カンヌ・パルムドール受賞作『パラサイト』はなにがすごいのか!
韓国映画として史上初のカンヌ国際映画祭パルムドール(最高賞)を受賞した『パラサイト 半地下の家族』。韓国本土では昨年5月に公開され累計観客動員数1,000万人を超える大ヒットとなっている。本作の魅力と、韓国に与えた影響について迫る。
パルムドール受賞作『パラサイト 半地下の家族』って?
『殺人の追憶』『スノーピアサー』などで知られる韓国の名匠ポン・ジュノ監督の最新作である本作は、全員失業中のキム・ギテ(ソン・ガンホ)一家の長男・ギウ(チェ・ウシク)が、お金持ちのパク一家の娘の家庭教師になったことをきっかけに物語が展開。長女のギジョン(パク・ソダム)が美術家庭教師が素性を隠してパク家に入り込む。嘘を取り繕おうとするさまを滑稽にブラックコメディー調で描き、ふたつの家族を待ち受ける衝撃のラストへと続く。
ポン・ジュノ監督のこだわりとは?
ポン監督の作品はモチーフとなった事件や事象はあれど『スノーピアサー』など一部を除いてほぼオリジナルで、『グエムル -漢江の怪物-』では、もしも怪物がいたらという想像からスタート。『パラサイト』では、交わることがない富裕層と貧困層の家族がどのようにして関わることになるかときっかけを考えたとき、友人の紹介で家庭教師になるアイデアが浮かんだという。
ポン監督自身、学生時代に家庭教師のアルバイトを行った実体験が基になっており、そのときに見たアルバイト先の家の調度品やトイレなどがパク家の豪邸のイメージへと繋がった。しかしながら、豪邸は映画のために建てられたセットであり、プロの建築設計士からすると空間の配置があり得ないという。ポン監督は映画的虚構のために、敢えて建築基準を無視した構造としたのだ。
一方、キム一家の住む家は半地下。ビルの屋上に建てられたオクタッパンと呼ばれる家屋と並び家賃が比較的安く、貧困層が暮らすケースが多い。父親のキテクが缶ビールらしき物を飲むシーンが登場するが、いわゆる発泡酒に分類される代物で、ビールに比べて安価。そんなところにもポン監督のこだわりがうかがえる。
韓国映画初のパルムドール
そもそもカンヌをはじめとする国際映画祭で、韓国の386世代(注:1990年代に30代(3)で、1980年代に大学に通い(8)、1960年代生まれ(6)の世代の総称。インテルのI386プロセッサーをもじって呼ばれる)の作品が注目されるようになったのは2000年代以降。2003年にパク・チャヌク監督が『オールド・ボーイ』でカンヌ国際映画祭の審査員特別賞を受賞すると「次はパルムドール」という期待が韓国内で高まった。
ポン監督の前作『オクジャ/okja』(2017)は、カンヌのコンペ部門に出品されたこともあり、近年ではポン監督が最もパルムドールに近い存在と言われていた。そのため、獲るべきして獲ったと考える韓国の映画関係者は少なくない。
韓国での影響は?
パルムドールばかりが注目されているが、記録という側面から見ても本作が韓国映画界に残した偉業は大きい。国内外でヒットした『お嬢さん』(2016)でも海外販売の国と地域は176という数字だったが、『パラサイト』はカンヌ国際映画祭終了時点で192に達しており、韓国映画史上最多海外販売を記録。商業ベースとしても順調で、ゴールデングローブ賞にノミネート(監督賞、脚本賞、外国語映画賞)されたほか、アカデミー賞国際長編映画賞を獲るのではないか、と韓国国内の期待も高まっている。
映画は虚構であっても、経済が低迷する韓国における格差は確実に広がっており他人事ではない。現政権に対するデモは韓国内にて随所で行われているが、映画が大ヒットしたことが「世論を動かす力に繋がっている」という話は聞いたことがない。デモをする側も、そこは分別があるのだろう。
ちなみに筆者は半地下に暮らしており、映画に登場するシーンのように部屋が水没してしまい、業者を呼んでポンプで部屋の中の水をかき出したことがある。あのシーンは大げさではなく、身をもって体験した半地下あるあるなのだ。(文:土田真樹)