間違いなしの神配信映画『エルヴェとの晩餐 ある映画スターの数奇な人生』AmazonスターチャンネルEX
神配信映画
エミー賞テレビムービー編 連載第1回(全5回)
ここ最近ネット配信映画に名作が増えてきた。NetflixやAmazonなどのオリジナルを含め、劇場未公開映画でネット視聴できるハズレなしの鉄板映画を紹介する。今回はエミー賞テレビムービー編として、近年の受賞作・候補作から全5作品、毎日1作品のレビューをお送りする。
「ゲーム・オブ・スローンズ」のピーター・ディンクレイジが実在の俳優を熱演!
『エルヴェとの晩餐 ある映画スターの数奇な人生』Amazon Prime VideoスターチャンネルEX
上映時間:112分
監督:サーシャ・ガヴァシ
出演:ピーター・ディンクレイジ、ジェイミー・ドーナン、アンディ・ガルシア
実在するフランス人俳優のエルヴェ・ヴィルシェーズ。1943年にパリで生まれ、1993年にハリウッドの自宅で自殺を図り50歳でこの世を去った。『007/黄金銃を持つ男』(1974)でクリストファー・リーふんする悪役スカラマンガの部下ニック・ナック役で世に出た、身長119センチの小人症の俳優エルヴェ。その波乱に満ちた人生を描いたのがHBOの『エルヴェとの晩餐 ある映画スターの数奇な人生』(2018)だ。主演はドラマ「ゲーム・オブ・スローンズ」のピーター・ディンクレイジ。9月23日(現地時間)に授賞式が開催される第71回プライムタイム・エミー賞ではテレビムービー部門作品賞にノミネートされている。
1993年のロサンゼルス。アルコールの問題を抱えるイギリス人記者ダニー(ジェイミー・ドーナン)が、アメリカの作家ゴア・ヴィダルへのインタビューのついでとして、ボンド映画20周年記念の小さな記事のためエルヴェと会食することに。短時間で切り上げるはずが、成り行きからダニーはエルヴェと長い夜を共にし、彼の数奇な人生を知ることになる。ダニーのモデルは、『アンヴィル!夢を諦めきれない男たち』(2009)、『ヒッチコック』(2012)などのサーシャ・ガヴァシ監督。実際に記者時代にエルヴェにインタビューした経験を基に、脚本を手がけて映画化した。
実話ものにはつきものだが、本作も架空の人物をはじめとして事実とは異なる描写も少なくない。とはいえ、いまエルヴェの人生、キャリアを、この映画をきっかけに振り返ることには意味があるだろう。個人的に過去の作品の不適切な表現を挙げ連ねるのはどうかとも思うが、『007/黄金銃を持つ男』の特にエルヴェの出演パートは、現代の多くの人にとって受け入れがたいものがあるに違いない。劇中、自分を有名にしたのは「この身長」とエルヴェは語っているが、人気者になればなるほど孤独とやるせない気持ちは募り、自暴自棄になっていくエルヴェの胸中はいかばかりだっただろうか。
『シンドラーのリスト』(1993)でアカデミー賞脚色賞を受賞のスティーヴン・ザイリアン、サーシャ・ガヴァシらと共に製作総指揮に名を連ねているディンクレイジは、実際のエルヴェとは似ていない。だが、この映画の最大の魅力はディンクレイジのチャーミングで、しゃれっ気があって、カリスマ性を発揮しながら、どうしようもなく悲しみがにじむエルヴェ像にあるだろう。エルヴェを通して伝わってくる感情の全てがリアルで胸を刺すように感じられるたびに、ディンクレイジがどれほどの思いでこの役に臨んだのかと考えずにはいられない。
もっとも本作はエルヴェに共鳴するダニーの存在があってこそ、伝記ものというジャンルの枠を超えた普遍的な感動が生まれたと言えるかもしれない。エルヴェと出会い、自らキャリアも人生もぶち壊してしまったエルヴェに共鳴しながら、ダニーもまた自らダメにしてしまった人生と初めてきちんと向き合うことになる。ディンクレイジの名演と呼応するように、ダニー役のドーナンの繊細な演技には真実味がある。エルヴェとダニーの間には、同情などではなく本物の絆があった。そう思わせてくれる二人のケミストリーこそが本作の醍醐味なのだと思う。
ちなみに劇中では『007/黄金銃を持つ男』のほか、日本人には馴染みがないがエルヴェを一躍スターにした米ABCの人気テレビドラマ「ファンタジー・アイランド」(1978~1984)の再現シーンや撮影当時の様子が描かれる。ドラマの主演のリカルド・モンタルバン(映画とテレビの『スタートレック』のカーン役)を演じるのはアンディ・ガルシア。また同作の辣腕(らつわん)プロデューサー、アーロン・スペリングを「CSI:科学捜査班」のホッジス役で知られるウォレス・ランガムが演じているなど、アメリカの映画・テレビ業界の歴史の一端を垣間見ることができるのも楽しい。(今祥枝)