間違いなしの神配信映画『ある女流作家の罪と罰』
神配信映画
年内に観ておきたい作品編 連載第4回(全7回)
ここ最近ネット配信映画に名作が増えてきた。NetflixやAmazonなどのオリジナルを含め、劇場未公開映画でネット視聴できるハズレなしの鉄板映画を紹介する。今回は年内に観ておきたい作品編として、全7作品、毎日1作品のレビューをお送りする。
メリッサ・マッカーシーが熱演!私文書偽造を働いた実在の作家の物語
『ある女流作家の罪と罰』20世紀フォックス
上映時間:106分
監督:マリエル・ヘラー
出演:メリッサ・マッカーシー、リチャード・E・グラント、ドリー・ウェルズ
2014年に他界した、女性作家リー・イスラエル。自伝『Can You Ever Forgive Me?』を原作に、作家として落ちぶれた彼女が私文書偽造を働く様を描いたのが、『ある女流作家の罪と罰』(2018)だ。本作は、第91回アカデミー賞主演女優賞、助演男優賞、脚色賞の3部門にノミネートされた。
伝記作家のイスラエルは、かつてはベストセラー本を出すほどに才能あふれる物書きだった。しかし、売れない作家へと転落した彼女は、アルコールに溺れ、家賃も払えず、唯一大切にしていた飼い猫の治療費すら払うことができない。そんな中、著名人の私的な手紙が高値で売れることに気付き、手紙を捏造(ねつぞう)しては古書店へ売るのを繰り返すようになる。
イスラエルを演じるのは、メリッサ・マッカーシー。『ブライズメイズ 史上最悪のウェディングプラン』(2011)や『ゴーストバスターズ』(2016)といったコメディー作品でお馴染みだが、本作ではこれまでのイメージを覆す、複雑で深みのある演技が光る。身なりに気を使わず、部屋は散らかり放題、社会から見放された彼女は、お世辞にも共感できるとは言い難いキャラクターだ。しかし、マッカーシーが本作で魅せた繊細な演技はイスラエルに人間味を与え、彼女に想いを寄せずにはいられなくなるのだ。
ある日、生活費を稼ぐため捏造を重ねていたイスラエルのもとに、友と呼べる人物が現れる。リチャード・E・グラント演じるジャック・ホックである。優しい笑みを浮かべながら登場した彼を一目見れば、イスラエルとは正反対にチャーミングで魅力的な人物だということがわかるだろう。良き相棒として犯罪行為に協力する彼は、人を信じないイスラエルのそばに寄り添い、彼女が築き上げてきた壁を取り払っていく。二人の真実味のある演技に加え、画面に説得力を持たせる両者のケミストリーにこそ、観る者は興をさかすのだと思う。
ところで、劇中でイスラエルが「わたしは本人以上に、ドロシー・パーカー」だと述べるシーンがある。伝記作家として著名人を調べてきた彼女にとって、著名人になりきり手紙を捏造することはたやすいことだった。一方で、自身の執筆活動に関しては、タイプライターに向かっても全くアイデアが浮かばない。書きたかったテーマは、出版社から「時代遅れ」と否定され、売れる文学を求められてしまう。自身の存在意義を執筆活動に見出していたイスラエルにとって、誰からも自身の作品を認めてもらえない辛さは計り知れない。手紙の捏造は、たとえそれが犯罪行為であろうとも、彼女にとっては自らの作品に自信を持つために必要な出来事だったと言えるかもしれない。
もっとも、イスラエルは原作タイトルで「いつかわたしを許してくれますか?」と許しを請うている。人とのつながりを断ち、一人で生きてきたイスラエル。しかし、ホックとの関係を通じて、そばにいてくれる人の存在の大切さに改めて気付かされたのではないか。人はつながりを求めるものであり、誰も一人では生きてはいけないのだ。(中井佑來)