『スター・ウォーズ』スカイウォーカー家の人々:第5回(番外編)オビ=ワン・ケノービの物語
スター・ウォーズ特集
12月20日日米同時公開の最新作『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』は、全9作のサーガの最終話。そこで、この連載では“正史”とされる映画とテレビシリーズを基に、これまでの全ストーリーを、スカイウォーカー家の人々それぞれのドラマとして見直してきた。今回はその番外編。この家の父と子を見守ってきたオビ=ワン・ケノービを紹介する。先日、彼を主人公にした新たなスピンオフの製作も決定した、このサーガの重要人物だ。併せて、ディズニーファンイベント「D23 Expo 2019」で披露された特別映像でレイが持っているのによく似た赤い両刃のライトセーバーを持つヴィラン、ダース・モールも復習しておこう。(平沢薫)
※この連載は、その人物の生涯を知るために、作品が公開された順ではなく出来事の起きた順で紹介しています。
スカイウォーカー家のジェダイ父子を育てた名ジェダイ、オビ=ワン・ケノービ
アナキンとルークの師匠
オビ=ワン・ケノービ(アレック・ギネス/ユアン・マクレガー)と、スカイウォーカー家の関係は深い。この一家出身の2人のジェダイ、アナキン(ヘイデン・クリステンセン)とルーク(マーク・ハミル)双方のジェダイ修行の師となった人物が、彼なのだ。彼がスカイウォーカー家に与えた影響は大きい。
実は、この師弟関係はどちらも異例のパターンだった。通常、ジェダイ・マスターは自分で弟子を選ぶが、オビ=ワンの場合は、弟子2人はどちらも自分の意思で選んだ弟子ではない。『スター・ウォーズ エピソードI/ファントム・メナス』でアナキン少年(ジェイク・ロイド)を弟子にしたのは、オビ=ワンの師クワイ=ガン・ジン(リーアム・ニーソン)だった。しかし、クワイ=ガンはアナキンを指導する前に死ぬことになり、その死の間際にオビ=ワンにアナキンの教育を託したのだ。
オビ=ワンがアナキンを指導し、彼が優れた戦闘能力を持つジェダイになったことは『スター・ウォーズ エピソードII/クローンの攻撃』、アニメ「スター・ウォーズ:クローン・ウォーズ」シリーズで描かれる。しかし、オビ=ワンはアナキンによくない影響も与えたのかもしれない。戦闘時にはアナキンがオビ=ワンを救うこともあり、そのせいでアナキンは次第に自分の能力を過信するようになり、自分は正当に評価されていないという不満を持つようになる。それが『スター・ウォーズ エピソードII/クローンの攻撃』『スター・ウォーズ エピソードIII/シスの復讐』で、アナキンがダース・シディアス(イアン・マクディアミッド)によるフォースの暗黒面への誘いに引き寄せられていくことに繋がっていったのかもしれないのだ。
まじめな性格ゆえに……
奔放なアナキンは、掟を破りがちで異色のジェダイだったクワイ=ガン・ジンとは相性が良かったのかもしれないが、堅実に掟を守る性格のオビ=ワンはアナキンの行動に忠告をすることが多く、アナキンに「慎重すぎる」と言われてしまう。また、オビ=ワンの方にも「師のクワイ=ガンならもっとうまくアナキンを導くのではないか」と悩むことが多かったのではないか。
そして、アナキンは『スター・ウォーズ エピソードIII/シスの復讐』でついに暗黒面に落ちてダース・シディアスの弟子となり、オビ=ワンは彼と戦うことになる。そしてアナキンと対決するが、とどめは刺せずに立ち去った結果、アナキンはダークサイドに助けられ、シスの暗黒卿ダース・ベイダーになってしまうのだ。
しかし、オビ=ワンは、アナキンがベイダーになったことを知る前から、その後の人生をアナキンの息子ルークのために捧げることを決意していた。『スター・ウォーズ エピソードIII/シスの復讐』で彼は、生まれたばかりのルークを惑星タトゥイーンのアナキンの義理の兄夫婦に預け、自分もその惑星に身を隠し、遠くからルークの成長を見守り続けるのだ。それがただの隠居生活ではなく、ルークを守るためのものだったことはアニメ「スター・ウォーズ 反乱者たち」で描かれる。
タトゥイーンでの隠居暮らし
そして、タトゥイーンでの生活が精神的には孤独ではなかったことも、『スター・ウォーズ エピソードIII/シスの復讐』で分かる。タトゥイーン行きを決意したオビ=ワンに、ヨーダが、霊界にいる彼の師クワイ=ガンと交流する方法を教えるのだ。隠遁中のオビ=ワンは、師との対話を心ゆくまで楽しんだことだろう。戦いの多かった彼の人生で、タトゥイーンにいた時代だけが、心静かな暮らしだったかもしれない。
だがルークの成長後、オビ=ワンの生活は激変する。赤ん坊のルークがどんな青年に成長するのかは未知数でもあり、オビ=ワンは、最初からルークをジェダイにしようと思っていたわけではないだろう。しかし、『スター・ウォーズ』で青年ルークをサンド・ピープルから助けるはめになり、R2-D2が運んできたレイア姫が自分に助けを求めるメッセージを見たときには、ルークを導くのが自分の使命だと悟ったのに違いない。ルークに父親が優れたジェダイだったことを話し、父のライトセーバーを渡す。すると、ルークは「僕も父さんのようなジェダイになる」と言うのだ。
信頼関係の上に成り立つ師弟関係
つまり、2人目の弟子ルークも、彼が自分の意思で選んだ弟子ではない。指導も、通常のような幼い頃からのものではない。が、この2人目の弟子とは相性が良かったのではないか。オビ=ワンがルークを指導した期間はごく短く、ミレニアム・ファルコン号の船内で惑星タトゥイーンからデス・スターに向かうまでの間だけだったが、ルークはフォースとライトセーバーの基本を習得し、2人の間には深い信頼関係が結ばれるのだ。
オビ=ワンは、『スター・ウォーズ』でダース・ベイダーと戦って倒れ、霊体となるが、その後も“声”でルークを導き、ルークもオビ=ワンの声を信じる。オビ=ワンとルークの間に信頼があったから、ルークはデス・スターの破壊に成功し、ダース・ベイダーとも対決し、ジェダイの修行を完成させられた。そして、ルークがジェダイになったから、『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』でレイがジェダイになることが出来た。オビ=ワンは、こうしてスカイウォーカー家だけでなく、ジェダイの未来、宇宙の未来に大きな影響を与えたのだ。
ヴィラン列伝:ダース・モール
日本の忍者と般若を連想させる姿が強烈なダース・モール(レイ・パーク)。シスの暗黒卿ダース・シディアスの弟子として『スター・ウォーズ エピソードI/ファントム・メナス』に初登場し、この映画のラストでオビ=ワンに倒されるが、実は生き延びて悲劇的な人生を歩む。
彼はアニメ「スター・ウォーズ:クローン・ウォーズ」で弟によってサイボーグとして復活し、権力を得ていく。が、ダース・シディアスはすでにアナキン・スカイウォーカーを弟子にしたので、モールが邪魔になったために彼の弟を殺し、さらに彼を投獄する。モールは自分の師に裏切られ、彼に復しゅうを誓うのだ。その後脱獄したモールは、犯罪組織クリムゾン・ドーンを組織して活躍し、映画『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』にも登場。アニメ「スター・ウォーズ 反乱者たち」では主人公エズラをダークサイドに誘惑したりもする。
胸を打つのは、モールの最期だ。「スター・ウォーズ 反乱者たち」で彼はオビ=ワンと最後の対決をし、今度も敗れる。場所は惑星タトゥイーンの砂漠。倒れた彼を抱えるオビ=ワンの腕の中で、モールはオビ=ワンに「見守っている人物(ルーク)は選ばれし者なのか」と尋ね、オビ=ワンが「そうだ」と答えると「ならば彼が俺たちの復しゅうをしてくれる」と言って満足そうに死ぬ。このとき、モールが“俺たち”と言うのは、彼にとってオビ=ワンは敵ではなく、自分と同じ何かの犠牲になった者だからだろう。この瞬間、彼が復しゅうしたいと願った相手は師ダース・シディアスではなく、もっと巨大な何か、運命というようなものなのではないか。そんな風にも見えるのだ。