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第71回エミー賞名場面集 差別や偏見を訴える名スピーチが続々

エミー賞
最終シーズンを迎えた「ゲーム・オブ・スローンズ」の主要キャストたちが壇上に集結し、場内総立ちに! 撮影:細谷佳史

 現地時間の9月22日、ロサンゼルスのダウンタウンで開催された第71回エミー賞は、予想以上にサプライズに満ちた一夜となった。主要部門で言うと、「ゲーム・オブ・スローンズ」のドラマ部門作品賞受賞は予想通りだったが、コメディー部門の作品賞を、「Fleabagフリーバッグ」が「Veep/ヴィープ」を抑えて受賞したのは大きな驚きだった。また、コメディー部門の助演男優賞と助演女優賞の両方で「マーベラス・ミセス・メイゼル」が受賞し、ドラマ部門の主演女優賞が、「キリング・イブ/Killing Eve」のサンドラ・オーではなくジョディ・カマーが受賞したのも驚きと言っていいだろう。(取材・文:細谷佳史)

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テントの中の装飾も実に豪華。たった一晩のイベントとはとても思えない破格のスケール!撮影:細谷佳史

 今年はオスカー同様、ホスト(司会)なしで行われたことには賛否両論あるようだが、全体的には、マイケル・ダグラスナオミ・ワッツゼンデイヤグウィネス・パルトローら豪華なプレゼンターたちが次々と登場し、見応えがあった。会場内で特に大きな笑いを呼んだのは、番組の出だしで、ベン・スティラーが、コメディーのレジェンドたちを紹介するコーナーだ。既に亡くなっているジョージ・バーンズルシール・ボールを蝋人形で紹介し、2013年に「ビッグバン★セオリー」でエミー賞(ゲスト俳優部門)を受賞し今年90歳になるコメディー俳優ボブ・ニューハートを、すでに亡くなっているかのように紹介する下りだ。「オレはまだ生きている」と言いながらスティラーに憤慨するニューハートが、「オレは『トロピック・サンダー』の君が嫌いだった」と仕返しすると大受けだった。

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「THIS IS US/ディス・イズ・アス」のスターリング・K・ブラウン 撮影:細谷佳史

 もう一つは、アメリカの夜のトーク番組を代表する2人の大物ホスト、ジミー・キンメルスティーヴン・コルベアがペアで登場したときのこと。ホストなしのアワードショーが主流になると、自分たちの仕事がなくなると嘆く場面だ。「このままだとアレクサ(※音声サービスのこと)がプレゼンターになるよ」とコルベアが警告すると、実際にアレクサの声でノミニーたちの名前が紹介されるジョークに、会場内は爆笑の渦に包まれた。

 しかし何よりも、今年のエミー賞をアワードショーとして際立たせたのは、受賞者たちの感動的なスピーチだった。

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「POSE ポーズ」ビリー・ポーターの歴史に残る受賞

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「POSE ポーズ」でドラマ部門主演男優賞を受賞したビリー・ポーター(C)Television Academy

 最も大きく湧いたのは、「POSE ポーズ」で、オープンにゲイであることを明かしている黒人男性として同賞において初めて、ドラマ部門の主演男優賞を受賞したビリー・ポーターのスピーチだ。ポーターは、映画『私はあなたのニグロではない』の原作者としても知られるアフリカ系アメリカ人の作家、運動家のジェームズ・ボールドウィンの言葉を引用したのち、「僕にも権利がある。あなたにもある。僕らみんなに権利がある。実に多くの人たちがここまで来る途中で僕を助けてくれた。僕はただありがとうと言うよ」と興奮しながら語り、同じ部門にノミネートされた役者たちを称え、母親や家族に「愛している」と伝え、29年間仕事を共にしてきたマネージャーに「あなたは僕が自分を信じられなかった時に、自分自身を信じる手助けをしてくれた!」と礼を述べた。そして、番組のクリエイターであるライアン・マーフィーに何度も「サンキュー」と言い、最後に「私たちは人々だ。アーティストとしての私たちは、この地球に住んでいる人々のハートと心の分子構造を変えられる人々だ。お願いだから、それをやり続けるのを決してやめないで! お願いだから、真実を語るのを決してやめないで! みんなを愛している!」と訴え、熱いスピーチを締めくくった。

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性差別に一石を投じたミシェル・ウィリアムズ

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ミシェル・ウィリアムズは「フォッシー/ヴァードン(原題)/ Fosse/Verdon」でリミテッド・シリーズ部門主演女優賞を受賞(C)Television Academy

 ハリウッドでは近年、男優と女優のギャラに大きな差があることが問題視されているが、実際『ゲティ家の身代金』(2017)の再撮でマーク・ウォールバーグの1000倍少ないギャラで仕事をさせられたミシェル・ウィリアムズは、「フォッシー/ヴァードン(原題)/ Fosse/Verdon」で、リミテッド・シリーズの主演女優賞を受賞した際、「私に(男優たちと)平等にギャラを支払ってくれたことにお礼を言いたい」と製作スタジオに感謝の意を表し、以下のように続けた。

 「女性たちが、特に相手役の白人男性が1ドル稼ぐのに対して52セント稼ぐ有色人種の女性たちが、あなたに向かって、自分の仕事をするのに何が必要かを次に言う時、ちゃんと耳を傾けて。彼女を信じて。なぜなら、いつか、彼女があなたの前に立って、『その仕事場の環境のおかげで、自分が成功することが出来たことに、ありがとう!』と言うかもしれない。『そういった仕事場だったにも関わらず』となるのではなくね」

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パトリシア・アークエット、トランスジェンダーへの偏見に悲痛の叫び

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「ジ・アクト(原題) / The Act」でリミテッド・シリーズ部門助演女優賞を受賞したパトリシア・アークエット(C)Television Academy

 もう一つ、会場内で大きな拍手が沸き起こった瞬間は、「エスケイプ・アット・ダネモラ(原題)/ Escape at Dannemora」でリミテッド・シリーズの主演女優賞にノミネートされ、「ジ・アクト(原題) / The Act」でリミテッド・シリーズの助演女優賞を受賞したパトリシア・アークエットのスピーチだ。アーケットは受賞に対して「とても光栄に感じている」と語りながらも、複雑な思いであることを明かした。

 「私は50歳(51歳)になって、自分の人生で最高の役をもらえていることをありがたいと感じている。でも心の中ではとても悲しいの。私は妹のアレクシスを亡くした。トランスジェンダーの人たちは今でも迫害を受けている。われわれが、彼らが迫害されない世界にするまで、私は、あなたのことをずっと自分の人生で追悼するわ。そして、彼らに仕事を与えて。彼らは人間よ。私たちがあちこちに持っている偏見を取り除いて!」

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ヒュー・グラントら大物を抑えて受賞した注目の新人

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「ボクらを見る目」でリミテッド・シリーズ部門主演男優賞を受賞したジャレル・ジェローム(C)Television Academy

 また、最終シーズンを迎えた「ゲーム・オブ・スローンズ」と「Veep/ヴィープ」を紹介するところで、主要キャストたちが勢ぞろいして舞台に並んだところでも場内総立ちになったほか、新人のジャレル・ジェロームが、ヒュー・グラントベニチオ・デル・トロら大物たちを抑えてリミテッド・シリーズの主演男優賞を受賞した時にも大きな歓声と拍手が沸き起こった。ジャレルは、1989年の「セントラルパーク・ジョガー事件」(アフリカ系・ラテン系の5人の少年が冤罪で人生を奪われた事件)を描く「ボクらを見る目」での演技を評価された。

 エピック超大作の「ゲーム・オブ・スローンズ」から、秀逸な脚本と演技によるコメディー「Fleabagフリーバッグ」、黒人のゲイの男性とトランスジェンダーの女性たちの人間ドラマ「POSE ポーズ」、チェルノブイリの原発事故を描いた社会派「チェルノブイリ」など、今年の受賞作は実に多様性にあふれていた。賞のオープニングで、ブライアン・クランストンが「テレビは今ほど大きくなったことも、重要になったことも、これほど良くなったこともなかった」と述べたが、ケーブルに次いで配信サービスの台頭で、アメリカのテレビ業界は新たな黄金期を迎えていることを実感させる今年のエミー賞だった。

「第71回エミー賞授賞式」は以下の日程にてFOXチャンネルで再放送

9月28日21:00~22:00 レッドカーペット(字幕)
9月28日22:00~25:00 授賞式(字幕)
9月29日12:00~13:00 レッドカーペット(字幕)
9月29日13:00~16:00 授賞式(字幕)

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