『男はつらいよ』新作の鑑賞前に!<登場人物はここで予習>
今週のクローズアップ
山田洋次監督の新作映画『男はつらいよ お帰り 寅さん』が12月27日に公開されます。この映画、なんと『男はつらいよ』シリーズ50作目にして22年ぶりの新作。「50作目」「22年ぶり」かつてこんな言葉が映画に使われたことがあったでしょうか? もちろん予備知識がなくても楽しめる作品ですが、鑑賞前に登場人物についてシリーズのオススメ作品とともに紹介します。(編集部・海江田宗)
■新作で軸となる満男とイズミ
『男はつらいよ お帰り 寅さん』ではシリーズの主人公、寅さんこと車寅次郎(演:渥美清)の甥である諏訪満男(演:吉岡秀隆)と、満男の初恋の相手・イズミ(演:後藤久美子)を軸に、寅さんにとってかけがえのない家である「くるまや」に関わる人たちの現在が映し出されます。4Kデジタル修復された過去作の映像も使用され、吉永小百合、八千草薫、松坂慶子らが演じた寅さんの恋の相手=マドンナたちも勢ぞろいします。
恋に勉強に不器用に生きながら寅さんに恋のアドバイスを受けたり、お酒の飲み方を教わってベロベロになったりしていた満男は、今作では小説家に華麗に転身を遂げています。「くるまや」に帰ってくる度に満男の将来を案じていた寅さんが喜んでいることは間違いないでしょう。両親の離婚や転校などを経験したイズミも、海外で活躍するびっくりするほど立派な女性に成長しています。
そんな満男とイズミについて知る上で欠かせないのは、やはりイズミが初登場する第42作『男はつらいよ ぼくの伯父さん』。浪人生の満男が遠く佐賀県に引っ越してしまったイズミに会うためにバイクを走らせます。満男にとっては遠かった佐賀県ですが、ずっと旅暮らしの寅さんにとっては日本中が自分の庭同然。当然佐賀県に現れ、満男とイズミのことを見守ります。イズミの叔父に対して寅さんが「私のような出来損ないがこんなことを言うと笑われるかもしれませんが……」と意見を述べるシーンには、寅さんのかっこよさともの悲しさが詰まっています。
ほかにも東京駅のシーンがグッとくる第43作『男はつらいよ 寅次郎の休日』、満男がイズミの結婚式をめちゃめちゃにする第48作『男はつらいよ 寅次郎紅の花』も満男とイズミの関係性を知るためにもオススメです。『寅次郎の休日』の方では、新作にも登場しているイズミの母・礼子(演:夏木マリ)とともに寅さんが寝台列車で旅をしています。
■寅さんの妹さくらと夫の博
映画シリーズの記念すべき第1作『男はつらいよ』では寅次郎と妹・さくら(演:倍賞千恵子)が20年ぶりに再会します。描かれる兄思いで優しくピュア、そして女性の強さも持っているさくらと、さくらをまっすぐに思う真面目で論理的な物言いが特徴の博(演:前田吟)の恋物語。その恋に割って入った寅さんと博の対決シーンでは理屈っぽい博と理屈がまったくわからない寅さんが激突し、名言&迷言が飛び出します。色々ありながらも無事に迎えたさくらと博の結婚式での、博の父(演:志村喬)によるスピーチは、涙なしには観ることができません。
やはり1作目として外せない本作の公開はなんと50年前の1969年(今年公開されたクエンティン・タランティーノ監督の映画『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』が扱ったシャロン・テート殺害事件が起きた年です)。それでも少しも色あせず、シリーズを象徴するかのように笑いと涙にあふれています。この映画に連なる新作が今年公開されることがいかにすごいかを実感できます。
さくらと博はおいちゃん、おばちゃんとともに旅から帰ってきた寅さんを「くるまや」で迎える側です。茶の間での一家団欒(いっかだんらん)が楽しい『男はつらいよ』シリーズのどの作品でも存在感を発揮しています。作品が進むにつれて変化するさくらと博のマイホーム、成長する満男に対する親としての悩みなども大きな見どころのひとつです。
■寅さんのかつての恋人・リリー
これまでのシリーズで寅さんは数多くの女性に恋をしてきました。そんなマドンナたちの中でも異彩を放っていたのが第11作『男はつらいよ 寅次郎忘れな草』で初登場したリリー(演:浅丘ルリ子)です。歌手を生業とし、寅さんと同じ旅人だったリリー。寅さんとリリーが所帯を持ってほしいとさくらだけでなく多くのファンが思いました。
恋をするとすっかり骨抜きにされてしまう寅さんですが、リリーが恋の相手の時は、そうなりません。リリー作品での寅さんは、どこか男らしさが増している印象を受けます。4作品あるリリーがマドンナの『男はつらいよ』はどれもオススメですが、あえてひとつ選ぶなら第15作『男はつらいよ 寅次郎相合い傘』です。メロンのシーンと番傘の相合い傘シーンから寅さんとリリーの絆の深さを感じてください。
■タコ社長の娘・朱美
『男はつらいよ』シリーズに欠かせないのが「くるまや」の裏で印刷工場を営んでいるタコ社長こと桂梅太郎(演:太宰久雄)です。満男の父・博の上司でもあるタコ社長は家族同然に「くるまや」に出入りし、寅さんとは何度も喧嘩をするけどずっと仲良しです。下町の中小企業の経営者として資金繰りに奔走しつつ、お金まわりで社長らしい一面を見せることもあり、第24作『男はつらいよ 寅次郎春の夢』では日米友好のために一肌脱いでいます。
そんなタコ社長の娘・朱美(演:美保純)が『男はつらいよ お帰り 寅さん』に登場します。寅さんのよき理解者・朱美にスポットがあてられた第36作『男はつらいよ 柴又より愛をこめて』で彼女のことをよく知ることができます。「愛とは何か?」という朱美の質問に対する寅さんの見事な答えを聞くと、なぜ寅さんがいつも失恋続きなのかがわからなくなります。
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