第92回アカデミー賞:今年のドレスはパースナライズ化!?オスカードレス予想!
映画に見る憧れのブランド
先日行われた第77回ゴールデン・グローブ賞のレッドカーペットドレスは、華やかな王道ドレスが登場するかたわら、セレブのパーソナリティが反映されたドレスやカジュアルなスタイルも目立っていました。オスカーの前哨戦と言われるゴールデン・グローブ賞から、今年のアカデミー賞のレッドカーペットの傾向を見ていきましょう。
ハリウッドらしいゴージャスでエレガントなドレス
まずは、アフリカ系アメリカ人女性奴隷解放運動家ハリエット・タブマンの伝記映画『ハリエット』で映画部門女優賞(ドラマ)と歌曲賞にノミネートされたシンシア・エリヴォ。彼女が着用したのは手で縫いつけられたビーズのマーメイドラインが美しいトム ブラウンのドレスで、まるで古き良き時代のハリウッドを彷彿させるよう。ジュエリーのサファイアとダイヤモンドのブルガリのチョーカーは、なんと300万ドル(3億3,000万円・1ドル110円計算)もするのだそう!(※1)
そして、シンプルながら煌めくセリーヌのストラップドレスで登場したのは『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』でジョーを演じたシアーシャ・ローナン。ツヤツヤの肌トーンに絶妙にマッチし、大きなスリットが入ったドレスはいつになくセクシーで、彼女の成長をうかがわせます。
『マリッジ・ストーリー』で映画部門女優賞(ドラマ)にノミネート、オスカーでも主演女優賞と『ジョジョ・ラビット』の助演女優賞とダブルノミネーションを果たしたスカーレット・ヨハンソンが纏ったのは、ヴェラ・ウォンのドレスとブルガリのダイヤモンドネックレス。ウェディングドレスをレッドカラーにしたようなドレスは『マリッジ・ストーリー』を示唆しているのでしょうか……?
結局、ゴールデン・グローブ賞映画部門女優賞(ドラマ)に輝いたのは『ジュディ 虹の彼方に』でジュディ・ガーランドを演じ、全曲自分で歌ったレネー・ゼルウィガー。13年ぶりにゴールデン・グローブ賞にカムバックした彼女が着用したのはアルマーニのスリットが入ったシルクドレス。パステルブルーと半月のようなバストラインが若々しく上品で、久しぶりの登場とは思えぬ存在感でした!
パーソナライズ化された衣装
2020年春夏コレクションのファッショントレンドを取り入れたり、ドレスがよりカジュアルになったりと、セレブの個性が衣装に反映されていたのも特徴的だった今回のゴールデン・グローブ賞。
■2020年春夏ファッショントレンド
テレビドラマ「POSE ポーズ」でテレビドラマ部門男優賞(ドラマシリーズ)にノミネートされたビリー・ポーターは惜しくも受賞には至りませんでしたが、やはりレッドカーペットで一番目立つ存在。アレックス・ヴィナシュがデザインしたホワイトスーツに同色のフェザー・トレーンを合わせました。フェザーはパリ・ファッションウィークでヴァレンティノが見せたトレンドで(※2)、クラシックなスーツにフェザーでエッジを効かせたコーデはさすが! ティファニーの11カラットを超えるダイヤモンドペンダント、ブローチやリングは総額200万ドル(2億2,000万円・1ドル110円計算)以上なのだとか。(※3)
パリ・ファッションウィークのランバンのコレクションに登場したブラトップ(※2)をドレスに盛り込んだのは、『ウェアド・ユー・ゴー、バーナデット(原題) / Where'd You Go, Bernadette』で映画部門女優賞(コメディー/ミュージカル)にノミネートされたケイト・ブランシェット。メアリー・カトランズのビジューのブラトップドレスで会場の目をクギ付けにしました。さらに、昨年ストリートでもトレンドだったプリーツがアクセントを添えインパクト大!
■カジュアル化
以前は柄ドレスはエレガントではないとレッドカーペットで敬遠されていましたが、昨年のゴールデン・グローブ賞でアン・ハサウェイがヒョウ柄ドレスを着用していたことがきっかけになったのか、今年のゴールデン・グローブ賞では花柄、水玉、千鳥格子などの柄物を多く見かけました。
花柄のヴィンテージルックをキメていたのは、『マリッジ・ストーリー』で様々な映画賞レースを独走し、ゴールデン・グローブ賞では映画部門助演女優賞を受賞したローラ・ダーン。サンローランのボヘミアンなドレスにダウンヘアで、カジュアルなムードを演出しています。オスカーでは『マリッジ・ストーリー』で自身の助演女優賞ノミネートを含む6部門が、出演した『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』も作品賞を含む6部門がノミネートされていることから、アカデミー賞のレッドカーペットでもローラが脚光を浴びることは間違いなし!
「X-MEN」シリーズや『マッドマックス 怒りのデス・ロード』『ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生』など大作への出演が続き、もはや父のレニー・クラヴィッツの影が薄れてしまうほどの人気女優に成長したゾーイ・クラヴィッツは、2020年のトレンドの1つである水玉(※4)を取り入れたサンローランのドレスでレッドカーペットに颯爽と登場。
そして、ジェニファー・ロペスが身体を張ってストリッパー役を演じ、映画部門助演女優賞にノミネートされた『ハスラーズ』の監督ローリーン・スカファリアが千鳥格子柄のドレスで少々緊張気味にレッドカーペットを歩く姿がなんとも新鮮でした! 『キミに逢えたら!』の脚本家としても知られる彼女の活躍も今後も期待したいもの。
柄ドレスに加えてスカートの丈が短くなったのも昨年のゴールデン・グローブ賞から。昨年短いスカートから美脚を覗かせたのはエリザベス・モスでしたが、今年は「ジ・アクト(原題) / The Act)」でテレビドラマ部門助演女優賞を受賞したパトリシア・アークエットの娘役を演じ、同作でテレビドラマ部門女優賞(テレビ映画・ミニシリーズ)にノミネートされたジョーイ・キング。イリス ヴァン ヘルペンのアバンギャルドなミニのプリーツドレスはモード感たっぷり!
よりカジュアルなドレスを披露したのは、『アイリッシュマン』に出演しているアンナ・パキン。ディオールのオートクチュール製花柄ドレスは、丈もくるぶしよりやや短めで、その辺のパーティーにも着ていけそう! 先述のローラ・ダーンに加え、リアルクローズとしても着用できそうなドレスでした。
『スキャンダル』で映画部門助演女優賞にノミネートされたマーゴット・ロビーが着用した刺繍が施されたメタリックビスチェとサテンのロングスカートはシャネルのもの。ゆるく巻いたダウンヘアといい、リング以外はノージュエリーといい、レッドカーペットにしてはカジュアルでリアルクローズに近いスタイルです。
同作ではカズ・ヒロ(辻一弘)の特殊メイクによって元FOXニュースキャスターメーガン・ケリーそっくりに激変、その演技で映画部門女優賞(ドラマ)のノミネーションを受けたシャーリーズ・セロン。彼女が纏ったクリスチャン・ディオールによる黒と緑のコントラスが際立つドレスは、昨年から今年にかけてストリートで大流行しているワン・ショルダー、コルセット、プリーツを用い、どこかリアルクローズ風。60年代に一世風靡したツイッギーのショートヘア、トレンドを意識したドレスのディテール、スクエアカットのダイヤモンドとエメラルドのティファニーのチョーカーがパーフェクトなバランスを奏でています。
さらに、ジャケットをさらりと羽織ったセレブがいたのも印象的。テレビドラマ「スキャンダル 託された秘密」のケリー・ワシントンが着用したアルチュザラのドレスは、ハーネスベルトをトップレスに纏いジャケットを羽織るというなんとも官能的な装い! ゴールデン・グローブ賞史上初めてのアジア系女性として『フェアウェル』で映画部門女優賞(コメディー/ミュージカル)を受賞したオークワフィナ(彼女がオスカーにノミネートされなかったなんて……!!)は、シャネルのラッフルブラウスにジャケットを羽織り、フェミニンながらもハンサムさを兼ねたスタイルで魅了しました。
■ジェンダーレス
ゴールデン・グローブ賞のレッドカーペットでは『フェアウェル』の監督ルル・ワンを始めパンツで現れた女性も多く、テレビドラマ「Fleabag フリーバッグ」のフィービー・ウォーラー=ブリッジのシャネルのツイードパンツスーツ、『リチャード・ジュエル』でゴールデン・グローブ賞とアカデミー賞両方の助演女優賞にノミネートされたキャシー・ベイツのスチュアート・ワイツマンのベロアスーツなどが目を引きました。特に、テレビ部門生涯功労賞「キャロル・バーネット賞」を受賞したエレン・デジェネレスの妻ポーシャ・デ・ロッシのセリーヌのスーツは、ネクタイにピンヒールが絶妙にセクシーで男前! 何が何でも観客の期待に応えてくれるであろうビリー・ポーターを始め、女性男性両方のジェンダーレスな衣装も、オスカーのレッドカーペットで見ごたえがありそうですね。
ペアルック
ゴールデン・グローブ賞のレッドカーペットで仲良く登場したカップルのペアルックもオスカーで期待できるかも。『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』を監督したグレタ・ガーウィグとゴールデン・グローブ賞映画部門作品賞(ドラマ)を含む5部門ノミネートされ、アカデミー賞でも作品賞を含む6部門ノミネートを受けた『マリッジ・ストーリー』の監督ノア・バームバック。プライベートではパートナーの二人によるオスカー作品賞カップル対決には大注目! とはいえ、女性監督のグレタが監督賞のノミネートを受けなかったのは保守的なアカデミー会員の女性差別があるのではと報じるメディアも。
ゴールデン・グローブ賞で熱々ぶりを見せつけたのは、映画部門男優賞(ドラマ)を受賞したホアキン・フェニックスと婚約者のルーニー・マーラ。ホアキンはレッドカーペットでポーズをとるルーニーに見とれたり、受賞スピーチでじっと見つめたり、授賞式の食事ではヴィーガン料理を一緒にプロデュースするなど、とてもラブラブで幸せそうな二人。ルーニーのオールブラックのレーシーなドレスとホアキンのブラックタキシードはぷちペアルックでしたが、アカデミー賞でのファッションはもちろん、二人のイチャぶりも絶対見たい!
2020年度のゴールデン・グローブ賞のレッドカーペットには #MeToo や #TimesUp などの政治的要素は見られませんでしたが、これまでの王道ドレスを好むセレブもいる一方、衣装にも自分らしさを貫くセレブが増えてきたような気がします。この背景には、セレブ自身がより身近な存在としてセルフプロデュースしていること、そしてSNS時代においてセレブと一般人の距離感が近くなったことなどがあるのかもしれません。
【参考】
※1…Cynthia Erivo Wears a $3 Million Bulgari Necklace to the Golden Globes: See Her Sparkling Look! - People
※2…12 Standout Trends That Ruled the Spring 2020 Runways - Harper’s Bazaar
※3…Billy Porter's Angelic 2020 Golden Globes Look Features $2 Million in Diamonds - E! Online
※4…Fashion Trends We’ll All Be Wearing in 2020, According to the Runways - Style Caster
此花わかプロフィール
映画ライター。NYのファッション工科大学(FIT)を卒業後、シャネルや資生堂アメリカのマーケティング部勤務を経てライターに。ジェンダーやファッションから映画を読み解くのが好き。手がけた取材にジャスティン・ビーバー、ライアン・ゴズリング、ヒュー・ジャックマン、デイミアン・チャゼル監督、ギレルモ・デル・トロ監督、ガス・ヴァン・サント監督など。 (此花さくや から改名しました)
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