間違いなしの神配信映画『ロスト・マネー 偽りの報酬』
神配信映画
年内に観ておきたい作品編 連載第5回(全7回)
ここ最近ネット配信映画に名作が増えてきた。NetflixやAmazonなどのオリジナルを含め、劇場未公開映画でネット視聴できるハズレなしの鉄板映画を紹介する。今回は年内に観ておきたい作品編として、全7作品、毎日1作品のレビューをお送りする。
『それでも夜は明ける』の監督が描く未亡人たちの強奪計画
『ロスト・マネー 偽りの報酬』20世紀フォックス
上映時間:129分
監督:スティーヴ・マックィーン
出演:リーアム・ニーソン、ヴィオラ・デイヴィス、ミシェル・ロドリゲス
『SHAME -シェイム-』(2011)で性依存症の問題をアーティスティックに切り取り、アフリカ系の市民が誘拐され奴隷化された史実を映画化した『それでも夜は明ける』(2013)で、アカデミー賞作品賞を受賞した映像派監督が、スティーヴ・マックィーンだ。
そんな経歴を持った彼が、初めて純粋な長編娯楽作品、しかも主人公たちがチームを組んで金などを強奪する“ケイパー・ムービー”である本作『ロスト・マネー 偽りの報酬』を手がけたというのは、意外なことだった。さらに、日本では劇場公開されず、配信・ソフト販売となった本作が、これまでの彼の作品よりも、さらに充実した内容だったというのは、二重の驚きである。
出演するのは、これも日本では劇場未公開だった『フェンス』(2016)でオスカーを獲得した女優ヴィオラ・デイヴィス、『ワイルド・スピード』シリーズやアクション作品などでおなじみのミシェル・ロドリゲス、たぐいまれな美貌を生活かした役の多いエリザベス・デビッキ。この3人が、強盗事件で命を落とした3人の夫の未亡人で、やがて自分たちも強盗を計画することになる女たちの役を演じ、そこに、ブロードウェイの舞台「『カラー・パープル』」で喝采を浴びた、女優で歌手のシンシア・エリヴォが演じる女性が加わるという、豪華な顔ぶれがメインキャストを占める。
さらに、コリン・ファレルや『ゲット・アウト』(2017)のダニエル・カルーヤ、開始5分も待たずに死んでしまう夫の役を演じるリーアム・ニーソンなどなど、さすがオスカー監督の娯楽映画となると、華やかな出演者が並ぶ。こんな作品が日本で劇場未公開となってしまうのは、非常に惜しい。
舞台は、犯罪が多発するシカゴの街。本作では、ギャングのボスが市会議員に立候補し、権力の拡大を狙っている。主人公となる未亡人たちの夫らは、そんな人物の金を奪おうとして命を落としたのだ。未亡人チームは、遺されたノートをもとに、新たな強奪計画をスタートさせる。
だが、本作がケイパームービーのかたちをとって真に描くのは、犯罪計画そのものよりも、むしろ女性の自立をはじめとして、人種差別、経済格差の拡大など、アメリカのみならず世界中に共通する、多くの人々が直面している問題である。
夫の事故後、過去に犯罪歴のあるヴェロニカ(ヴィオラ・デイヴィス)はギャングに脅されて日夜金策に走るようになり、リンダ(ミシェル・ロドリゲス)は子どもたちを抱え小さな店が奪われる危機に。そしてアリス(エリザベス・デビッキ)は生活のために身体を売るはめになってしまう。おまけに、リンダの子どもたちのシッターを務めているベル(シンシア・エリヴォ)は、美容院の仕事とのかけもちでハードスケジュールをこなすため、バス停へとアスリート並みの全力疾走を披露する。
学歴やキャリアのない女たちが、配偶者に頼らず、自分の稼ぎで生活をしていくということが、いかに大変なのかということを、本作は説得力を持って描いていく。日本と同じく、アメリカの貧困の苦しさというのは、女性にとって本当に過酷なものとなっているのである。
周囲の男たちは、そんな彼女たちを甘く見て、つけ込んで利用したり、敬意のない態度をとることがしばしばだ。だが、こんなにも虐げられ、しかし毎日を生きるために奮闘し続ける彼女たちに、“根性がない”わけがない。その不屈の精神をもって、彼女たちは男に挑み、強盗計画を実行するのだ。
スティーヴ・マックィーンの映画監督としての試みが最も色濃く出ているのは、コリン・ファレル演じる、市会議員候補の対抗馬ジャックが、広場での演説を終えて自宅まで高級車で帰宅する場面だ。車に乗り込んでから近所の屋敷に到着するまでが、ここではワンカットで表現される。カメラは首を振って、道路の両側を交互にとらえるが、一つ道を挟んで少し進んだだけで、貧困層が住むエリアと富裕層が住むエリアが、目に見えてはっきりとわかる。もはやこれは、現実そのものを切り取った、ほとんどドキュメンタリーといえるカットである。
このシカゴの昼間の風景は、『SHAME -シェイム-』や『それでも夜は明ける』で見られる洗練された美的な映像の多くよりも、少なくとも筆者には、表面的ではない、より意義あるものに感じられる。今回、脚本も共同で書いているマックィーン監督は、女性たちが生きる環境の厳しさをじっくりと描写することに加え、このような現実を切り取った映像の説得力によって、社会の真実をわれわれに訴えかけるのである。(小野寺系)