー・羽田(寺島しのぶ)の恋人である奥村にふんし、羽田の目の前でりりこと愛し合うというきわどいシーンもこなした。一方、窪塚は、りりこの恋人で傲慢な御曹司・南部役に。控室でのラブシーンも話題になった。