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『引っ越し大名!』星野源 単独インタビュー

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『引っ越し大名!』星野源 単独インタビュー

家にこもった時期があったからこそ今がある

取材・文:轟夕起夫 写真:上野裕二

実写映画の主演は、『箱入り息子の恋』以来約6年ぶり。星野源の待望の新作は、時代劇コメディー『引っ越し大名!』である。彼が演じるのは、姫路藩の書庫番。性格は内向的。書庫に引きこもって本ばかり読んでいて、人と話すのが苦手な侍・片桐春之介だ。それがひょんなことから「国替え=引っ越し」の総責任者という大役を押し付けられ、「失敗すれば切腹!」という状況に。が、ピンチはチャンス。春之介を表現した彼の体験、含蓄ある言葉を聞いていると、そう思えてくるのだ。星野源、かく語りき。

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現代にリンクする“お仕事ムービー”

星野源

Q:描かれていくのは藩を挙げての一大引っ越しプロジェクト。着眼点が素晴らしい作品ですね。

もう脚本の段階で、ググッと引き込まれました。「そうだよな、江戸時代にも引っ越しはあったはずだし、当時の人たちは自力で、たくさんの荷物と共に長距離を移動していったわけで、さぞかし大変だったろうなあ」って。“国替え”というのは実際に行われていたことなんですけど、今回はコメディーですのでリアリティーの追求を第一優先にはしておらず、その分、弾けた描写が楽しめる映画になったのではないでしょうか。

Q:犬童一心監督いわく、「この作品はサラリーマンものとして作っている」とのことでした。舞台は江戸時代ですが、現代にリンクする映画でもあります。

サラリーマンものであり、つまりは“お仕事ムービー”なんですね。僕が演じた、春之介みたいに今風の感覚を持っている人が、もし江戸時代にいたならばいろいろと生きにくかったことでしょう。現代的であるがゆえに周囲から浮いてしまうキャラクターが面白く、そこはしっかり演じたいなと思いました。先ほども言いましたが、リアリティーラインとしては最低限、時代劇の服装や所作を守りつつ、とはいえ、あまり決め事を気にせずにカタくならないようにしようと。この基本モードはスタッフの皆さんとも共有していました。

Q:脚本を読まれたとき、「予想をはるかに超えて感動」されたそうですね。

意外な展開が待っていて、爽快感もすごくあったんですよ。ちょっと壮大な話へと転がっていくんですね。完成作は、さらにその感動が増幅されていました。しかもエンターテインメントとしての質も高く、小手先で笑わせるのではなくて、その状況、シチュエーションから生まれてくるおかしさを膨らませることが出来て、嬉しかったです。

監督に任された春之介の成長の節目

星野源

Q:犬童監督とは以前、『黄色い涙』(2007)の音楽でタッグを組まれていますよね。星野さんがSAKEROCK時代に。

そうですね。でもそれ以来で、ご一緒するのは久しぶりでした。撮影前に監督にアドバイスされたことで一番記憶に残っているのは、春之介の成長の節目に関して、です。「このシーンがきっかけで変わる、というのを段階的に意識し、一つ一つを明確にした方がいい」と。

Q:では順撮りではない中、春之介の変化、成長の度合いを見極め、一つ一つのフェーズ(局面)を決めていかれた?

ええ、そこを僕に任せてくださいました。例えば春之介は、本が大好きというか書庫にこもりっきりの、極端に言えば本にしか興味がないような人間なんですけど、まず引っ越しを成功させるためにみんなにものを捨てることを勧め、自分もやらなくてはならなくなるんです。その大切なものを手放すやり方がとてもユニークなんですね。ここは春之介のターニングポイントで、人が付いていきたくなるリーダーとしての素質が垣間見える最初のエピソードだった気がします。あそこまでトリッキーに物事を考えられる人は珍しく、僕自身も「魅力的な人物だなあ」と感じました。

分類すれば、自分も春之介と同じタイプ

星野源

Q:春之介はコミュ障気味で、周囲から“かたつむり”とあだ名をつけられていますが、そういった点を演じる上で何か留意されたことはありましたか?

笑いの方向として、馬鹿にするようなデフォルメはしたくないなあ、と。自分も分類すれば、春之介と同じタイプなんです。学生の頃、家にずーっとこもっていて学校に行かないときもありましたし、学校に行ったとしても授業をさぼってギターを弾いたりしていて、それはこの映画で出勤はしているものの、本ばかり読んでいる春之介の姿と重なりました。社会に対して恐怖感を持つ反面、何かこう、エネルギーを溜め込んでいるような時間でもあったんですね。もっと言えばあの溜め込んでいる期間があったからこそ、今こういうふうに人前に出られるようになったと思っています。

Q:結果的に、斬新な時代劇が誕生しました!

僕がこの映画が好きなのは、我慢して嫌なことをしたすえにブレイクするのではなく、あくまで好きなものが社会に出たときの自分を救い、支えてくれるところ。得た知識や好きなものの蓄積が、自立への柱になるんです。自己犠牲によって何かを成し遂げる、って展開も感動はするのですが、「じゃあ、犠牲になった部分はほったらかしなの?」って思うんです。その点が『引っ越し大名!』という映画は新しく、「こんな時代劇が出来ましたよ」と胸を張りたい気持ちです。

禅に通じる芝居の面白さ

星野源

Q:ところで犬童監督は、星野さんとミュージシャン出身の名優・フランキー堺さんに近しいものを感じているのだとか。

身に余る言葉で光栄です。一体、どの作品のフランキー堺さんと重ねていただいているのかわからないんですけど、日本映画で一番好きなミュージカル映画はフランキーさん主演の『君も出世ができる』(1964年・須川栄三監督)なので、とても嬉しいです。

Q:すでに高橋一生さんとは舞台(2005年「アイスクリームマン」)、高畑充希さんとはテレビのバラエティー(2017年、18年「おげんさんといっしょ」)でご一緒されていますが、映画では初共演です。

二人とも言葉でお芝居を語らないんですね。だからすごくやりやすかったです。事前に打ち合わせをする必要がなく、撮影現場で生まれた演技に対して必ず反応してくれ、僕が受け止めて反応するとさらにまたリアクションが飛び出す。それは段取り芝居ではなくセッションのようで、言葉のいらない楽しさなんですよ。アドリブが交わせるといった次元ではなく、芝居の方向性が一緒で、時代劇でこういうテンションのお芝居が出来たのは幸せでした。

Q:改めて、星野さんにとって役者の醍醐味とは、どんなところにあるのでしょうか?

何のために芝居をするのかといえば、「自分ではなくなること」が面白いんです。人間はどうしてもエゴにまみれて生きていて、自意識に縛られている。演技はそこから解き放たれる一つの方法で、僕は禅に通じるものがあると思っています。完成作を観ると、「俺、こんなことをしてたんだ!」と感じるのですが、自分では意識していないんですよ。ある種、無になっていて、意図的にこういうことをしてやろうとか、感動させようなんていう自意識が消えているんです。僕が思う“いい演技”って、それなんです。音楽にも同じような体験がありまして、ものすごい集中力を発揮しているときって、自分という感覚がなくなっている。僕にとってはすごく大切な境地で、演技の場においてもそれを求めてしまうんですよね。


星野源

満を持して、星野源が主役の重責を担ってスクリーンに帰ってきた。少し気が早いが今後の抱負を訊いてみると、「宮藤(官九郎)さんの書かれるハチャメチャなコメディーも大好きですし、今まで取り組んだことのない悪役にも挑戦したい」と。『引っ越し大名!』を観ると、現在進行形の輝きと共にその萌芽がうかがえ、これからさらなるステップへと進んでゆく俳優・星野源の未来も見えてくる。

映画『引っ越し大名!』は8月30日より全国公開

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