『サヨナラまでの30分』新田真剣佑 単独インタビュー
役との共通点は探さない
取材・文:坂田正樹 写真:日吉永遠
新田真剣佑が演じる1年前に死んだミュージシャン・宮田アキが遺したカセットテープを偶然拾った大学生・窪田颯太(北村匠海)。何気なく再生ボタンを押すと、死んだはずのアキとひとつの体を共有することに。『OVER DRIVE』など共演作も多く、公私ともに仲のいい北村と本作でダブル主演を務め、「匠海との信頼関係があったからこそ成り立つ作品」と強調する新田が、まさに北村と一心同体で作り上げた作品への思い、さらには俳優としての揺るぎないスタンスについて真摯に語った。
ファンにとっては、特典映像満載の映画
Q:オリジナル脚本でしたが、ストーリーに惹かれた部分を教えてください。
アキがこの世にいたとき、死んでしまったとき、そして、颯太の体を借りたアキが再びバンドに加わったとき。それぞれが苦しみながらも成長していく姿を脚本を読みながら想像できたので、そこにグッと惹かれました。アキ自身も既に死んでしまっているけれど、颯太との出会いによってどんどん成長していく姿が見られて、本当にこの2人の出会いは奇跡なんだなと思いました。
Q:普段から仲のいい北村匠海さんと、とても呼吸が合っていましたね。
匠海とは、もう共演が4作目で、プライベートでもすごく仲良くさせていただいているので、心から信頼しています。だから、落ち着いて、そして広い視野を持って、アキ役に挑戦することができたと思います。
Q:2人の関係性がにじみ出ていて、それが本作に付加価値をもたらしている気がしました。
そう言っていただけるとうれしいです。信頼し合わないとできなかったシーンもたくさんあったので、颯太役が匠海で本当によかったなと思います。ちょっと素が出ちゃっているところもあるので、2人の関係性を知っているファンにとっては、特典映像満載の映画かもしれません(笑)。
Q:アキと颯太が、カセットを再生している30分だけ1つの体を共有するという設定についてはどう思いましたか?
アキと颯太が入れ替わるところがだんだんわかってくると、すごく面白いんですよね。でも、匠海が1人で2役をやっているので、撮影は大変だったようです。僕はアキを演じるだけでよかったので通常通りかといえば、実はそうじゃなくて、本番前に僕が全ての動きを一度演じて、その通りに匠海がやっていく、という作業があったんです。そういった意味でも、ちゃんとコミュニケーションが取れる2人の関係性があったからよかったかなと思います。
演じるのではなくアキを生きること
Q:アキというキャラクターに惹かれたところはありますか?
僕は役を演じるときに、あまり自分との「共通点」を探したりしないんです。だから、彼の魅力や惹かれる部分を探る、という意識よりも、とにかく「アキになろう」とするだけですね。映像として映っているアキが全てなので、ご覧になるみなさんがどう思われるか。そこが一番大切なんじゃないでしょうか。
Q:颯太は、変化という点ではメリハリがあってわかりやすいですが、アキは少しずつ心に変化が表れてくるので難しかったのでは?
前半では、死んでしまったけれど、この世に戻って来ることができて、颯太という人間と知り合うので高揚感はあります。でも後半にいくにつれて、みんなとしゃべることができないさみしさだったり、もどかしさだったり、じわじわ感じてくるんですよね。
Q:これ以上、仲間のところに行けない、見守ることしかできない「もどかしさ」が観ていてつらかったです。
そうですね。すごく苦しかったです。でも、「こんな状態の僕でも、何かできることはないか?」とアキはだんだんと思い始めます。それは、ある種の成長じゃないかと。颯太に対しても、最初は体を借りるだけの存在だったのが、彼の気持ちを考えてあげられるようになっていくところは、まさにそうですよね。
Q:アキを「生きる」というなかで、撮影中はどんな気持ちで過ごされたんですか?
意外と普通ですよ(笑)。雑談するときは雑談しますし、冗談を言い合うこともありますし。ただ、「本番!」と声がかかったときに、サッとアキに切り替えられるようにはしていました。もうアキが(自分のなかに)入っているので、「いつ、いかなるときに、何がきても大丈夫」という状態にはなっていましたね。
撮影は男子校の合宿のようだった
Q:ほぼ同世代の共演者が集まったわけですが、撮影の雰囲気はいかがでしたか?
男子校の合宿みたいで、めちゃめちゃ楽しかったです(笑)。ただ、演奏シーンがあるので、楽器の練習はみんな集中して、真剣にやっていました。やっぱり、観る人が観れば、ちゃんと演奏しているかどうかがわかるので。もちろん僕も完璧に演奏できる状態には仕上げました。もう完全にバンドマンです(笑)。
Q:萩原健太郎監督とはどんなやりとりがあったんですか?
現場に入って、撮影をしながらいろんな話をしました。やはり、一番神経を使ったのは入れ替わったときのシーンでしょうか。“颯太アキ”と僕らは呼んでいたんです。先ほどもお話しましたが、僕が段取りをして、その動き通りに匠海がやるという、とても特殊な現場でした。最終的には萩原監督が試行錯誤しながら導いてくれたという感じです。
Q:撮影中の印象的なシーン、エピソードなどあれば教えてください。
匠海と2人で話し合う長回しのシーンが印象的でした。何度も撮り直したので大変でしたが、2人の自然な表情も出ていて、結果、すごくいいシーンになったので思い出深いです。萩原監督が「おお、いい画が撮れた!」って一番はしゃいでいましたけど(笑)。
2019年はとにかく走り抜けた年
Q:今回のバンドマンもそうですが、常に挑戦しているイメージがありますね。
今回は、ギターとボーカルに挑戦しましたが、楽器を操るのは新田真剣佑ではなく、あくまでもアキ。だから、作品に必要なことに関しては、役に入る前にきちんとマスターしておくことをいつも心がけています。そういった下地ができた段階で役に入っていく感じですね。
Q:映画単独初主演(『ブレイブ ‐群青戦記‐』)が決まるなど、ますます快進撃が続きますが、昨年の総括と今年の目標は?
2019年は、とにかく走り抜けた年でした。この作品もそうですが、いろんな作品や監督、スタッフ、共演者と出会えました……。これは願望を込めてですが、少しは成長できたんじゃないかなと思います。今年もおかげさまで、とっても忙しい年になりそうなので、また全力で走り抜けたいと思います。
Q:ちなみに、俳優という仕事は上書きしていくもの? それとも積み重ねていくもの? あるいはストックしていくものですか?
カセットテープに毎回新しい音楽を入れて、それを1本1本ストックしていくイメージですかね。何かあったら取り出して聴いてみる、そんな感じです。
Q:何本くらい貯まったんですか?
うーん、どうだろう……(笑)。まだまだこれからです。
とてもシャイだけれど、言葉を選びながら自身の胸の内を真摯に語った新田。「アキや颯太が、苦しみながらも成長していく姿にグッときた」と話すその目には、俳優として生きる道を自ら模索し、自ら切り拓いてきたという自負が見える。「俳優は現場で学び、自分で探るもの」……揺るぎない信念を胸に、新田は今年も自らの意志で、いばらの道を突き進むことだろう。
映画『サヨナラまでの30分』は1月24日より全国公開