『いなくなれ、群青』横浜流星&飯豊まりえ 単独インタビュー
セリフの重みが作品の魅力に
取材・文:高山亜紀 写真:日吉永遠
捨てられた人々が暮らす謎だらけの島で刹那的に暮らす七草。そんな彼の前に突然現れた幼なじみの真辺はみんなに疑問を投げかけ、1人で島を出ようとする。シリーズ累計100万部を突破した青春ミステリー小説を映画化した『いなくなれ、群青』で、運命的な再会を果たす七草と真辺を演じているのは、横浜流星と飯豊まりえ。実は2人、10年近く前に忘れられない出会いをしていた。そんな特別な間柄が役づくりにも反映されたようだ。
横浜流星のいやしボイスに注目
Q:原作小説の世界観を大切にした文語的なセリフが特徴的でした。演じる側としては苦心したのではないでしょうか?
横浜流星(以下、横浜):本当に詩的なセリフなので、これをどうナチュラルに言えばいいんだろうというのはすごく苦労したところでもありました。でも、気にしすぎないようにしていました。最初こそ不安はありましたが、会話の相手と話しているなかに出てくる言葉なんです。芝居をしていくうちに自然と出てくる言葉なんだなと気づいてからは、全然大丈夫だと思いました。
飯豊まりえ(以下、飯豊):おっしゃる通り、セリフがすごく強くて、重みがあるので、映画にぎゅっと深みを与えている印象を受けます。撮影は難しかったですけど、完成してみると、そこが素敵なポイントの一つになっていてよかったです。あのセリフを言いやすいように変えていたら、まったく違う印象を与えていたと思うんです。
横浜:そうですね。そこはすごく原作に忠実です。
Q:横浜さんのモノローグもセリフ同様、印象に残ります。心がけたことはありますか?
横浜:ありがとうございます。
飯豊:評判いいんですよね! 横浜さんのナレーションがすごくいいというコメントが殺到していました。あれはいつとったの?
横浜:あれはね、アフレコの時だから撮影の後ですね。画を見ながら声をあてることができたので、撮影の時の記憶を思い出し、七草としてセリフを言えたらいいなと当時の気持ちに寄り添うようにしていました。
Q:周囲から好評の自分の声は好きですか?
横浜:もうちょっと低いほうがいいなと思いますね。ちょっと高いかな。
飯豊:でも、目を閉じて聞いてもすぐに誰かわかるどこか特徴的な声だと思います。『いなくなれ、群青』の世界に合ってる。優しい感じがします。
横浜:「なんか眠くなる声」ってよく言われます(笑)。
飯豊:ちょっと、せっかくほめたのに(笑)。でも、わからなくないかも。そうだね。いやされるからじゃないかな。
横浜:そんな風に言っていただき、ありがとうございます(笑)。
かみ合わない会話の難しさ
Q:横浜さんはこれまでいろいろなキャラクターを演じてきたなかで、どういう役がしっくりきますか? 今回の七草のような役どころはいかがでしたか?
横浜:「しっくりくるな」というのはいい意味で、これまでなかったかもしれません。極力、自分というものを削って、役として生きることを心がけています。だからこそ自分と近い役柄はどこかやりづらかったりします。つい自分が出ちゃいそうになるんです。役を自分に寄せる人、自分が役に寄っていく人。いろんなアプローチの仕方の方がいらっしゃると思いますが、僕は寄せるというよりは自分が役に向かっていくほうがいいかな。
飯豊:そんな感じがしました。「七草に近いのかな?」と思ったりしましたけど、すごく考えて演じていたんですね。
横浜:七草には共感できるようなところがあったので、自分とは近かったですね。だからこそ極力、自分を出さないようにと心がけていたんです。特に会話のキャッチボールができないところがすごく難しかったです。
飯豊:そうですね。七草と真辺の会話ってかみ合わないんです。
横浜:そうそう。今回の七草役は素直に言葉を受け止めて、素直に返すという芝居ができなかった。七草は感情を表に出さないので、会話を受けてから1回、心のなかで落とし込んでから言葉を発する。返答をそのまま出せないというのは難しかったところの一つです。
運命を感じた出会い
Q:真辺はぶれないポジティブなキャラクターで、飯豊さんにぴったりでした。
飯豊:まっすぐで、一直線でしたね。そういう役を演じることが多いのですが、特に今回の作品との出会いには運命的なものを感じています。ある時、友人から「最近、読んだ小説にまりえちゃんっぽいキャラクターが出てきたよ」って言われたんです。「なんて作品?」と聞いたら、「『いなくなれ、群青』のヒロインの子だよ」って言われて、その時はもうお話をいただいていたので、「えっ、それって私の役じゃない?」ってびっくりしました(笑)。実際、原作に触れた際も、自分にもこういう部分あるなと思いながら読み進んでいったので、どこかワクワクしていました。演じる時も特別な親近感がありました。
Q:どのようなところに親近感を覚えましたか?
飯豊:私自身は現実主義で、これと思ったらそれしかない。わからないことがあったら、すぐ「なんで?」って聞いちゃう。「なんで?」は口癖ですね。思ったことをすぐ口にして、あまりため込まないほうだと思います。でもその反面、すごく心配性で不安になることも多いんです(笑)。だから、真辺に近い部分もあれば、もちろん、似ていない部分もあります。
Q:演じる際に参考にしたことはありましたか?
飯豊:真辺の気持ちがわかったので、わりと自分を反映させていますね。ただ、すごくまっすぐなので、「なんで?」というセリフも「もっと強く。もっともっとぶつけて」と監督から言われて、そこまでの強さを私は持っていなかったので、そこは難しかったです。もっと淡々と、もっと感情をこめないで……。監督から指示されたことは、初めてのお芝居のアプローチの仕方で、本当に難しかったです。新境地です!
2人はなんでも言い合える仲!
Q:2人はとても仲良さそうですが、共演は何度目ですか?
横浜&飯豊:映像はこれが初めてです。
Q:共演してみて、これまでと印象は変わりましたか?
飯豊:共演する前もいまも距離感は変わらないです。
横浜:そうだね。
飯豊:私にとって、横浜さんは不思議と久々に会っても久々の感じがしない。いま、ものすごくたくさんテレビに出られていますけど、いい意味で変わらないなって思います。そこの芯の強さは昔から感じていました。
Q:最初の出会いはいつだったんですか?
横浜:雑誌の撮影で、彼女が小6で、僕が中1ですね。
飯豊:お仕事で一緒になったんですが、たまたま学校も一緒だったんです。
横浜:お互い大人になったよね。
飯豊:以前の横浜さんは、もうちょっと元気だったような気がします(笑)。
横浜:そうかもしれない。元気だったね(笑)。
飯豊:いまはちょっと仕事モードだからかもしれません(笑)。お互いさっぱりしてるから話しやすい。気を遣うこともないし、「こういうところはよくないよ。直したほうがいいよ」あるいは「こういうところがいいよ」ということも言いやすい。そんなことまで言い合える男性はなかなかいないので、貴重な存在です。
Q:そんなにはっきり言うんですか?
横浜:言います。
飯豊:ちょっと気を抜いていると「友だちだから言うけど、いますごいブスだったよ」とか言われます。一周回って面白いし、うれしい。横浜さんは一見クールそうだから、「口数少ないのかな?」とか寡黙そうと思われるかもしれないけど、よくよく話してみるとすごく面白いし、ふざける時はふざける(笑)。そこは昔から変わらないですね。
人気者だけに取材が殺到し、休憩すらままならない状況だったにもかかわらず、2人には終始和やかなムードが漂っていた。心配性だと自認する飯豊があたふたすると、どっしり構えて安心させる横浜。一方、横浜が言葉を探していると、飯豊がすかさずサポート。まるで心優しい兄と気の利く妹のようなナイスバッテリーだ。因縁浅からぬ仲の七草と真辺。2人の過去を匂わせる不思議な関係性もこの2人だからこそ作り上げられたのだろう。
映画『いなくなれ、群青』は9月6日より全国公開