間違いなしの神配信映画『ザ・ダート:モトリー・クルー自伝』Netflix
神配信映画
音楽編 連載第5回(全8回)
ここ最近ネット配信映画に名作が増えてきた。NetflixやAmazonなどのオリジナルを含め、劇場未公開映画でネット視聴できるハズレなしの鉄板映画を紹介する。今回は音楽編として、全8作品、毎日1作品のレビューをお送りする。
悪名高いロックバンド「モトリー・クルー」の私生活に焦点を当てる伝記映画
『ザ・ダート:モトリー・クルー自伝』Netflix
上映時間:108分
監督:ジェフ・トレメイン
出演:ダグラス・ブース、イヴァン・リオン、コルソン・ベイカー、ダニエル・ウェバー
“The Dirt(ゴミ、スキャンダル)”とはよく言ったもので、読んで字のごとくの破廉恥な大暴れのオンパレード。80年代からつい数年前までツアー活動していたロサンゼルスのロックバンド、モトリー・クルーの伝記映画は2001年発表の同名自叙伝を基にメンバー4人が共同プロデューサーに名を連ねている。
1981年、ロサンゼルスの根城でのパーティーで始まる冒頭から、4人の悪ふざけは全開だ。監督はテレビシリーズ「ジャッカス」のジェフ・トレメインで、これは適材適所というべき人選。メジャースタジオ製作なら論外な描写をここぞとばかり盛り込んでくる。
気に入らなければ婚約者でも殴り倒す。メンバーの彼女に手を出すのも平気。浴びるほど酒を飲み、ホテルの部屋を壊し、ドラッグをやり、グルーピーなんて人扱いしない。これだけでもアウトだが、たたけば本当にホコリだらけのバンドにとっては作中に出てくる狼藉(ろうぜき)の数々は“表に出してもいい話”。
バンドのマネージャーの登場シーンの1つでは、「これは実際には起きていない」とギターのミック・マーズ(イヴァン・リオン)が観客に話しかけ、これがあくまでも劇映画であることを念押しする。
ドラムのトミー・リー(コルソン・ベイカー)が見せる乱れきった「ツアー生活」にあぜんとする。本当にしょうもない。かつて六本木のビルの地下にあったクラブで、VIPルームとは名ばかりのフロアから丸見えの一角でにぎやかに騒いでいると思ったら、メンバー同士で殴り合いが始まり、1人が店からつまみ出されるのを目撃した筆者としては「ああ確かにこんな感じ」と思う。
ヒット曲もたくさんあるが、バンドのパフォーマンスよりも映画は悪名高いロックスターとしての私生活に焦点を当てる。薬物中毒に陥ったベースのニッキー・シックス(ダグラス・ブース)の親の愛に恵まれなかった幼少期、反対に愛情いっぱいの両親に育てられたトミー、他の3人より年長で難病を患うニヒルなミック、そしてボーカル、ヴィンス・ニール(ダニエル・ウェバー)が危険運転致死罪で服役したこと、4歳の愛娘を小児がんで亡くしたことなど、それぞれのパーソナルな面を描く。
またモトリー・クルーを演じた4人とも実物の特徴を捉え、内面に迫る手堅い演技だ。
丁寧に描くのは深刻なドラッグ漬けだった80年代の終わりまで。90年代からは駆け足だ。1980年代は「30歳以上は信じるな」という言葉にまだ説得力があった。若くして大成功を収めた彼らは、間近に迫る30歳の壁に無意識の焦りがあったのかもしれない。だが、30のダブルスコア近い年齢になると、逆に怖いものなし。なかったことはないまま、あったことでもなかったことになる。取捨選択の基準は謎だが、愚かさや恥部をどれだけ正直にさらせたか、メンバー間に差を感じるのも面白い。赤裸々というにはやや甘く感傷的なのは、万国共通の「不良少年の純情」気質のなせる技か。
バカ騒ぎをしながらも根底にミュージシャンの矜持(きょうじ)があった彼らは「継続は力なり」を実証するに至った。たかがロックンロール、でもそれが好きなのだ。本作のために新曲「The Dirt(Est. 1981)」も発表し、ベイカーが本業のラッパー、マシンガン・ケリーとして参加するこの曲も、昔と全然変わらない。三つ子の魂百までの域。取り繕って、化けの皮が剥がれて、開き直って、という進化を形にしたのが『ザ・ダート:モトリー・クルー自伝』だ。(冨永由紀)