間違いなしの神配信映画『ルディ・レイ・ムーア』Netflix
神配信映画
年内に観ておきたい作品編 連載第6回(全7回)
ここ最近ネット配信映画に名作が増えてきた。NetflixやAmazonなどのオリジナルを含め、劇場未公開映画でネット視聴できるハズレなしの鉄板映画を紹介する。今回は年内に観ておきたい作品編として、全7作品、毎日1作品のレビューをお送りする。
エディ・マーフィが破天荒な実在の人物を演じて完全復活!
『ルディ・レイ・ムーア』Netflix
上映時間:118分
監督:クレイグ・ブリュワー
出演:エディ・マーフィ、ウェズリー・スナイプス、キーガン=マイケル・キー
『ビバリーヒルズ・コップ』シリーズなどで、日本でも高い人気を誇りながら、近年はあまりその姿を見ることのなかったエディ・マーフィが、完全復活を遂げた伝記映画──それが、この『ルディ・レイ・ムーア』だ。舞台は1970年代、アメリカ。エディふんするルディ・レイ・ムーアは、歌って踊れるコメディアンを自認しているものの、現在はレコード店の副店長を務めながら、その合間に自身のレコードを売り込んだり、ライブハウスでバンドの司会の仕事をするなど、どうもパッとしない日々を送っている。
そんなある日、彼は馴染みのホームレスの与太話を、自身のステージのネタにすることを思いつく。伝説のピンプ(スラングで女たらしの意)「ドールマイト」の破天荒かつ支離滅裂なエピソードの数々だ。しかも、そのすべてが度を越した下ネタであるそのネタをステージで披露することでルディは一躍人気者となり、そのステージを収録したレコードも黒人たちのあいだで大ヒットを記録するのだった。
そしてルディは、映画館で白人が作ったコメディー映画『フロント・ページ』(1974)を観ながら、さらなるアイデアを思いつく。そうだ、黒人による黒人のための娯楽映画を作ろうじゃないか。時は折しも『黒いジャガー』(1971)や『スーパーフライ』(1972)といった映画が黒人たちの人気を集めていた頃。
女たらしの陽気な「ドールマイト」を主人公として、銃撃戦やカンフーアクション、カーチェイスはもちろん、お色気あり、コメディーあり、そして音楽も最高にクールな……とにかく、自分たち黒人が映画館で大笑いしながら楽しめるような映画を作ろうじゃないかとルディ。そこから始まる物語の後半部は、観ているこちらもワクワクするような楽しさに溢れている。
映画作りに関してまったくの素人であるルディが、脚本家をくどき、出演者を探し、映画学校の生徒を集めながら、見よう見まねで生み出していく破天荒な映画作品。というか、映画作りを描いた映画に外れなしというのが筆者の見解だ。『ブギー・ナイツ』(1997)を彷彿(ほうふつ)させるような、はみ出し者たちによる映画作りの日々。それが楽しくないわけがない。
かくして、彼らが生み出した映画『ドールマイト』(1975)は、やがて「ブラックスプロイテーションムービー」(黒人監督による黒人を描いた映画)の隠れた人気作となっていく。実際、『ドールマイト』が描き出した破天荒な“ピンプ”像は、草創期のヒップホップの重要なモチーフとなり、数々のリリックの中に登場することになるのだ。
のちのブラック・カルチャーに大きな影響を与えたルディの立身出世を描いた本作。しかし、そんなルディの姿に、同じく後進の者たちに大きな勇気を与えたエンターテイナー、エディ・マーフィの姿がいつしか重なってくるところが、実は本作の何よりの面白さであり、味わい深いところだろう。
こちらも久々の登場でありながら、意表を突いた怪演を見せるウェズリー・スナイプスをはじめ、今や監督としても注目されているジョーダン・ピールの相方であるコメディアン、キーガン=マイケル・キーらが脇を固め、さらにはクリス・ロックやスヌープ・ドッグといった黒人スターたちが、エディ復活の花道を作るかのごとくカメオ出演している。相変わらず軽快なしゃべり口で、唯一無二の陽気な楽しさを振りまきながら、ふとした瞬間にエディが見せる、その哀愁を帯びたまざしに、なぜだか涙を禁じ得ない──そんな笑って泣ける一本だ。(麦倉正樹)