間違いなしの神配信映画『Guava Island』Amazon Prime Video
神配信映画
音楽編 第2回(全8回)
ここ最近ネット配信映画に名作が増えてきた。NetflixやAmazonなどのオリジナルを含め、劇場未公開映画でネット視聴できるハズレなしの鉄板映画を紹介する。今回は音楽編として、全8作品、毎日1作品のレビューをお送りする。
グラミー賞歌手としても知られるドナルド・グローヴァーのミュージックビデオのような映像作品
『Guava Island』Amazon Prime Video
上映時間:56分
監督:ヒロ・ムライ
出演:ドナルド・グローヴァー、リアーナ、レティーシャ・ライト
「コーチェラ・フェスティバル2019」のヘッドライナーを務めたミュージシャンのチャイルディッシュ・ガンビーノが、そのステージが終わった直後に世界同時配信したことが大きな話題を呼んだ『Guava Island』。否、むしろ、エミー賞受賞のドラマシリーズ「アトランタ」で原案・主演、ときには脚本や監督も担当するドナルド・グローヴァー(“チャイルディッシュ・ガンビーノ”は、彼のステージネームだ)が、ヒロ・ムライ監督など同作の制作チームと共に生み出した映像作品と言ったほうがいいだろうか。
いずれにせよ、2018年にリリースした曲「ディス・イズ・アメリカ」と、そのセンセーショナルなミュージックビデオによって一世を風靡したグローヴァーが、同じくミュージシャンであり女優としても活躍するリアーナを迎えて生み出した映像作品、それが『Guava Island』である。
物語の舞台となるのは、「グアバ・アイランド」という名の小さな南の島。グローヴァー演じる主人公デニは、自由を愛する音楽家であり、貨物倉庫で働く合間に地元のラジオ局で自作の曲を披露するなど、島の人々から愛される人気者でもある。一方、リアーナ演じる彼の恋人コフィは、いつかこの島を出ることを夢見ながら繊維工場で働く女性だ。
青い海に囲まれた美しい島、そして音楽とダンスを愛する人々……しかしこの島は、地元の名産である青い絹を独占するレッド家の人々に支配された、搾取の島でもあるのだった。そんなある日、デニは島の人々を楽しませるため、夜通し続く音楽の祭りを計画する。たとえ一晩限りでも、島の人たちに自由を感じてもらいたいから。しかし、それを島の支配者レッドが許すはずもなく、レッドの子分に拉致されたデニは、彼の前で祭りの中止を確約させられる。かくして迎えた祭りの当日、デニはどのような行動に打って出るのだろうか。
そのあらすじは、ほとんど寓話的、あるいは絵本のようにシンプルだ。しかし、町の壁に描かれた「レッドは見ている」という文字や、ライフルを携行したレッドの手下たちなど、その背景にはどこか不穏さが漂っている。
「ここは楽園なのに人生を楽しむ時間も手段もない」
そう嘆くデニの言葉を聞きつけた同僚が言う。
「島の外は違うらしい。アメリカとかな」「向こうじゃ誰もが自分のボスになれる」
しかし、そんな同僚の言葉を鼻で笑いながらデニは言うのだった。
「アメリカとは概念だ。他人に稼がせおこぼれをもらう」「それがアメリカ」
そして彼は、本作のためにアレンジし直された「ディス・イズ・アメリカ」を歌い踊り始めるのだった。
同曲のミュージックビデオと対をなすようなこの一連のシーンは、間違いなく本作のハイライトのひとつと言えるだろう。かつてマーティン・スコセッシが監督したマイケル・ジャクソンの「BAD」のミュージックビデオを彷彿とさせるこのシーン。そう、デニが恋人コフィに向けて歌い上げるロマンチックな一曲「サマータイム・マジック」など、本作はチャイルディッシュ・ガンビーノの楽曲が、オリジナルとは異なるコンテクストのなかで描き出される、音楽映画としての一面も持っているのだ。
彼が役者としてテレビドラマ「アトランタ」などの作品で積み上げてきたものと、ミュージシャンとして積み上げてきたものが、初めてひとつの作品の中に盛り込まれたという意味でも、非常に興味深い本作『Guava Island』。ドナルド・グローヴァーという当代きってのスターの本質を理解する上で、まさしく必見の一本だと言えるだろう。(麦倉正樹)