間違いなしの神配信映画『オールザウェイ』Amazon Prime Video
神配信映画
エミー賞テレビムービー編 連載第4回(全5回)
ここ最近ネット配信映画に名作が増えてきた。NetflixやAmazonなどのオリジナルを含め、劇場未公開映画でネット視聴できるハズレなしの鉄板映画を紹介する。今回はエミー賞テレビムービー編として、近年の受賞作・候補作から全5作品、毎日1作品のレビューをお送りする。
ブライアン・クランストンが、第36代大統領LBJを熱演!
『オールザウェイ』Amazon Prime Video
上映時間:132分
監督:ジェイ・ローチ
出演:ブライアン・クランストン、アンソニー・マッキー、メリッサ・レオ
2016年(第68回)のプライムタイム・エミー賞でテレビムービー部門の作品賞、主演男優賞、監督賞など8部門でノミネートされた『オールザウェイ』。1963年11月、ジョン・F・ケネディ大統領が暗殺され、副大統領から大統領に昇格したリンドン・B・ジョンソン(LBJ)が翌年の大統領選挙で圧勝するまでの日々を描いている。
1964年11月に第36代大統領として当選したジョンソンのスローガン「All the Way with LBJ(LBJとどこまでも)」からタイトルをとった本作は、ブロードウェイで2014年に上演された同名舞台の映像化で、舞台で主演し、トニー賞演劇主演男優賞を受賞したブライアン・クランストンが引き続き主演を務めている。監督は前年に『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』(2015)でクランストンと組んだジェイ・ローチだ。
アメリカ政治にあまり関心がない人には、ジョンソンはエスカレーター式に大統領になっただけ、あるいはベトナム戦争を長引かせた張本人という認識かもしれないが、アメリカ人にとっては「偉大な社会(Great Society)」をテーマに掲げて公民権法案を通した功績で知られる人物でもある。JFKの政策を引き継ぎ、南部テキサス州出身で民主党では保守派であると同時に、人種差別の撤廃や貧困をなくすことを目標に福祉や教育の改革に携わった。
書き連ねていくと、非の打ちどころなしの偉人のようだが、もちろんきれいごとだけではない。思いがけず大統領になったのは次期大統領選まで1年を切ったばかりのタイミングであり、そこで自力当選するための作戦を練らなければならない。支持基盤である南部の議員たちを離さず、同時に当選の鍵を握る黒人票を取りまとめるために公民権運動のリーダーであるマーティン・ルーサー・キング牧師(アンソニー・マッキー)と結託、公民権法案可決のために議会工作を繰り広げ……と、腹に一物ある者同士の攻防をテンポよく積み重ね、実際のニュース映像を巧みに取り込みながら、リアリティーを高めていく。
スマートな人気者だったJFKに比べて、見るからに無骨なジョンソンを演じるクランストンが素晴らしい。辣腕(らつわん)のネゴシエイターで側近たちや妻には当たり散らす気分屋だが、なぜか人心掌握に長けた独特の魅力を持ち、複雑かつ深みのある人物像をきめ細やかに見せる。人種や性差別的な軽口を執務室で平気でたたいているのはいかにも当時の粗野な男そのもの。その一方で自由や平等の尊さを信じている。人間の矛盾を体現するキャラクターだ。
演説の映像を見比べてみると、その口調は常に実物に忠実なわけではないが、クランストンがジョンソンに“なっている”ので、その演説は本物よりも説得力があるように聞こえる。楽曲に例えれば、コピーではなくカバーしている感じ。誰もがよく知る人物を演じる時にはまりがちな答え合わせに拘泥するだけという罠とは無縁の名演だ。
本作が放送された2016年は、折しもアメリカの大統領選挙の年だった。アメリカで放送された5月はまだ共和党・民主党共に候補者は正式指名されてはいなかったが、不適切な発言を連発しながらも長年政界で培った経験に物を言わせるジョンソンは、まるでドナルド・トランプとヒラリー・クリントンを足したように描かれていたことが、今になって見ると興味深い。
ところで劇中、執務室で大統領にカメラを向けるパイプをくわえた「オーキー」と呼ばれるアジア系男性が登場する。彼は日系二世のヨーイチ・オカモト。副大統領時代からLBJお気に入りのカメラマンで、史上初の大統領専属カメラマンとしてホワイトハウスに入った人物でもある。エンドクレジットにも登場する数々の印象的なショットを残したオカモトとその家族のドラマティックな歴史も、興味を持たれた方はぜひ調べてみてもらいたい。(冨永由紀)