『屍人荘の殺人』神木隆之介 単独インタビュー
楽しいと思える道を進みたい
取材・文:成田おり枝 写真:尾藤能暢
国内の主要ミステリー賞を総なめにした今村昌弘の同名小説を実写映画化した『屍人荘の殺人』に、個性豊かな俳優陣が大集結した。はちゃめちゃな名探偵たちに振り回されながらも、物語の要を担う助手の葉村譲を演じるのは、若手実力派の代表格である神木隆之介。兄妹のような絆を育んだ共演者の浜辺美波、中村倫也との撮影秘話を語ると共に、20年以上も第一線で活躍する彼が役者としての覚悟を決めた瞬間について胸の内を明かした。
原作小説は「人生の1冊」
Q:“奇想天外の密室ミステリー”といううたい文句にふさわしい、独創的なトリックや予想外の展開に満ちた作品となりました。話題のミステリー小説を映画化した本作ですが、原作を読んだ感想を教えてください。
普段からそんなにたくさん小説を読む方ではないですし、特にミステリーは登場人物が多く、時間や場所、位置も把握しながら読まなければいけないので、少し遠ざけてしまっていたところがあったのですが、今回「屍人荘の殺人」を読ませていただいたら、ものすごく面白くて! 2時間半くらいで一気に読みました。読書をしながらドキドキしたり、ホッとしたり、ホッとしたと思ったら絶望に突き落とされたりと、こんなにも興奮したのは初めてです。
Q:読む手が止まらなかったのですね!
本当にそうでした。僕にとって、人生の1冊になりました。この本をきっかけにミステリーを読むようになったんです。「難しい」と思っていたミステリー小説の印象や概念をガラッと変えてくれましたし、「葉村をどうやって演じよう」とすごく楽しみになりました。
Q:葉村はミステリー小説オタクでありながら、推理下手な大学生です。演じる上で大事にしたのは、どのようなことでしょうか。
実は葉村の役づくりは、ものすごく難しかったです。特徴がなさすぎて、どうしたらいいのかわからない。こんなにもわからなかったのは、初めてかもしれません。いくら一般的な男の子にしても、もうちょっと特性があるだろうと思うくらい普通の男の子。誰の隣にいてもおかしくない、どこにでも馴染んでしまうような男の子なんです。
Q:突破口となったことはありますか?
葉村は中村倫也くんが演じる明智恭介と“ホームズとワトソン”のような関係にありますが、その後、浜辺美波さん演じる剣崎比留子が現れ、彼女から助手のような存在として求められます。なぜこんなにも普通の男の子である葉村を求めるのか。原作を読んでいても、そのことが葉村についての最大の謎でした。これはもう美波ちゃんに聞こうと思って撮影前に尋ねてみたところ、「お人柄ですかね」との答えでした(笑)。「なるほど」と思い、その言葉をもとに役づくりしていきました。
好きなことなら何時間でも話せます!
Q:「一緒にいたい」と思わせる人ということでしょうか?
葉村は世話焼きだし、本当にいい人なんでしょうね。気遣いもできて、誰にでも優しすぎるくらい優しい。倫也くんは「葉村は、明智がいくら振り回したとしてもしっかりついてきてくれる。誰もが甘えられるような人だ」と言っていました。葉村は“迷宮太郎”というあだ名がついてしまうくらい推理も当たらないし、助手としてはポンコツです(笑)。でも誰もが甘えられて、自分のパートナーを守ることができる勇気の持ち主だとも思っています。この2つが、役づくりの柱になったと思います。
Q:葉村とご自身の性格が重なるところはあると思いますか?
僕は人間関係を築く上では、みんなが楽しいといいなと思っているだけで(笑)。みんなが笑顔でいることが好きなんです。葉村のように、人に振り回されることはないんじゃないかな? とも思います。倫也くんとも「自分は振り回す側か、振り回される側か」という議論をしていたんですが、そのときに「撮影現場で7時間くらい(Mr.都市伝説)関暁夫さんのモノマネをしていたよね。好きなことをずっとやり続ける人だよね。振り回しているよ」と言われて……。ああ、僕は振り回す方なんだなと思いました(笑)。
Q:熱中してしまうと、相手を振り回してしまうのかもしれないですね。神木さんにとって「この話になると止まらない。相手を振り回してしまう!」というものはありますか?
昔から鉄道や将棋など、好きなものはたくさんあります。好きなことならば、7時間と言わず、何時間でも話していられるかもしれないですね。相手の方は「はい、はい」と聞いてくれていればいいんです。僕がぶわーっと話します! 葉村くんがいたら楽しいでしょうね。すべてのことに全力でツッコんでくれますから。僕も葉村くんを振り回してみたいです。
浜辺美波、中村倫也と過ごした奇跡のような楽しい日々
Q:葉村、剣崎、明智の関係性やバランスが絶妙でした。撮影現場も笑い声が絶えず、神木さん、浜辺さん、中村さんが3兄妹のようだったと聞きました。
最近気付いたのですが、この3人は自分のことをしっかり者だと思っているけれど、実はしっかりしていない人の集まりなんじゃないかと思ったりしていて(笑)。そんな3人でいる時間は、いつも楽しかったです。美波ちゃんは、受け答えもきちんとしているし、お若いのにすごく大人っぽくて……という印象がありますが、実はつつけばつつくほど面白い方なんです。そして、とにかく頑張り屋でいつも一生懸命。剣崎がナポリタンを食べるシーンがあって、(木村ひさし)監督から「ゆっくり食べていいよ」と言われたのに、美波ちゃんはガーッと食べて、ナポリタンが喉につまっちゃったんです。急いでお水を持ってきてもらったんですが、美波ちゃんは「息が吸えませんでした」と涙目になっていました(笑)。頑張りすぎちゃって、奇跡のような面白いことを起こす方です。
Q:中村さんとは『3月のライオン』シリーズでも先輩後輩の間柄を演じていました。
『3月のライオン』でも先輩後輩で、僕が演じる零は、倫也くん演じる三角さんに振り回されるという、今回と似た関係性でもありました。宣伝活動でもご一緒することが多く、その間に大きな信頼が生まれました。その頃から“ともくん”と呼ぶようになったんじゃないかな。久しぶりに会っても、久しぶりという感じがしなくて、いつも「おう! 元気?」と声をかけてくれる方。ちょっとミステリアスで、突拍子もないことを言うときもあって、それにツッコミを入れるのもとても楽しいです。
役者を極める道を歩み「今すごく幸せ」
Q:26歳にして、すでに20年以上のキャリアを持っている神木さん。もし役者でなかったら……という道は考えられますか?
高校3年生のときに、役者を続けるのか、大学に行くのかと進路で迷ったことがあります。大学でサークルに入って仲間とワイワイ盛り上がる……そんな生活にも憧れましたが、周囲に「進路で悩んでいる」と話したら、「そうなの!? 役者1本だと思っていた」と驚かれましたね。いろいろと考えて、迷って、その結果やっぱりこの道を選びましたが、進路指導の先生にも「そうだよな。わかっていたよ」と言われて。僕だけが迷っていたのか! と(笑)。
Q:その迷いはどのような経験になりましたか?
学生としても、その時期に迷わなければいけないことだったと思います。周囲は僕が役者をやっていくことを自然に受け止めていたかもしれないけれど、自分なりの考えで「役者をやっていこう。頑張っていこう」と決めることができた。「もう言い訳はできないぞ」という覚悟も決まりましたし、しっかりと結論を出せたのでよかったなと思っています。僕はいつも“楽しい”と思える方に進みたいと思っているんです。もしまた大学に行きたいと思えば、そういったチャンスもあるかもしれませんし、“楽しい”と思える道を選んで、今こうしてお仕事をさせていただけていて、とても幸せです。
「普通の人を演じるのは難しい」と苦労もあった様子だが、優しさにあふれ、いつの間にか周囲に人が集まってきてしまう葉村は、神木自身の魅力ともピタリと重なる。楽しむことを第一に人生をまい進するからこそ、いつでもポジティブなオーラを放ち、役者業においてはとことん献身的で努力家な神木隆之介。これからも“求められる俳優”として、輝き続けることだろう。
(C) 2019「屍人荘の殺人」製作委員会
映画『屍人荘の殺人』は12月13日より全国公開