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『パラサイト 半地下の家族』互いの才能を信頼し合う二人!ポン・ジュノ監督&ソン・ガンホインタビュー

ポン・ジュノ監督&ソン・ガンホ

 裕福な一家に寄生していく貧困家族の姿を予測不能なツイストを効かせて描き出し、カンヌ国際映画祭で韓国映画初のパルムドールに輝いた『パラサイト 半地下の家族』。オスカー戦線でもトップを走る本作を手掛けたポン・ジュノ監督と、貧しい一家の家長キム・ギテク役のソン・ガンホが13年ぶりに揃って来日を果たし、“無二の盟友”ぶりを見せつけた。(取材・文:柴田メグミ 撮影:日吉永遠)

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ソン・ガンホのキャラクターは当て書き!

ポン・ジュノ監督&ソン・ガンホ

Q:格差を題材にした本作の出発点を教えてください。

ポン・ジュノ監督(以下、監督):大学生(韓国の名門大・延世大学)の頃、私は非常に裕福な家庭の男子中学生の家庭教師をしたことがあります。その際に意図せずして豪華な邸宅内を隅々まで見たり、他人の私生活を覗き見るチャンスを得ました。ちなみにアルバイトを紹介してくれたのは当時の彼女で、現在の妻です。2013年に貧しい一家が次々と金持ちの家に入り込んでいくというアイデアが閃き、『オクジャ/okja』(2017)の次に撮ることが決まりました。

Q:ガンホさんにはいつ頃、お話があったのでしょう?

ソン・ガンホ(以下、ガンホ):4年前だったと思います。『殺人の追憶』(2003)の頃からジュノ監督は、完成したシナリオを渡すのではなく、構想中のアイデアを小出しにする巧妙なやり方で話してくれます。監督が『パラサイト』で観客の興味をどう煽るのか。映画的な創造力をどんなふうに伝えるのか。その核心部分やビジョンにそそられました。

監督:今回は、ガンホさんと『オクジャ/okja』にも出演してもらった長男役のチェ・ウシクさんについては当て書きです。俳優の姿や表情をわかったうえでシナリオを書くと、キャラクター描写に役立つことが多々ありますね。ガンホさんには「金持ちと貧しい家族が出てくる、少しおかしな映画です」とお伝えし、ウシクさんには「ずいぶん痩せているけど、太る予定はありませんよね? その体型を維持してください」と話しました。

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ポン・ジュノはドキドキさせてくれる唯一の監督

ソン・ガンホ

Q:4度目のタッグとなるお二人ですが、監督にとってガンホさんのどんな点が、ガンホさんにとって監督のどんな点が特別なのでしょう?

ガンホ:監督とは、かれこれ20年の付き合いになります。ファンとして、同志として、同僚として仕事を共にしてきました。初めて組んだ作品は『殺人の追憶』ですが、監督の初長編作『ほえる犬は噛まない』(2000)を観て、非凡で独創性豊かな、すばらしい芸術的センスを持つアーティストだと感じました。以来、監督には常に期待を寄せています。監督はデビュー以来ずっと、自分が身を置く社会をときに温かく、ときには冷徹な眼差しで見続けてきました。『パラサイト』はそんな監督の進化の形、アーティストとしての一つの到達点だと思います。監督の進化の終着点はどこか? 次なるリアリズムはどんな発展を見せるのか? それを考えたら少し怖いようでもあり、楽しみでもあります。ポン・ジュノは、私をドキドキさせてくれる唯一の監督なのです。

監督:監督として、ガンホさんの演技をこの世界で最も早く観られる立場にあります。まるで予期していなかったディテールや、動物的本能の如き生々しい演技を目撃し、撮影中は毎日ゾクゾクしています。彼に驚かされることは、シナリオ執筆時から起きていました。議論を呼ぶだろう、非常に難しいクライマックスのシーンにとりかかっていたとき「果たして観客が納得するだろうか」とキーボードを叩く手が止まった瞬間があります。けれど、その役を誰が演じるかを改めて考えたとき「ソン・ガンホであれば観客を説得できる」との思いに至りました。ガンホさんへの信頼こそが私の恐れや躊躇、気弱な部分を突破させてくれたのです。私にとってソン・ガンホはそれだけの意味を持つ存在です。

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現実そのものを描いているからこそ笑える

ポン・ジュノ監督

Q:劇中では、ギテクが“におい”について知るシーンにゾクゾクさせられました。ギテクが目をつぶったり隠したりして観客の想像力を刺激するのは、監督の演出、あるいはガンホさんのアイデアでしょうか?

『パラサイト』
(C) 2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED

ガンホ:明確な監督のディレクションがありました。ギテクの内面の風景は苦痛かもしれないし、挫折や絶望や悲しみかもしれない。それが観客に対してありのままに表現されるよりも、観客に委ねて想像して欲しいということではないでしょうか。私はそのディレクションに100%同意しました。

監督:においについて聞かされるシーンだけでなく、ギテクが目を閉じるシーンは繰り返し登場します。ピザ店の女社長が彼の自宅へ来る序盤のシーンでも、後方にいる彼は数回目を閉じているんです。クライマックスでも目を閉じている。繰り返し描くことで、まるでギテクのトレードマークのようにもなっています。

Q:ギテクを演じてもらうにあたって、監督からガンホさんに求めたことはありますか?

監督:私は監督と同時に作家でもあるので、シナリオを執筆するときは脳内で映像化しているプロセスがあると言えます。シナリオが完成する頃には、既に映画を一度撮っている感覚でした。ギテク役は当て書きで、しかも尊敬するガンホさんですから、撮影中は既視感を覚えるほどでした。毎回細かく注文しなくても、私の書いたシナリオを私以上に理解し、また豊かに解釈してくれているだろうという信頼がありましたし、実際にそうしてくださったので本当にラクでした。

Q:前半部分は試写室でもあちこちで笑い声が漏れていました。お二人とも題材にかかわらずユーモア、軽妙さを常に大切にされているように感じますが、その理由を教えていただけますか?

『パラサイト』
(C) 2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED

監督:ガンホさんも同じだと思うのですが、ここでユーモアを挟もうとか、ここで観客を笑わせなければとか、義務を感じたり目標を掲げたりしているわけではないんですね。とりたてて笑いを意識することはなく自然に、歩いたら足跡が残るのと同様だと思います。ただしガンホさんは普段からユーモアのセンスが卓越した方なので、私がシナリオやセリフでトスを軽く上げると、パワフルなスパイクを返してくる。観客に爆発的な笑いをもたらすのはあくまでもガンホさんの問題で、私に責任はありません(笑)。

ガンホ:ジャンルとしてコメディーを望んだり、敢えてユーモアを創り出そうとは思っていませんね。たとえユーモアが作品のベースにあったとしても、監督もおっしゃっているように意図的ではないんです。リアルな出来事や現実そのものを描いているからこそ、笑えるんだと思います。人生には悲劇も喜劇もある。二つが混在しているのが人生の姿ですよね。ですから現実の姿が投影されることによって、自然とユーモアが生まれたり悲劇が起きたり、様々な感情が盛り込まれるのだと思います。敢えてユーモアを入れようとはしませんし、ユーモアのために演技をしよう、演技術を披露しよう、機能的に演技をしようと努力することもありません。それが悪いとまでは言いませんが、望ましいことではないでしょうね。

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映画祭での受賞は「サプライズギフト」

ソン・ガンホ

Q:監督は「現代の資本主義社会において格差を題材にすることはクリエイターの使命」だとおっしゃっていますが、ガンホさんが役者としての使命を感じる瞬間、あるいは役者としての信念は?

ガンホ:政治的あるいは社会的な理念を持つというよりも、俳優として演じる作品だったり役柄だったりが、観客にとって意味のあるものになってほしい。これは意味があるなと観客に感じてほしいと思っています。それが商業的なものであれ、大衆的なものであれ、娯楽的なものであれ、映画的な豊かさであれ、いずれにしてもそう感じてほしいと思っていますし、いつも俳優としての責任感を抱えながら、健全なプレッシャーを感じています。

Q:韓国に初のアカデミー賞をもたらすのではと期待されていますが、現在の心境を教えていただけますか?

監督:どうなるかまったく予測できないことなので、楽しみに待っているような心境です。正直に申しますと、監督としての仕事は映画を完成させた時点で終わっているわけです。しかも映画はその時点から1秒たりとも変わっていません。ですから完成以降に起こっていること、カンヌでの受賞やアカデミー国際長編映画賞の韓国代表に選ばれたことについては、サプライズギフトのような気分です。

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 普段はソン・ガンホのことを「ガンホ兄さん」と呼ぶというジュノ監督。ファンであり、同志であり、同僚であり兄弟分でもある二人を繋ぐのは、互いの才能への揺るぎない尊敬と信頼にほかならない。そんな二人だからこそ誕生し得た『パラサイト 半地下の家族』は、一度目は驚きに満ちた展開を、二度目はディテールを味わい尽くすため、リピート観賞するに値する傑作だ。

映画『パラサイト 半地下の家族』は全国公開中

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