『惡の華』伊藤健太郎 単独インタビュー
今までにない自分を見た
取材・文:成田おり枝 写真:高野広美
『スイートプールサイド』や『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』など、映画化が続く押見修造の漫画が、井口昇監督のメガホンにより映画『惡の華』として完成した。息苦しさを感じながら日々を過ごしていた中学2年生の男子・春日高男と、彼と出会う女性たちの青春と暴走を描く本作。衝撃的なシーンとともに思春期のダークな面をえぐり出す“問題作”に、主演の伊藤健太郎はどのように挑んだのか。役づくりの秘密や、印象深いシーンを語った。
精神的に追い込まないと演じられなかった
Q:『覚悟はいいかそこの女子。』でもご一緒した井口昇監督との再タッグ、とても感激されたとのこと。とはいえ、役づくりの上では吐き気がするほど辛かったとうかがいました。
精神的に追い込まないと、演じることができないと思っていました。わざと自分を追い込んでいたところがあったと思います。約1か月の撮影で「思春期の葛藤やモヤモヤを出すためにはどうしたらいいんだろう」と考えなければいけないこともたくさんありましたが、まずお酒をやめようと思い立って。お酒の場所に行くことってすごく楽しいので、僕にとってリフレッシュになっているのですが、それを断ち切ってみようと思いました。そうしたことで、いい意味で自分の中でストレスを溜め込んで、春日の葛藤とリンクさせていくことができました。
Q:井口監督とはどのような話をされましたか?
「『春日は中学生だ』ということを意識してください」と言われました。「撮影が終わってホテルに帰ってからも、ずっと中学生の考え方をしてくれ」と言われていたので、14歳くらいの自分ってどんな感じだっただろうと、当時の自分と向き合う時間にもなりました。また本作は原作のファンだった井口監督が長年、温めていた大事な作品なので、監督の熱量をものすごく感じていました。そういった思いがスタッフのみなさんにも伝わっていたので、みんなで熱く、熱く、映画を作っていきました。
過激な描写もあるけれど、共感もできる
Q:伊藤さんご自身の思春期はどのような感じだったのでしょうか?
僕自身は、春日とは正反対のタイプだったと思いますが、春日の考え方や、どうして彼が暴走してしまったのかは理解ができました。春日は、仲村さん(仲村佐和/演:玉城ティナ)に出会ったことで、自分の変態性のようなものをグワッと引きずり出されてしまう。そして自分の本質に気づいて、どんどん変化していく。思春期の多感な時期に出会った人が、自分の中にある部分を引き出してくれるというのは、ある意味で成長だと思うんです。形は違っても、僕にも似たような経験があります。
Q:春日に共感もできたのですね。
特に男ならば、誰もが春日に寄り添える部分が少なからずあると思います。過激な描写もあるし、衝撃作だと思われがちですが、根っこの部分は普遍的で、誰もが理解、共感できる思春期の少年少女の話なんじゃないかなという気がしています。モヤモヤとした思いを爆発させる春日ですが、それを行動に移すか、移さないかの違いでもあるかなと。脳で考えていることは、そんなにみんな遠くないと思います。
玉城ティナのビンタは痛かった!
Q:おっしゃるように、春日が女子のブルマーの匂いを嗅いだり、仲村さんと夜の教室で大暴れしたり、過激な描写もあります。特に印象に残っているのはどんな場面ですか?
春日と仲村さんで教室をめちゃくちゃに破壊するシーンは、ものすごく楽しかったです。撮影も遅い時間にやっていたので、なんだかハイになってきてキャッキャしながら撮っていました(笑)。あそこは、4日間にわけて撮りました。重たい心情を抱えながらも、どんどん2人が楽しくなってくるシーンでもあって。椅子や机を投げて、壁に墨でバーッと書きなぐったり、僕たちもテンション高く演じていました。猟奇的に見えるかもしれないですが、春日と仲村さんの純粋さが表れたシーンでもあると思います。
Q:春日が、馬乗りになった仲村さんからビンタされるシーンも印象的です。
あれは痛かったですね。玉城さん、しっかりと入れてきました(笑)。春日と仲村さんの関係は、とても不思議で面白いと思います。仲村さんが「クソムシが!」と春日に怒号を浴びせるシーンも印象的です。やっぱり『惡の華』と言えば、クソムシ。「クソムシが!」というセリフにも注目してほしいですね。仲村さんの怒号っていろいろなパターンがあって、「次になにがくるんだろう」と僕もワクワクドキドキしていました(笑)。
すべてをさらけ出した
Q:初主演を果たされた舞台「春のめざめ」も、思春期の性をテーマとした作品でした。ここ最近は、思春期と向き合うことが多い時期になったかもしれないですね。
確かにそうです!(笑)。最近は、作品を通して当時の自分を振り返ることが多かったように思います。当時の自分は「バカだったなあ」と思いますね。いろいろな人に迷惑もかけました。「大人の言うことなんか聞きたくない!」というわかりやすい反抗期もありました。もっとちゃんと言うことを聞いていれば生きやすかったのかなとも思いますが、その時期があったからこそ、今があるとも思うので、後悔はしていません。みんなそうやって大人になっていくのかなと感じています。
Q:チャレンジングな作品になりましたが、新境地を切り開いた実感もあるのではないでしょうか?
チャレンジだったし、今までにない自分を見たような気がしています。それは僕だけでなく、玉城ティナさん、(佐伯奈々子役の)秋田汐梨さんもそう。それぞれの今まで見せたことのない姿が表れた作品になったのではないかと思います。僕もすべてをさらけ出しました。「春日として、もう見られて恥ずかしいものはなにもない!」と思うほど、心情もなにもかもを出し切った。なかなか出会える作品ではないので、すごくいい経験をさせてもらったと思っています。いい意味で問題作になっていると思いますので、ぜひ楽しんでほしいです。
大好きな監督だという井口昇監督の渾身作に、全身全霊で挑んだ伊藤。過激なシーンにもひるまず「すべてをさらけ出した」とキッパリと語る姿が、頼もしい。役者としては「役や作品に素直にドンとぶつかっていく」と体当たりのスタイルで、そんな飾らない自然体な表情も彼の大きな魅力だ。本作は、将来に向けてチャレンジを重ねる伊藤の重要作としても見逃せない。
映画『惡の華』は9月27日より全国公開