室内なのにキャンプスタイル!?沖縄の短編映画祭
ぐるっと!世界の映画祭
【第86回】(日本)
2000年代以降、全国のスクリーン数は微増傾向にあるというのに、映画館がない! という街も増えている。人口約6万3,000人の沖縄県名護市もその一つ。その街に昨年、沖縄産映画に特化した短編映画祭「シネマ・デイキャンプなごうらら」が誕生。しかも室内なのにキャンプスタイルでの鑑賞らしい。7月21日に開催された第2回を、大林宣彦監督の長女で、映画監督・料理家の大林千茱萸(ちぐみ)がリポートします。(取材・文:中山治美、写真:大林千茱萸、 シネマ・デイキャンプなごうらら、Polaris)
テーマは“映画を身近に”
なごうららの主催は、沖縄で映像制作を行っているミガナル団と絵本屋Polaris。映画祭開催のきっかけは、自分たちが制作した短編映画を身近な人に見せたいという単純な思いだったが、調べてみたら他にも地元・沖縄産の短編がある! ある! しかも自分たちの作品同様にその多くが上映の機会がないことを知り、ならば自分たちの手で映画祭を立ち上げようという思いに至ったという。テーマは「映画を身近に」。
「沖縄といえば、主に那覇で開催される“島ぜんぶでおーきな祭(沖縄国際映画祭)”という大きな映画祭があり、芸能人がレッドカーペットを歩き、華やかでにぎやかな人気の映画祭となっています。ただ、同じ形を名護で? と思うと違う気がしました。芸能人を身近にというより、映画を身近に。映画を通して“撮る・観る・感じる・話す・聞く・認める・見つめ直す”という流れが、 作る側・観る側の距離が近い小さな映画祭なら可能ではないかと思いました」(Polaris店主・上原尚子さん)
上映会場はホテルゆがふいんおきなわの宴会場で、“シネマ・デイキャンプ”と名乗っているだけあって敷物やキャンピングチェアなどの持ち込み可というのがユニーク。絵本屋の店主でもある上原さんは、秋に本のイベント「秋の夕暮れブックピクニック」をなごあぐりパーク芝生広場で開催しており、そのスタイルを映画祭にも取り入れたという。
「映画館へ行く機会をなかなか持てないお父さんやお母さんたちにも子どもと一緒に楽しんでもらいたい。そんな思いから、自由なスタイルで鑑賞できるキャンプ式に至りました」(ミガナル団代表・北川彩子さん)
第1回は2018年7月21日に開催され、映画のみならず音楽ライブも盛り込まれ、来場者数は377人。せっかくの沖縄なのにインドア? と思うかもしれないが、この時期は台風シーズンで昨年はこの影響を受けることに。今年は快晴に恵まれたが、動員は136人だった。
「それでも他のイベントが重なった中、多くの方が来場したと思います。何よりインドアでキャンプというアイデアが良いですね。テントを持ち込んだり、敷物に寝転んだりと、自由なスタイルで映画鑑賞が楽しめるのが面白いなと思いました」(千茱萸監督)
主催者の本気に協力を約束
千茱萸監督は今回、スペシャルトークショーのゲストとして参加した。監督となごうららとの出会いは、昨年8月9日にさかのぼる。千茱萸監督は、無化学合成農薬・無化学肥料の野菜作りを推進している大分県臼杵市の取り組みから未来の食の在り方を考えるドキュメンタリー映画『100年ごはん』(2014)を引っさげて、“映画+食事+トークセッション”という五感で味わう上映会を続けており、名護での上映会の主催団体の一つが上原さんの絵本屋Polarisだった。そこで、子ども映画作りや映画祭を行っているので協力を持ちかけられたという。
「そういう話を持ちかけられることは多いので『本気じゃなければ協力できない』旨を告げると、『10年は続けたい』という。その後、わたしが審査員を務めている「うえだ城下町映画祭」(長野県)まで視察に来てくれた。これは本気なのだと確信し、軌道に乗る5回目までは協力することを約束しました」(千茱萸監督)
トークの司会は、『100年ごはん』の名護上映会の時と同じ、MCやラジオDJのほか沖縄市でカフェシアター「シアタードーナツ・オキナワ」を営む宮島真一さん。1日2回行われ、1回目は名護のように全国で昔ながらの映画館やミニシアターが閉館に追い込まれている映画館の現状を、2回目は1つの作品を皆で鑑賞し、感想を語り合うことの素晴らしさを話したという。
「質問を受け付けると、以前、エキストラで撮影に参加したという子から『自分でも映画を作りたいが、待ち時間が長くて無駄だと思った』と素直な意見が(苦笑)。そこでプロの現場の話をしました。『大人たちが200人ぐらいいても、撮れるのは1日2分ぶんぐらい。1日10時間撮影するとして9時間58分は準備や待ち時間なのです。でもそうやって大人たちは毎日2分ちょっとずつ積み重ね、1本の映画にするのですよ』と説明したら、『すげぇ!』って(笑)。その話を聞いた上で、まだ映画を作りたいという思いはなえてないというから、彼はなかなか見込みがありそうです」(千茱萸監督)
ぜ~んぶ県産映画
プログラムはすべて沖縄出身・在住の監督による作品で、ミガナル団による短編制作第2弾『talk』(北川彩子監督)もラインナップに入った。そこにさらに、今年6月から7月にかけて行われた子ども映画作りで制作された『ひみつのねことこどもたち』が加わった。
「コンペティションはありませんが、トークショーの中で各映画の作品評も伝えました。初めての人が作る映画ほど恐ろしいものはなくて、プロが撮れない、奇跡のような瞬間を切り取ってしまうことがある。こちらの方も、新たな“気づき”があるのです」(千茱萸監督)
中でも千茱萸監督が惹かれたのは、神谷邦昭監督・脚本・原作の『素晴らしきクソッたれな青』。沖縄の田舎町で未来に希望を抱けず過ごしていた男子高校生が、出会った問題児に翻弄されながら成長していく姿を描いたもので、2014年に自費出版した同名小説を映画化。
今年6月に行われた第五回新人監督映画祭(主催:新人監督映画祭2019実行委員会ほか)コンペティション部門短編作品部門で準グランプリを受賞している。
「全体を通して映像に奥行きがあり、“映画的”センスにシビれました」(千茱萸監督)
おしゃれなお店が続々誕生!名護が熱い
名護は、那覇空港から高速バスで約2時間の距離。今、沖縄はリゾート開発ラッシュに沸いていて、名護も同じく。それに合わせてオシャレな飲食店も増えており、料理家でホットサンドの専門レシピ本も出版している千茱萸監督はグルメ巡りにも余念がなかったようだ。
『100年ごはん』の名護上映の主催団体の一つで、農家と連携して地元野菜をたっぷり使ったランチプレートを提供するカフェ「Cookhal」。
神奈川の逗子から沖縄に移住した西郡潤士・根本きこ夫妻が営むカフェ「波羅蜜」、今帰仁産スイカのソルティドッグを提供するダイニングバー「SOIL」、本場インドカレーが味わえる「スーリヤ食堂」、県産食材をたっぷり使用したベーカリー「Pain de Kaito」、鳩サブレーの鎌倉・豊島屋も公認のハブサブレーを販売している「DONABE-COFFEE」などなど、魅惑の店舗がいっぱいだ。
「ほか、名護はスパイスやコーヒー豆栽培の北限で、ここから東京の有名レストランにも卸しているそうです。地方にはまだまだ知られざる食材もあり、面白い出会いがたくさんあります」(千茱萸監督)
なお映画祭会場でもホテルのシェフによる料理がお手頃価格で販売。ホテルゆがふいんおきなわは中国点心師による飲茶が名物で、その自慢の一品がセットで500円とはお得な!
「大きな蒸籠(せいろ)から蒸し立てを味わえて、おいしかったです」(千茱萸監督)
今後も独自のスタイルで
映画祭は今後、イベントが重なるため開催時期の変更や、より責任と公益性を高めていくためにも実行委員会の設立なども視野に入れていくという。
また「こども国際映画祭in沖縄」とも協力し合いながら、子どもたちの可能性を広げていく場にしていきたいという。何と言っても、大林千茱萸監督という強力なサポーターが付いているので心強い。
「映画を楽しんで観たり、ワークショップを経験した子どもたちが成長して、自主的に映画を作ったり、この映画祭の運営に携わってくれるようになれば大変うれしいです」(北川さん)
「この映画祭は生まれてはみたものの、歩きながら考えて、時に形を変えていくのだと思います。ただ今後は一層、“県産短編映画祭”という価値を上げていきたいと思っています」(上原さん)
沖縄で新たにともった映画の灯を見守りたい。